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誰を選んでも後悔しそうな異世界ラブコメ  作者: 谷口凧
第二章:二十七歳無職、仕事をください
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第二十九話 ずっと一緒にいたい

 貴族だけが通える名門校。その校舎は王城のすぐ近くに建っている。

 ペルも、そんな特別な学校に通うひとりだった。


 今日は、そこでペルと昼食をとる約束をしている。


 私は今、校内にある大きな木の下へ向かっているところだった。

 事前にペルが警備員に話を通してくれていたおかげで、学校にもかかわらず、スムーズに中へ入れた。


 目的の場所に着いたけれど、ペルの姿はまだ見えない。

 

 木陰では風が葉を優しく揺らし、やわらかな陽射しが差し込んでいる。昼休みを過ごすには、ちょうどいい場所だった。


 「コトコお姉さん!」


 可愛らしい声が響き、振り返る。

 制服姿のペルが、こちらへ駆けてくるのが見えた。


 胸元には白いリボン。その中央に縫い込まれた宝石のような石が、きらりと日光を反射している。


 清楚で可憐なその姿からは、名家の令嬢らしい気品が感じられた。

 でも、弾む声と笑顔には年相応の無邪気さがあって――

 本当に、なんて可愛い子なんだろう。


 ペルは私の隣にちょこんと座ると、


 「お昼、作ってきました!」


 と、嬉しそうに布包みを差し出してくる。私は思わず目を瞬かせた。


 「えっ、ペルの手作り!?」


 「はい! 一応、料理長と使用人が見守ってましたけど……作業は全部、私がやりました!」


 「ありがとう、すっごく嬉しい! 学校もあるのに、早起きさせちゃってごめんね」


 「いいえ! 私、コトコお姉さんのためなら何でもできますから!」


 あまりに眩しい笑顔に、思わず目がくらみそうになる。

 

 私みたいな素性の知れない異世界人を慕ってくれて、お弁当まで作ってくれるなんて。優しすぎて泣けてくる……。


 木陰に敷いたシートの上、ふたりで並んでお弁当を開けると――見た目も香りも、まるでお店にいるようだった。

 

 「いただきます!」


 元気よく手を合わせて、さっそくサンドウィッチにかぶりつく。

 横でペルが、私の反応をわくわくしながら見つめている。


 「すごい……美味しい……」


 「ほんとですか!? やったぁ……!」


 ふわふわのオムレツ、香草の効いたお肉料理、彩り豊かな野菜のソテーまで。

 どれも手が込んでいて、完全にプロの味だ。


 「ありがとう、本当にありがとう!」


 私の言葉に、ペルは「へへんっ」と得意げな笑みを浮かべた。子どもらしくて、でもとても十三歳とは思えない頼もしさもあって――


 (……こんな幼い子にお弁当作ってもらう二十七歳って、どうなの?)


 美味しさに感動していたはずが、急に冷静なツッコミが頭をよぎる。


 (しかも、学校の昼休みに十三歳とお弁当食べてる二十代女性……これ、絵面やばくない? 私、通報されない?)


 ペルの方を見ると、ニコニコしながらもぐもぐ食べている。この笑顔は、どんなことがあっても守りたい


 思えばペルにもたくさんお世話になっている。

 できることがあれば、私だって何だってしてあげたい。


 まずは――


 「次は私がお弁当作ろうかな? いつもペルにはお世話になりっぱなしだし!」


 そう言うと、ペルがぱっと目を見開いた。


 「本当ですか!?」


 「うん、任せて。私の世界の料理を振る舞っちゃうよ! 次のお昼、いつが空いてる?」


 「明日です! 明日、絶対一緒に食べたいです!」


 食い気味の即答だった。嬉しそうに両手を握りしめてはしゃぐ姿に、私の胸がぽわっと温かくなる。


 「じゃあ、明日ね。私、がんばっちゃうから!」


 「楽しみです!」


 はしゃぐペルを見ているだけで、なんだか心が満たされていく。


 (可愛すぎる……この子は絶対、私が守る)


