表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/49

23.先生③

 先生は冷や汗をハンカチで拭いた。手元にあるコーヒーを飲み始めた。


「私が殺し屋に狙われていると言うのか」


 里奈が先生に説明をした。


「先生を探すために色々、調べたんです。そうしたら、偶然にその話を聞きました」


 先生は「そうか」と言いながらコーヒーカップを揺らした。


 知樹は先生に聞いた。


「先生はメトロニック社【アメリカ】と何があったんですか」


「今井、三十分くらい、席を外してくれるか」と先生が里奈に言った。


「分かりました」と里奈は向こう側の席に移動した。


 知樹と健司は先生の話を聞いた。


「何から説明すればいいのやら、知樹君といったね。これから話すことは今井には内緒だ。守れるか」


 知樹はしっかりと頷いた。


「私は、マゾヒストなんだよ。分かるかい、マゾヒズムという言葉が」


「あの、エスエムとかのですか」と健司が聞いた。


「そうだね、そう考えて貰った方が単純でいいかも知れない」


「痛みは私に取って快楽なんだよ。とても気持ちが良いんだ」


「分かるかい、痛みが快感なんだよ」先生は同じような台詞を二回繰り返した。


「今井の虐めの件は、実は今井を庇った訳じゃないんだ」


「あれは自分が気持ち良くなる為にした行動なんだ。とても良かった」


 知樹と健司は唖然としていた。


「あの頃に、実はサイバーワールドで電子ドラッグを試していたんだよ」


「赤い雨は、その時に発動した。感染した者は皆、死んでいった」


「私は知らなかったんだよ、私が原因で赤い雨が感染するなんて」


「今井の虐めの件と時期が同じ頃だろうか」


「メトロニック社【アメリカ】に拉致されたんだ。それも良かった。拉致をされるなんて何をされるか分からないだろう。連中は実験の代償に三億円を支払ってくれた」


「そして実験が始まった」


「私には天然の電子ウイルスが宿っていた。それはどんなタイプのセキュリティソフトでも突破した」


「詳しいことは分からないが、科学者共はそれを操れると思ったんだ」


「でもね、結局、赤い雨の電子ウイルスは私の時にしか反応しないんだよ」


「しかし、先ほどの知樹君の表情は良かった、てっきり殴られると思っていたんだ。でも、それは違った。とても残念だよ」


 知樹が言った。「先生は死ぬのが怖くないんですか」先生はそれについて話をした。


「超一流の殺し屋に殺されるなんて、考えるだけでも、とても素敵な話じゃないか」


「あんたはどうかしてるよ」と健司が言った。


「そうだろうね。自分でもよく理解している」


「だから、邪魔をしないでくれ、私は殺されるのを望んでいるんだ」


「でも、里奈はそれを許さないと思いますよ」知樹が反論した。


「あの子は優しいからね。なるべく彼女の夢を壊したくないんだ」


 その瞬間、喫茶店の窓ガラスが全て割れた。知樹たちはガラスの向こうに大きな影を見つけた。全身義体の男が窓ガラスの向こう側に立っている。知樹はコンセントレーションを発動させた。男はノーペイン・ノーゲインだった。全ての部位を軍事用サイバーウェアにしている。一瞬、姿が消えたかと思うと知樹たちの席に立っていた。


鈴木武夫すずきたけおだな」確認を取ると先生に向かってソードブレードを向けた。「言い残すことはあるか」と先生に尋ねると、知樹がノーペイン・ノーゲインを殴った。だが知樹のパンチは威力が全然足りなかった。次の瞬間、知樹はノーペイン・ノーゲインからアッパーカットで殴られた。知樹が吹っ飛んだ。知樹は意識を失った。


 店内にいる客たちは全員、外に逃げ出していた。


 健司が先生を外に連れ出した。「里奈の前で先生を死なせない」と健司は先生の腕を掴んで走り始めた。目の前にある高層ビルの中に逃げこんだ。後ろから里奈が付いてきた。


「あれが、殺し屋ですか」里奈が健司に尋ねた。


「あぁ、洒落になってねぇ、とんでもない奴だ」


 三人はエレベーターを使って上の階に上り始めた。時間を稼ぐ為に。


「知樹が追いかけて来る筈だ。それまでみんなで時間を稼ぐぞ」健司がそう言うと「はい、分かりました」と里奈がそれに答えた。


 ノーペイン・ノーゲインは三人を追っていた。知樹は意識が戻るとコンセントレーションを発動させた。次は必ず仕留める為に。


 三人は最上階の展望室でノーペイン・ノーゲインを待ち受けた。ノーペイン・ノーゲインはエレベーターからゆっくりと姿を見せた。


「無駄な殺しはしない、そこをどけろ」とソードブレードを構えた。健司は二人の前に立って「上等だよ、このデク野郎」と凄んで見せた。ノーペイン・ノーゲインは黙って健司を殴った。健司は後ろに吹き飛んで意識を失った。知樹はエレベーターを上って最上階までたどり着いた。


「脳みそぶちまけろよ」とノーペイン・ノーゲインを殴った。


 物凄い音と振動がビルを揺らした。が、ノーペイン・ノーゲインの左手を破壊しただけだった。「残念だったな小僧」と知樹の顔を右手の軍事用サイバーウェアで殴ると知樹は顔面が潰れた。そして、頭から地面に倒れると完全に意識を失った。


 里奈は覚悟を決めていた。先生を守るために。


「先生は私が必ず守る」と言うとノーペイン・ノーゲインの足を蹴った。ノーペイン・ノーゲインは微動だにしなかった。


「今井、お前だけは先生が守るから」と先生が叫んだ。里奈を庇うように前に立った。


 ノーペイン・ノーゲインはソードブレードを先生の胸の中心に深く突き刺した。先生はとても幸せそうな顔をしていた。「先生」と里奈が泣き叫ぶ。先生は「良いんだ、これで、今井、お前は幸せになれよ」と言った。


 里奈にとって先生は最後まで先生だった。


 ノーペイン・ノーゲインは鈴木武夫すずきたけおを始末すると、静かにその場を離れた。

◆登場人物


木下知樹きのしたともき 十七歳、物語の主人公。


松田健司まつだけんじ 十八歳、ストリートギャング(バッズ)のメンバー。


今井里奈いまいりな 十七歳、女子高生。


鈴木武夫すずきたけお 三十三歳、元教員。


◆ノーペイン・ノーゲイン 年齢不明、アメリカでは超一流の殺し屋。名前の意味は「痛みなくして得るものなし」


◇設定資料


◇サイバーワールド(電脳世界)ネットワーク上で構築された仮想世界。非営利団体、サンセットシステム【アメリカ】が開発した。


◇サイバーグラス、電脳世界と人を繋げる装置。形状はブイアールゴーグル。


◇メトロニック社【アメリカ】アメリカ国内最大手の医療メーカー。医療ポッドの肉体再生が主流の老舗メーカー。


◇全身義体、人間の体を完全に機械サイバーウェアで置き換えたサイボーグのこと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