第七話 絶対に脱獄してやる
私、青山琴子。
うまれて初めて牢屋生活を送ることになりました。
「……どうしてこうなったんだ」
頭を抱える。
もうため息しか出ない。
結局衛兵たちは私の言い分を一切信じず、「怪しい術士が貴族のご令嬢を誘拐した」と決めつけてきた。
一生懸命に訴えかけたものの、目すら合わせてくれない。なんて薄情なやつらなんだ。
それにしても、あの名刺ひとつで、ここまで話がこじれるなんて。
社会人グッズ、なめちゃいけない。
(……ていうか、呪物なんかじゃないし!)
それでも一応、大人しく連行されてやったつもりだ。
だってペルが泣きそうな顔をしてたんだから。
それに、ペルは貴族のお嬢様ということだ。これ以上、私のせいで迷惑をかけるわけにはいかなかった。
――そうして連れてこられたのは、この場所。
思っていたよりもキレイな牢屋であった。
石造りの壁に鉄格子の扉。いかにも「牢屋です」といった雰囲気はあるけれど、トイレはちゃんと隅に設置されてるし、藁ではなく布団が敷かれてたのはポイントが高い。
ただし、私は“極悪犯”扱い。ということで――
「一人部屋……か……」
寂しさより、怖さの方が勝る。
誰かと話したい、せめて無実を主張したい。
再度深いため息を吐くと、向かいの牢の住民たちがこちらを見て――なぜか歓声が上がった。
「おおっ!」
「噂の極悪術士様だぜ!」
「やっぱオーラが違うなあオイ……!」
「……極悪術士様ぁ?」
なんだそれは。
なぜか歓迎ムードだった。
「ヒューヒュー!」
「よく見ると可愛いじゃねえか!」
「何したんだよ嬢ちゃん! 一人部屋なんてすげえなあ!」
「もしかして私、罪人仲間だと思われてるの?」
人相の悪い罪人たちをじっと見つめる。
どうやら、私のことを大罪人と勘違いしているらしい。
私はそんなつもりは一切ないと伝えようとしたが――
「私はただの会社員です。気づいたらこの世界にいただけで、本当に何も悪いことしてないんですってば!」
必死で叫んだところで、誰も耳を貸してくれなかった。
(大丈夫なんだろうか、これ……)
このままじゃ私も、向かいの罪人たちと同じく、牢屋の住民一直線だろう。
それにもう、誤解を解こうと頑張っても、駄目かもしれない。
――だから私は決意した。
「……脱獄、しよう」
ペルには悪いけど、今は自分の身を守るのが先。
私はここで終わるわけにはいかない。
元の世界には、大量の仕事を残してきているのだ。
幸い、運動神経にはそれなりに自信がある。
毎日ぎっちぎちのスケジュールをこなしてきたんだから、体力だって人並み以上のはずだ。
(衛兵たちは拳銃なんて持ってなかったし、術士を警戒しているってことは、術士じゃないはずよね)
術士というのはおそらく魔法使いのようなものだろう。
――つまり、私に向かって火の玉を投げてくるとか、そういう非現実的なことはしてこないということだ。
次に牢屋の扉が開く瞬間。
それが、私の脱出タイミングだ。
やってやる。
(このまま、誤解されたままで、拘留されてたまるもんか……絶対に、絶対に帰ってやるんだから……!)
私は布団に寝転び、無機質な天井を見上げながら、決意を固めた。