 私はそう心に決めた。


 その後も「美味しい美味しい」と言いながらお弁当を食べていると、ふいにペルが「あっ」と声を上げた。


 「そういえば、コトコお姉さん。お仕事のお話ってどうなったんですか?」


 その一言に、私はニヤリと笑ってフォークを置いた。


 「よくぞ聞いてくれた、ペル。実はね、昨日の夜ノクスに掛け合ったの。

 そしてついに! 今日から私は書庫の整理係を申し付けられました、青山琴子と申します。以後よろしく!」


 座ったままキザにお辞儀をしてみせると、ペルは楽しそうに笑ってくれた。


 「よかったです、私まで嬉しい! 私にできることがあったら言ってくださいね!」


 本当に、自分のことのように喜んでくれる。


 (どうやったら、こんなに素直で優しい子に育つんだろう)


 私は「ありがとう」と言って、サンドウィッチに手を伸ばした。


 「ほんと美味しい! ペルって本当に料理上手だよね」


 「えへへ……嬉しいです。貴族の娘で料理が好きって、ちょっと珍しいので、あんまり人に言えなくて。

 でも、コトコお姉さんはそういう偏見とかないし、優しいから……私、コトコお姉さんが大好きです!」


 そう言って、私の肩にぴったりくっついてくるペル。ふわふわの赤毛が首元をくすぐる。


 だけどその温もりが、やけに愛おしく感じた。


 (……この子、家では甘えられないのかもな)


 一人が好きだと言っていたけど、もしかしたらそうせざるを得なかっただけかもしれない。

 小さな背中に、どれほどの孤独と我慢を背負ってきたんだろう。


 (私みたいな大人が、この子をいっぱい甘やかしてあげないと)


 元の世界に帰るその日まで、私はこの子の味方でいたい。


 「私もだよ」


 そう言って、ペルの頭をそっと撫でた。


 「私、コトコお姉さんと、ずっと一緒にいたいです。ノクスお兄さんみたいに、宮廷術士になれば……一緒にいられるのかな」


 私にもたれかかるように、ぽつりと呟くペルの声は、どこか諦めたようにも聞こえた。


「ペルは、将来宮廷術士になるんじゃないの? ヴェルディア家って、すごい術士が多い家なんでしょ?」


 「……ペルは将来宮廷術士になるんじゃないの? ヴェルディアってすごい術士ばっかりのお家なんだよね?」


 率直に尋ねてみると、ペルはゆっくり首を振った。


「私は……たぶんなれないと思います。本家の人間には、また別の役目があるみたいで」


 その表情には、はっきりとした影が落ちていた。

 

 貴族の事情。それも、名家の本家ともなれば、私の想像なんて追いつかないくらいに重いのだろう。

 

 あまり踏み込むのもよくない。そう思って、私は口をつぐもうとしたけれど――


「……家の人たちは、私にちゃんとした“本家の令嬢”になってほしいみたいで。

 立ち居振る舞い、言葉遣い、将来どこの家に嫁ぐか……そんな話ばかりなんです」


 ぽつり、ぽつりと零れる言葉は、年齢に似合わないほど大人びていて。


 (この子に、どれだけの重荷がのしかかってるんだろう)


「本当は、料理も魔術の勉強も、もっといっぱいやりたいことがあるのに……家が許してくれないんです。

 普通の家に生まれてたら――って、たまに悲しくなっちゃって。それで、家を飛び出して森の小屋に住んで……」


 そして、私の顔を見つめながら、微笑んだ。


「コトコお姉さんに初めて会った時、本当に嬉しかったんです。私が好きな本に出てくる、勇敢な女性にそっくりで……。

 私も、ああなっていいのかもって。……勝手に、希望を持っちゃったんです」


 私は、ペルの頭をそっと撫でながら答えた。


「ペル。私は、ずっと味方だよ。

 辛いことがあったら、いつでも話して。どんなときも、味方だから」


 そして、ふっと笑いながら言葉を添える。


「――それに、どうしても逃げたくなったら、一緒に逃げよう。……何だったら一緒に元の世界帰る?」


 ちょっと冗談も混ぜてみせると、ペルはぱっと目を輝かせて、勢いよく私に抱きついてきた。


 その反動で、ふたりしてシートをはみ出して、芝生の上に倒れ込む。


 「わあっ」


 「きゃっ……!」


 しばらくして、顔を見合わせた私たちは、声をあげて笑った。


 ――青春って、こういう時間だったなあ。

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