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15.お嬢様の夏休み⑤

 「知樹、知樹」と亜希子が泣きながら知樹を揺らしていた。権三郎は伊集院猛いじゅういんたけしに連絡を取った。「もう身代金は大丈夫です」「はい、はい、その通りに」「では、失礼します」と言うと、今度はお嬢様に「知樹を病院に連れていきます。お嬢様はホテルに帰りましょう」と言った。お嬢様は「私も病院に行く、絶対に行く」と言うので、権三郎は仕方なく「分かりました」と了解した。次はバッズのメンバーに連絡をした。ホテルの周りに待機している三十人くらいのメンバーを解散させると、健司、火草、京子にお嬢様の護衛を指示した。


 健司は知樹を見て泣いていた。「無茶しやがって」知樹の顔はぐしゃぐしゃになっていた。火草が「何があったんですか」と権三郎さんに聞くと権三郎さんは一部始終をみんなに伝えた。みんなが無言になった。権三郎さんは「ひとつ、気になることがあってな」「知樹の右手だ」と言うと続けた。爆弾か何かで相手の頭を爆発させたんだ、勿論、知樹の右手も無事では済まないだろう。だが、知樹の右手は無傷だ。あれが特殊能力ギフトだとするなら相当、ヤバい能力だ。お前たちは現場を見ていないから、分からないだろうけどな。


 病院につくと知樹は集中治療室に運ばれた。医者は全治四日は掛かると告げた。ついでに健司も医者に見て貰った、一時間、治療をすることになった。内臓を少し傷つけたんだそうだ。「知樹は大丈夫なの」と亜希子が聞いてきた。火草は「もう大丈夫です、四日経てば元通りですよ」と亜希子を抱きしめた。「良かった」と亜希子はまた泣いた。


 健司が飲み物とお菓子を売店で買って来た。「亜希子、好きなの選びなよ」と言うと亜希子はコーラとポテトチップスを選んだ。どちらも亜希子は食べたことが無いそうだ。「美味しい」と呟く、健司は「な、美味いだろ」と鼻を高くした。健司の治療が終わると、知樹を残してホテルに移動した。


 火草が「次はどこに行く」と聞くと、亜希子は「みんなに迷惑を掛けるからホテルにいる」と言った。健司が「遠慮すんなよ、好きな所に行こうぜ」と言った。亜希子はしばらく考えて「水族館に行きたい」と言った。今日は遅いから明日、水族館に行こうと話が決まった。ホテルに泊まり込みで亜希子の護衛をした。健司たちは三時間ごとに交代で身体を休めた。


 札幌水族館には昼間に向かった。火草と健司が亜希子の傍に付いた。権三郎さんと京子さんは少し離れて待機している。亜希子がアザラシのコーナーでアザラシと遊んでいた。「可愛い、子供のアザラシだ」火草と健司に自慢げにアザラシの子供を見せてきた。健司は「こっちのジンベイザメの方が凄いぜ」と両手を広げてアピールをした。亜希子は「アザラシの方が可愛いから」健司が「サメの方がカッコいいだろ」と二人で何かの競争をしている。火草は「クラゲの方が可愛い」と小声で呟いた。誰もツッコミが居ないのね。と京子は笑って見ていたが、権三郎さんがあのロブスターは美味そうだな。と言うと「お前もか」と心の中でツコッミを入れた。


 午後になると全員、お腹が空いてきたのでバーガーショップに入店した。亜希子はどれにしたら良いのか、かなり迷っていた。知樹なら多分、ダブルバーガーだろうな。と健司が教えてくれたのでそれを選んだ。「美味しい」と亜希子が言うとみんなで笑った。亜希子はコーラがお気に入りのようだった。「このシュワシュワが」と言うと、火草が「分かる、すごい分かる」と頷いていた。


 それから三日間は動物園に行ったり、プールに出かけたりした。図書館にも出向いた。今日は知樹が退院する日だった。早速、知樹のいる病院へと向かった。向こうから知樹が歩いてくる。亜希子は知樹に飛び込んで、知樹を抱きしめた。「もう大丈夫なの、知樹」すると知樹が「こんなのかすり傷だよ」と笑顔になった。健司も火草もみんなで笑顔になった。今日の予定はどうなっている。と知樹が健司に聞くと今日は花火大会だ。と伝えた。そして「俺たちも海で花火しようぜ」と言った。


 女性三人が浴衣【レンタル】を着て来た。三人とも似合っていた。花火大会は大勢の人でごった返している。綺麗な夜空だった。大空に打ちあがる無数の花火。楽しい気持ちと切ない気持ち、両方が亜希子の胸に響いた。花火の音と共に。


 食い物の屋台で知樹がたこ焼きを買って来た。「一緒に食べよう」と二人でたこ焼きを食べた。亜希子は一口でお腹が一杯になった。初めての気持ちだった。健司が、買って来た焼き鳥を亜希子に渡そうとした瞬間、京子さんに止められた。それは権三郎さんが全部食べるわ。と言うと権三郎さんが焼き鳥を全部頬張った。健司は「俺の分は」となげいた。


 それから、みんなで花火をした。燃える花火はすぐに消えて行く。楽しいのだが、何か切ない。そうだ、夏休みは終了おわりだった。亜希子は海を見ていた。知樹は空が好きなんだ。と亜希子に伝えた。亜希子は何も言えずにいた。でも、勇気を出した。知樹の頬っぺたにキスをすると「ありがとう。知樹」と伝えた。知樹は「来年も花火を見よう」と言った。


 お嬢様の夏休みが終わった。空港で新しい三人のボディーガードが亜希子の護衛に付いた。知樹、健司、火草がそれを最後まで見送った。何だかんだでみんな、亜希子の事が好きだった。我儘なお嬢様だったが愛しかった。

◆登場人物


木下知樹きのしたともき 十七歳、物語の主人公。


松田健司まつだけんじ 十八歳、ストリートギャング(バッズ)のメンバー。


上野火草うえのひぐさ 十八歳、ストリートギャング(バッズ)のメンバー。


安達京子あだちきょうこ 二十二歳、ストリートギャング(バッズ)のメンバー。


時田権三郎ときたごんざぶろう 五十一歳、ストリートギャング(バッズ)のメンバー。


伊集院亜希子いじゅういんあきこ 十五歳、伊集院グループ、伊集院猛いじゅういんたけしの娘。

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