表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/3

2. 罪? わたくしが美しすぎることかしら?

https://47211.mitemin.net/i969218/

扇子付きイヴリース嬢


 地獄の番犬と名乗る、巨大三毛猫にゃるぺろすの背に、優雅に横座りをしながら、地獄の受付へと向かう、イヴリース嬢。


 (この猫、中々の乗り心地ね。案外使えますわ。)


 どうやらにゃるぺろすの走りには、満足しているご様子で、微笑を浮かべている。


 このご令嬢、黙っていれば絶世の美女なのだが……。



 「着いたニャ!」



 「あら、随分みすぼらしいわねぇ……気品の欠片もありませんわ。」


 口を開くとこの通りなのだ。



 「わたくしの様な高貴で美しいものを、このような汚らしい場所に案内するだなんて。全く……。センスを疑いますわ。他にしなさいな。」



 朽ち果てた古城という表現がぴったりな建物。


 薄黒く汚れ、ヒビ割れた外壁には、枯れ腐った蔦がそこかしこに巻き付いている。冷え切ったような印象を受けるその姿は、終焉を体現しているようだった。


 「ニャ?! ニヴルヘイムの受付はここニャ! 受付しないとダメニャんニャ! このまま乗ってるといいニャ! オレサマ連れてくニャ!」



 にゃるぺろすは必死の様子だ。どうにも目の端がキラリと光って見えた。



 「全く……。仕方ありませんわね。わたくしの優しさに感謝なさいな。……お行きなさい。」



 ふわふわの扇子をはためかせ、やれやれといった様子のご令嬢。にゃるぺろすの背に乗せられたまま、建物の中へ。




 その建物の中はといえば。


 何故か天井のそこかしこから、少し錆びた鉄鎖が垂れ下がっている。風も無いのにジャラジャラと音を立てる鎖は、意思でも持っているかのようだ。


 そして、どこかから……薄らと「お゙ぉ〜……」という呻き声の様な物が響いてくる。消え行く魂の断末魔なのだろうか。


 石壁の廊下、扉は鉄格子。その様相は古城の地下牢といえば近いだろうか。時折、何処かから漂う腐臭や刺激臭が鼻をつく。



 「高貴なわたくしには不釣り合いねぇ……。」


 ご令嬢は、お気に召さないご様子だった。



 「受付はここニャ! やっと着いたニャ!」


 朽ちた古城の一角のその部屋。

 意外にもお役所然とした、堅苦しい雰囲気で、沢山の書類棚、事務机が奥にあり、手前には受付用カウンターがある。



 「新しい住人連れてきたニャ!」



 受付に立っていたのは、骸骨だった。


 その骸骨は、にゃるぺろすを確認すると、持っていた書類の束をパラパラと捲る。



 「あ〜にゃるぺろすか。えーと、今日のラストは……37564番か。」


 そして、一頻り書類に目?を通すと、声を上げる。



 「37564番!」


 「呼ばれてるニャ」


 微動だにしないご令嬢に、そっと話しかけるにゃるぺろす。


 イヴリースは、口元を扇子で覆ったまま、目線だけ向ける。



 「……? わたくしはイヴリース・ノート・ヘルグリンドという高貴な名前ですが?」



 さも当然、と言わんばかりのイヴリース嬢。

 更に声を上げる骸骨。


 「37564番! いないのかー?」



 業を煮やしたにゃるぺろすは、ぐいぐいと頑張ってイヴリースを急かす。


 「ほら、呼ばれてるニャ! 早く行くニャ!」


 「あら、押さないでくださいまし。失礼な猫ね。……その大きな耳、千切られたいのかしら。」



 「怖っ?! ニャに言ってるニャ?! 耳は大事ニャ!」


 前足で両耳を押さえ、ぷるぷると涙目のにゃるぺろす。



 「あらそう。でしたら高貴なるレディの扱いには、くれぐれもご注意なさることね。」


 目の端に光を灯しながらも、何とか受付カウンターまでイヴリースを押しやった、にゃるぺろすだった。


 

 「こいつニャ……あとは任せたニャ……」


 「む、貴様が37564番か」



 やっと来たか、とでもいいたげな骸骨。


 その無機質な声は、冷徹な響きを伝える。


 

 骸骨は書類を手にしたまま、イヴリースを見据え? た。


 その目の奥は、闇しかない。



 「違いますわ。イヴリース・ノート・ヘルグリンドですわ。」



 ご令嬢はご立腹なのか、胸を仰け反らせている。


 高貴を自称するだけはあるのか、霊峰の様にご立派な膨らみであった。神々しいまでのスタイルである。やはり黙っていれば、彫刻の様な美しさなのである。黙っていれば。



 「む……まぁいい。え〜……罪状は……どれどれ……」


 そんなご令嬢の様子に、少し戸惑う骸骨は、再度書類を確認しているようだ。



 「あら、罪……と仰いまして? わたくしが美しすぎることかしら。」



 「あ〜デリング家のエイルを……」


「あら……? あのクソ売女を葬り損ねたことかしら?」



 「お? 妹のデーリアとダグ家のヴェイグに?」


 「あら、無能の愚妹と脳筋クソ男がどうかしまして?」


 

 「ふむふむ、殺されて……ここへ堕ちた……か。」


 骸骨のその一言に、途端に顔色を変えるご令嬢。


 「くっ……! あなたっ! このわたくしに向かって! あの様な無能どもに! 殺されたですって?! 屈辱ですわッ! わたくしがッ! 奴等如きに! 負けようはずがありませんわッ!」


