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2-1.学都ミレトス

理一郎の学都ミレトスでの生活が始まります。

挿絵(By みてみん)

 アリアの家で暮らし始めて数日後の朝。

 理一郎は窓の外から差し込む朝日で目を覚ました。柔らかく大きなベッドの上で、寝ぼけ眼をこすりながら、のびやかに身体を起こす。元の世界では考えられないほどゆったりした朝だ。

 アリアの家に着いてから数日が経った。理一郎は二階の一番奥の部屋に落ち着き、新しい生活になじみつつあった。

 アリアの生家である先代大賢者の古い屋敷は、まさに歴史的文化財といった趣の建物だった。

 アーチ型の窓が並ぶ石造りの重厚な外観と、こじんまりとしてはいるが手入れの行き届いた居心地の良い庭。暮らしてきた人たちの品格すら感じられる住まいだった。

 理一郎が借りた部屋は、先代大賢者の予備の書斎だ。窓辺に置かれた小さな植物たちが、静かに風に揺れている。壁には一面に本棚がしつらえてあった。古い書物や巻物が幾重にも積み重ねられ、眺めていると知識の迷宮に迷い込んだ気分になる。部屋の中央には、風格ある年代物の木机がどっしりと据えられている。その上に置かれた理一郎のノートパソコンが、ひどく場違いだった。パソコンはこちらの世界でも起動したが、電気がないので使えなかった。

 ゆっくりと窓辺に向う。庭には、色とりどりの花が咲き乱れ、小鳥がさえずっていた。そんな優しい風景を眺めながら、この異世界に来てからの日々を思い返す。


       *   *   *


 駅馬車はバルタ街道の東の終着点、学都ミレトスの西門に着いた。

 王国第二の都市とは聞いていたが、せいぜい中世ヨーロッパの田舎町程度だろうと理一郎は想像していたが、それは大きな間違いだった。

 まず、その西門の威容に圧倒された。高さは十メートルを超える、石造りの巨大建造物だった。それは防衛のための門ではなく、知識と技術の集積をシンボライズした構造物だ。

挿絵(By みてみん)

 門の前には入都審査を待つ長い行列ができ、道の両端には行列目当ての露店がずらりと並んでいる。ほとんどは人間だったが、中には獣の耳を持つ者たちもいた。

 学都は王立アカデミア魔法院のキャンパスもある中央広場を中心に、同心円状に街が整備されている。外周壁の辺りは街外れだが、それでも建物は少なくなかった。

 モビリティの基盤の一つが、主要街路を走る路面鉄道だ。中央広場の一画には路面鉄道のターミナル駅である中央駅がある。広場の外周に沿って環状線が走り、そこから外壁に向かう路線が四方八方に伸びている。

 もう一つの基盤は、北のティプラ湖から引き込んだ水路を往く船だ、水路は掘の役割も果たし、環状の交通を担っている。

 理一郎たちは路面鉄道西門線で、まず中央駅に向かった。路面鉄道の動力は電気や内燃機関ではなく、魔力だ。

 石畳の通りを行き交う多くの人々、軒を連ねる色とりどりの店、建物は多いが所々に緑豊かな公園もあり、暮らしやすさを感じさせる風景が車窓をゆっくり流れる。建物や服装は元の世界の中世都市と似ているが、人々の往来は多く、現代都市に近い文化度が感じられる。エルフやドワーフ、獣人族など、人間以外の種族がいることも異世界を実感させた。

 途中何カ所かの橋を渡り、終点の中央駅まで約三十分。乗り換えのために降りると、広場にひときわ高くそびえる塔が目を惹いた。学都のシンボルである大時計塔だ。学都が開かれると同時に建てられ、以来1秒の狂いもなく時を刻んでいるという、極めて精巧な時計だ。

 理一郎とアリアは、今度は南門線に乗り、三つ先の停留所で降りた。中央広場まではそれほど遠くない。天気がよければ散歩がてら歩いても気持ちのいい距離だった。


       *   *   *


 その翌日は、アリアの案内で学都(ミレトス)冒険者組合(ギルド)に行き、仮登録を済ませた。

 すぐにでも王立アカデミアに行ってみたかったが、まずは暮らしの基盤を整えなければならなかったからだ。

 ギルドは学都の中心部、中央公園の外周路の一画にある大きな建物で、様々な格好の冒険者たちが出入りしていた。

 中に入ると、二十代前半の受付嬢が笑顔で迎えてくれた。まとめ髪にメガネ、真面目なお姉さん的な女性だった。

挿絵(By みてみん)

