第十九話 まさかの同室ですか?
「そろそろ着きますので、降下しますね」
運転席のノクスが、あいかわらず平然とした声でそう告げた。
「ちょ、待っ――」
言い終わる前に、車がぐいっと斜め下に傾いた。
「うわああああああああ!!!」
急降下する車内で、内臓が上に引っ張られる感覚。喉の奥から悲鳴が漏れた。
ぐらりと体が浮いて、まるで宇宙に投げ出されたかのようで――
思考が吹き飛ぶ中、私はアシストグリップに全力でしがみつく。
隣のノクスはというと、
「大丈夫ですよ。慣れると気持ちいいんです」
とか言って、いつもの微笑みを浮かべたまま。
(コイツっ……!)
ジェットコースターの急降下そのままに、車はふわりと地面に着地した。
私の魂は、ほんのちょっと遅れて体に戻ってきた気がする。
到着した場所は、宿の敷地内らしき駐車場。
私は足元ふらふらでドアを開け、ノクスに支えられるようにして外へ出た。
(え、いい匂いする……)
彼の肩に手を置いた一瞬、ふわっと鼻に届いた香りに、思わず無言になる。
甘くてすっきりした、上品な香り。どこか知的で、鼻に心地良かった。
(……本当に、何から何まで恵まれてるな)
そんなことを思いながら、ふらつく足で宿の正面玄関へと向かう。
建物は、想像を超えて豪奢だった。
天井は高すぎて落ち着かないし、魔石だか宝石だか知らないけど煌めきすぎていた。
なんというか、「高級ですよ!」と全力で主張してくるような外観だった。
中に入ると、出入りしているのは品のいい貴族風の人たちばかり。
その人々が、ノクスの姿を見て黄色い声を上げ始める。
「なんて麗しい!」「どなたかお名前を聞いて頂戴」「あのお方って……!」
ちらちら、じろじろ、なぜかこちらにも向けられる視線。
私はというと、完全に“注目の彼のお供”という立場で、場違い感まる出しだった。
(うわ……視線痛い……)
肩にじんわりと熱がこもるような、あの感じ。
正面から誰かに見られてるわけじゃないのに、なぜか全身がそわそわする。
居心地の悪さが、じわじわと皮膚の下から広がっていくようだった。
無言で目をそらしていたところへ、宿のスタッフらしき人が現れた。
「ようこそお越しくださいました!」
びっくりするほど丁寧な所作と笑顔で迎えられる。
荷物はあっという間に預けられ、そのまま部屋へと案内された。
通されたのは、ひときわ豪華なスイートルームのような部屋。
いくつも部屋が繋がっていて、ベッドも大きく、窓からの眺めも最高。
「なにこれ、住めるじゃん……」
ぽつりと本音が漏れた。
元の世界では、こんな部屋に泊まるなんてまずありえなかった。そもそも時間がなかったし。
ちょっとテンションが上がって、キャーッと小さく跳ねながら部屋に入る。
しかし、後ろから予期せぬ足音が。
振り返ると、ノクスがあたりまえのような顔で部屋に入ってきていた。
「え? 荷物なら自分で持って入るから、貴方は貴方の部屋に――」
言いかけた私に、ノクスはやわらかな笑みを向けて言った。
「私も、こちらに泊まりますので」
「えぇ……」
思わず変な声が漏れた。
ノクスはそのまま、いつものトーンに切り替えた。
「この観光地には、諸外国からも多くの方が来られますから。有事の際にコトコ様を全力でお守りするには、すぐそばで控えるのが最適かと」
「……そ、そう」
至って真面目な表情でそう言われてしまっては、断る理由もない。
警護のため、というのは納得できるし、こんな高待遇を受けている以上、文句を言うのも気が引ける。
(まあ、別に困るわけじゃないし……大丈夫だよね? それにこんなハイスペック人間が私に興味持つわけないし……)
心の中でぶつぶつ言いながらも、自分に言い聞かせるようにソファに腰を下ろした。
ノクスはというと、窓の外を確認しながら、さりげなく立ち位置を調整している。
その姿は、まるで騎士のように頼もしく――
……いや、まだ気を抜いちゃいけない。
この世界に慣れすぎる前に、帰る方法をちゃんと見つけなきゃ。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
のんびり回(?)が続いてしまいましたが、
次回あたりからいよいよ本筋が動き出します。
しばし前置きにお付き合いいただいた皆さま、本当に感謝です。
次もよければ、覗いていってください。




