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誰を選んでも後悔しそうな異世界ラブコメ  作者: 谷口凧
第一章:異世界転生?帰りたいけど帰れない
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第二十三話 悪役なんて言わないで

 男は涙ぐみながら、私の手を取り、言った。


 「……俺、もうこんな仕事やめます。奴隷なんて、間違ってました。廃業します」


 (……え?)


 どうやら、奴隷を扱う仕事をしていたらしい。

 あまりに急な態度の変化に、私はぽかんと立ち尽くしてしまった。


 「そ、そう……」


 とりあえず言葉を絞り出す。が、それ以上はどうしていいかわからなかった。


 男の仲間たちも、なぜか神妙な顔でうなずき合い、連れていた奴隷たちの首輪を次々と外していく。


 「お前たちの仲間も、すぐに解放する。国に帰って、幸せに暮らせよ」


 そう声をかけると、獣人たちは歓声を上げ、目を潤ませながら互いに抱き合った。


 その様子を見届けた男が、ふいにぐいっと顔を近づけてくる。


 「貴女様のおかげで目が覚めました。……人間にとって何よりも大切なもの、それは“愛”ですよね?」


 その顔は、気味が悪いほど笑っていた。

 けれど、目は笑っていなかった。むしろ、深い闇を湛えているように見えた。


 ぞくりと、背筋が凍る。


 (さっきと雰囲気が違う、別人みたいだ。まるで何かに操られてるみたい。怖っ……)


 反論するのは危険だと察し、私はぎこちなく頷いた。


 「……そ、そうね。愛……は大事ね……」


 自分でも声が引きつっているのがわかる。


 周囲の視線、ざわつき、拍手、歓声。

 あまりに注目を浴びすぎて、まったく気が休まらない。


 この場から一刻も早く離れたくなった私は、ノクスのもとに駆け寄り、小声で囁いた。


 「もう帰ろう。気まずすぎるよ」


 ノクスは静かにうなずき、すっと手をかざす。

 瞬間、風が巻き起こり、視界がぶれる。


 ――次に目を開けたとき、そこは宿の部屋だった。


 「えっ、なにこれ!?」


 「転移です。あまり多用はできませんが……」


 不思議な力に少し感動しつつも、興奮が冷めきらないまま、私はソファにへたり込んだ。


 「にしてもさあ、何だったのあれ……。なんか、普通に怖かったんだけど」


 「……コトコ様の力かと思われます」


 「えぇ……殴ったから発動したとか、そういうやつ?」


 「いいえ。手を出されていない周囲の人々にも影響があったので、それとは異なる要因かと」


 私はしおしおと項垂れ、ノクスはどこか嬉しそうに、しかし優しく見守っていた。


「何にせよ、これで大方のことは明らかになりました。

 コトコ様には、他の異世界人同様、特別な力がある。

 そしてその力は、他人の思考に影響を及ぼすものです」


 他人の思考に影響を与える――つまり、洗脳、支配、誘導、扇動。

 名称がどうであれ、人の心に介入するなんて、物騒な力だ。


 「なんか、悪役みたいな力だね」


 思わず口に出してしまった言葉に、ノクスは目を瞬かせた。きょとんとした顔が妙に綺麗で、ちょっとだけイラッとする。


 「では、正義の味方の力とは、どのようなものでしょう?」


 「うーん、やっぱり光に関するもの? あとは治癒の力とか……」

 

 ノクスは少しだけ首をかしげて、穏やかに続けた。


 「コトコ様。光の力は本当に正義の力でしょうか?」


 「……うん。まあ、希望とか、浄化とか……そういうイメージじゃない?」


 ノクスは、ゆっくりと首を横に振った。


 「それは、使い方を善意で限定した場合の話です。

 たとえば、光を集束すれば、皮膚を焼き、筋肉を焦がし、網膜を潰すことができます。

 また、まばゆい閃光で錯乱させ、脳に異常を起こさせることもできます。

 あるいは幻覚や信仰を植え付ける手段として光を使えば、自分の意思で従っていると錯覚すら生ませられるのです」


 「光の力って洗脳に使えるんだ……」


 「そして、治癒の力だって悪意を持って使えば恐ろしいものですよ。

 たとえば、傷を与えて、すぐに治して、また傷を与える。

 これを繰り返せば――どれだけ痛みを与えても死なせない、永遠の拷問になりますから」


 「それは、怖いね……」


 「そうです。力そのものに、善も悪もありません。

 使う者の意思と、どう使うかで決まるんです。

 現にコトコ様は、悪意ある者たちを改心させたではありませんか。私は、その行動を誇りに思います」


 そう言ったノクスは、ほんの少しむっとした顔をしていた。

 あの完璧で上品なノクスが、感情をあらわにするなんて。

 

 「だから、悪役なんて言い方はやめてください。コトコ様の力を、そんなふうに呼ばないで」


 初めてみた表情だった。

 

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