「初めまして、エリーゼです。ご用件は?」

「冒険者登録をしたい」

 理一郎が答えると、受付嬢は登録用紙を取り出した。

「はい。ではこちらにお名前と年齢、出身地をご記入ください」

 少し躊躇した後、正直に記入した。

「モノノベ・リイチロウ様、十七歳、出身は……」受付嬢は腑に落ちない顔をした。「ニホン? そんな国は聞いたことがありませんが……」

 その時、後ろから声がかかった。

「おやエリーゼ君、ベテラン受付嬢の君でも知らないことがあるのか?」

 エリーゼは頭を下げながら、声の主が差し出した手に理一郎が書いた書類を渡す。

「ふむ、君が例の新人さんだね?」

 振り返ると、胸に金色のバッジをつけた男性が立っていた。

 元の世界の自分と同年代の中年男だ。全身黒っぽい服装で、黒髪の長髪を無造作に後で束ね、無精髭を生やしている。なんとなく〝素浪人〟という言葉が思い浮かんだ。

 学都ではかなりの顔役であることを、あらかじめアリアから聞かされていたが、たしかにただ者ではない気配を感じた。だが、態度は高圧的ではなく、むしろ親しげだった。

「私はレオン、ここのギルドマスターだ。君の噂は聞いているよ」

 レオンは理一郎の肩を叩いた。

「グラスランナーのボスを倒したそうじゃないか。素晴らしい活躍だ」

「ああ、だが、俺単独の成果ではない」

「謙遜かい?」

「いや、事実だ」

 その言葉にレオンの頬が緩む。

「聞いている限りでは、君の能力は本物だ。ところで君の出身地だが……」

 そう言いかけて、レオンは自分たちが注目を集めていることに気づいた。

(グラスランナーの特殊個体を足止めしたのは、あいつなのか!?)

(ああ、狩人のジルバウが、自分のことのように触れ回っていたよ)

(なんでも風変わりな魔法を使うらしいぜ)

(若いのにやるわねえ。今のうちにツバつけちゃおうかしら) 

「ここではなんだな。エリーゼ君、別室にご案内してくれないか」

「はい」

挿絵(By みてみん)

 通されたのは来客を迎えるための応接室だった。趣味のいい調度品で飾られている。丁寧に作られた革張りのソファに座り、エリーゼが淹れた紅茶を飲みながら、レオンが切り出した。

「魔女のリーンからグラスランナー討伐の報告を受けてね、君に興味を持ったんだよ」

 直接話を聞きたいとレオンから促され、理一郎はかいつまんでボス討伐時の状況を話した。

「ありがとう。それにしてもすごい魔法だな。そんな力があるなら飛び級で登録してもいいくらいだ。ただ――」

 ギルドマスターは、初めて鋭い目で理一郎を眺めた。

「いきなり使えるようになったというのは妙な話だ。君は記憶喪失なんだろ。だとすれば前から使っていたと考える方が自然だ。いったいどうやってそんな特殊な魔法を身につけたのか、できれば知りたい。君の出身のニホンでは当たり前の魔法なのかい?」

 理一郎は少し逡巡したが、自分が異世界から来た物理学者であることを打ち明けた。レオンが学都の有力者の一人であれば、隠し事はしない方が良いと、アリアとも相談していたのだ。

「信じがたいだろうが――」と話し始めた。「俺は別の世界からここにやってきた。君たちから見れば、俺は〝異世界人〟だ」

 レオンと受付嬢は驚いた顔をした。

「別の世界? そんなものがあるのか?」

 理一郎は自分が知る限りの経緯を説明した。大学のキャンパスにいたところ突然光に包まれ、気がついたらバルタ街道にいたこと。そして、アリアたちと出会ってここまで来たこと。