 ご令嬢は右手に持つ、ふわふわ付きの扇子を、またしてもギリギリと握り締め、床を踏み鳴らしている。余程プライドに触ったらしい。



 「いや……ここ、冥土……」


 呆気に取られた骸骨。そしてすぐさまスンとなるご令嬢。


 「あら? あなた、新しいメイドなのね。随分とみすぼらしいわねぇ……。骨……しかありませんわ。高貴なわたくしに仕えるには、もっと美しくないと。認めてあげませんわよ。」



 フンッと鼻を鳴らして吐き捨てるイヴリース。


 「いや、メイドじゃなくて……冥土……」


 「なんですか? 不満ばかりもらして。そのようなことで、このわたくしのメイドが勤まるとお思いで? 出直して来なさいな。」


 腕を組み、プイと顔を逸らすイヴリース。

 困惑が限界突破したらしい骸骨は、叫んだ。


 「は、話を聞けーぃ!」


 「あら、このわたくしに命令をなさる……。随分と命知らずな方ですわ。」



 ギラりとイヴリースの眼光が――骸骨に鋭く突き刺さる。


 「な……?! おい、にゃるぺろす! こいつ何なんだ?!」



 困り果てた骸骨は、にゃるぺろすに縋るが……


 「ニャ? オレサマよく知らないニャ。それよりさっさとルール説明するニャ。オレサマもう帰りたいニャ。定時過ぎてるニャ。」


 にゃるぺろすも、それなりにマイペースだった。



 「……くっ! ……ま、まぁよし。ニヴルヘイムのルールを説明するぞ」


 骸骨は、とにかく話を進める方向に舵を切った。


 

 が……



 「ルールですって? ルールはわたくしが決めますわ!」


 イヴリースは、勝ち誇っているご様子である。



 「いや、最低限知らないと困るのは貴様だろ……」


 カタカタと小さく音を立て、肩を竦める骸骨。

 その声色は震え、泣き出しそうな程だ。

 ただ、涙が出るのかは、甚だ疑問ではある。


 「あら、わたくしを縛ろうだなんて。束縛する男は嫌われますわよ?お里が知れようというものですわ。」


 「縛ろうというものではない。むしろニヴルヘイムは、地獄の楽園だ。願えば食える。願うだけで、食いたい物が現れるのだ。」


 「あら、優秀なメイドですこと。」


 イヴリースは感心した様子で、目を丸くして、扇子で口元を覆う。



 カッと人差し指を立てる骸骨。


 「もう一つ! ニヴルヘイムに堕ちた全ての者は、冥王様の贄である。育ちきったら喰われる。以上、二点だ。」


 やり切った……! という心の声が盛れんばかりの骸骨である。ガッツポーズをしそうな勢いだ。



 「な……な……なぁんですって〜!? このっ! 美しく! 高貴な! わたくしをッ! く……喰う……ですってぇ〜?! 許せませんわ!! この様な屈辱……ふふふ……いいわ。いいですわ。わたくしがッ! 逆にッ! 喰らい尽くしてみせますわッ! 地獄の楽園? 満喫してあげますわ!! おーっほっほっほっ!!」



 イヴリースのその高笑いは、広い広いニヴルヘイムの果てまでも響くようだった。


 

――



 半身で、首だけ振り返り、イヴリースの背を見送る骸骨。もう二度と来るな……という声が聞こえてきそうな程の哀愁を漂わせている。


 そして、イヴリースの受付が終わったのを見届けた後、コソコソと歩きだそうとしていたにゃるぺろすだったが……


 「あら、猫。どちらへお行きになるのかしら?」


 その行動は、いち早くご令嬢に捕捉された。とてもいい笑顔でにゃるぺろすに話しかける。

 絵面だけならば、愛らしい動物を愛でる美女である。



 「ニャ? オレサマ仕事終わったから帰るニャ。今日はきさまのおかげでサビ残だったニャ。散々ニャ。」


 「あら、お仕事終わりですの。では、お暇ですわね。」


 イヴリースは、とてもいい笑顔だ。地獄に舞い降りた天使の様である。見た目だけは。


 

 「ニャ?!」


 魂が抜けた様に飛び上がって驚くにゃるぺろす。魂消(たまげ)る、とはよく言ったものである。



 「さ、猫。お乗せなさいな。」


 イヴリースは手に持つ扇子で、にゃるぺろすの背を指し示す。



 「ニャ?! い、嫌ニャ! オレサマ帰るニャ! あと、オレサマ地獄の番犬ニャ!」


 バタバタと、必死の抵抗を試みるにゃるぺろす。


 

 だが、イヴリースには効かなかった。


 「あら、この高貴なるわたくしを、エスコート出来る栄誉に与れるのですよ? 光栄に思いなさいな。それとも、その大きな耳……千切られたいのかしら。」


 「ニャ?! や、やめるニャ……!」


 たじたじと壁際に追い詰められるにゃるぺろす。



 「さ、猫。お乗せなさい。」


 やはりイヴリースは、とてもいい笑顔だ。

 流麗な動作で、扇子を開いた。


 

 「ニャー! こいつ酷いニャー!」


 頑張れにゃるぺろす!

お読みいただけまして、ありがとうございました!

今回のお話はいかがでしたか?


並行連載作品がある都合上、不定期連載となっている現状です。ぜひページ左上にございますブックマーク機能をご活用ください!


また、連載のモチベーション維持向上に直径いたしますので、すぐ下にあります☆☆☆☆☆や、リアクションもお願いいたします!


ご意見ご要望もお待ちしておりますので、お気軽にご感想コメントをいただけますと幸いです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