表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰を選んでも後悔しそうな異世界ラブコメ  作者: 谷口凧
第一章:異世界転生?帰りたいけど帰れない
20/29

第二十話 輝きの影にあるもの

 宿に荷物を置いたあと、私たちは歩いて浮遊庭園へ向かうことになった。

 ノクスの話では、宿から庭園までの距離は短いという。


 宿を出ると、石畳の通りはすでに賑わっていた。

 華やかな衣装に身を包んだ人々が列をなして歩いており、そのほとんどが浮遊庭園の方へ向かっているようだ。


 私もその流れに混ざりながら、思わず周囲を見回してしまった。


 (なんか……ザ・お金持ちって感じの人ばっかり)


 ドレスも宝石も、ひとつひとつがまるで舞台衣装。

 その中を歩いている自分が、まるで異物みたいに感じる。

 あまりジロジロ見ないようにと自分に言い聞かせながらも、つい視線が泳ぐ。


 少し歩くと、視界の先に信じられないような光景が広がった。


 空中にいくつもの島々が浮かんでいて、それぞれの間にはガラスのように透き通った橋がかかっている。


 「あちらが、浮遊庭園フローレラスです」


 あまりに美しい光景に、思わず息をのんだ。

 まるで、空に浮かぶ楽園。

 花畑の上では、光を反射する羽をもった蝶のような生き物が舞っていた。


 ――こんな景色、元の世界にあるはずがない。


 その瞬間、私は改めて思った。

 

 (本当に、異世界にいるんだ)


 ほんの少しだけ、胸があたたかくなる。

 ここでは、今まで知らなかったものに出会えるかもしれない。

 そんな期待が、ゆっくりと心に満ちていく――はずだった。


 ジャリ、と金属が石畳を擦る音が聞こえた。

 思わず、音の方へ目を向ける。


 数人の貴族風の男女が、ゆったりと歩いていた。

 そして彼らのすぐそばには、鎖に繋がれた存在がいた。


 動物のようで、けれど明らかに人の形をしている。

 獣の耳、鋭い目、羽を背に抱えた者――

 

 虎や馬、鳥のような姿をした彼らは、皆、首に重そうな首輪をつけ、引きずられるように歩かされていた。


 (なに……あれ……)


 血の気が引くような感覚。

 まるで夢から叩き起こされたように、現実が刺さってくる。


 胸の奥がざわざわと泡立ち、不快感がどんどん膨らんでいく。

 息を呑む間もなく、そのうちの一人と――目が合った。


 生気のない瞳。浮き出た肋骨。ぼさぼさの毛並み。

 どこをどう見ても、尊厳なんてものは微塵も残っていなかった。


 思わず足が止まり、視線を逸らせなくなる。

 見てはいけない。でも、見ずにいられない。


 「……獣人です。この世界では主に、奴隷として扱われています」


 ノクスの静かで抑えた声が、私の思考を引き戻す。


 「奴隷……」


 そうだった。この世界には、こういう文化があるんだ。

 確か、ペルと一緒にいたとき。私が奴隷と間違われたことがあった。

 そのときは驚きこそしたものの、それ以降、深く考えることはなかった。


 こうして、現実として目の前に突きつけられるのは――初めてだった。


 (酷い……)


 明らかに栄養失調の獣人たち。

 どれだけ花が咲き乱れていても、空が青く澄んでいても、

 この景色は、救いようがないほどに残酷だった。


 (まさか……これを見せて、感情を揺さぶろうとしてる? 力を目覚めさせるために?)


 そんな考えが、ふと頭をよぎった。

 この旅を提案したのはノクスだ。私――異世界人の力を“起こす”ことが、彼の目的なのだから。

 可能性は、ゼロじゃない。


 思わずノクスを睨みつけた。


 だけど――


 彼の目もまた、真っ直ぐに獣人たちを見つめていた。

 その表情には、怒りの色が、はっきりと宿っていた。


 (……違う、か)


 安堵ともつかない感情が、胸の奥で揺れる。

 しかしその波紋は、気分を晴らすにはあまりにも小さかった。


 せっかく楽しみにしていた観光が、こうも簡単に最悪になるなんて。


 異世界、案外いい場所かも――なんて。

 そんな幻想を、ほんの少しでも抱いていた自分が馬鹿みたいだった。


 美しい景色の中で、きらびやかに笑う人々。

 誰も獣人たちを見ていない。見ていながら、何も感じていない。


 私はただ、顔を顰めたまま、歪んだ楽園の風景を黙って見つめていた。


※次回のお話ですが、ちょっと重い内容になります。

暴力・差別的な表現がありますので、苦手な方は無理なさらないようご注意ください。申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