 レオンは真剣な顔で話を聞いている。理一郎が話し終わると、受付嬢の顔を見た。

「嘘はありません。ヒト族であることも間違いありません」

 エリーゼは木札のようなデバイスを見ながら答えた。

「すまんな。真贋判定をさせてもらった。簡易的なもので本格的な隠蔽魔法は見抜けないが、そこそこ実用になる精度はあるんだ。疑うような真似をしたが、最近は学都も少し物騒でね」

 レオンが軽く頭を下げる。それからエリーゼに言った。

「この話はエリーゼ君と私の胸だけにしまっておこう。いいね?」

 エリーゼがうなずく。

「理一郎君、君の不思議な能力は、元の世界の職業が関係してるんだろうね。それにしても、非常に珍しい。その力は我々の世界にとっても非常に貴重なものになるだろう。不本意かもしれないが、来てくれたことを歓迎するよ」

 レオンは少し考え込んだ後、決断した。

「よし、特別に君をE級で仮登録することにしよう」

 初心者はG級からのスタートになるので、異例の措置だった。

「まずは教導クエストを受けてもらう。そうだな、三十七番がいいだろう。それをクリアすれば、正式な冒険者資格を与える。いいね」

「理解した」理一郎はうなずく。

「何か困ったことがあれば、相談に乗るよ。教導クエストをがんばってくれ。では、エリーゼ君。後は頼む」

 レオンが退出すると、エリーゼがギルドのシステムやクエストの受け方、昇級方法など、一通りテキパキとレクチャーしてくれた。

「教導クエストとは、ギルドが出した課題をこなせるかどうか、教官役の有資格冒険者が同行して採点する試験です」

 エリーゼは三十七と書かれた書類袋から地図を出し、机の上に広げた。

「理一郎さんのクエストは、常闇(テネブリス)の森で薬用キノコを採取することです。簡単そうに聞こえるかもしれませんが、森には危険な魔物も潜んでいます。これを読んで予習しておいてください」

 エリーゼから手渡された十枚程度の書類には、現地の様子やキノコの生態や形状、現れる可能性のある魔物などの一覧が記されていた。

「あの」アリアが手を上げる。「これは単独クエストなんですか?」

「三十七番はそうですね。心配でしょうけど、アリアさんは同行できません」

「わかりました」アリアは残念そうに肩を落とした。

「お渡しした資料に推奨装備も記載していますので、準備がまだでしたら整えて置いてください。では一週間後に」

 二人はエリーゼの柔らかい笑みに見送られてギルドを出ると、その足で路面鉄道を二路線乗り継いで道具屋街に行き、資料を参考にしながら理一郎の装備を調達した。

 基本的に理一郎は魔法使いということになるので、本格的な武器はいらない。だが、採取や万が一のための近接装備として、中古の小さなナイフを買った。前の持ち主が何度も研いで愛用したのだろう。刃がややちびてはいるが、束は手に馴染んで使いやすい。

 防具はローブやマントが基本装備だが、どれも大げさすぎて理一郎の好みではなかった。そこで魔道具屋に行き、着ていた白衣に防御効果と防汚効果を付与してもらった。かなりの金額が必要だったが、理一郎は満足だった。ブーツと手袋は新調した。


       *   *   *


 三日目はアリアに付き合ってもらい、物理学魔法を練習するため、魔法演習場に出かけた。

 動く人工標的を訓練相手に選んだが、最初の内はまったく魔法が発動しなかった。だが、アリアの二つのアドバイスがコツをつかむきっかけとなった。

 一つは「魔法はイメージだから、あの的を理一郎くんの命を狙うグラスランナーだと思ってみて」というもの。

 もう一つは「私たちは杖を振ったり、詠唱したり、魔法名を唱えたりして魔法発動のきっかけにするの」というもの。

 理一郎はイメージを強く描くとともに、メガネのフレームを指で押し上げることを発動のルーティンとした。すると、練習を続けているうちに、強く願ってメガネを押し上げることで脳の情報処理能力が上がるようになった。アスリートがピークパフォーマンスを発揮する状態を、「ゾーンに入る」と表現することがある。その状態に似ているようだ。時間分解能は上がるものの、肉体が素早く動くわけではなかった。試してはみたが、そんな急な動きに耐えられるような身体ではないため、無意識にリミッターが働くらしい。

 ゾーンに入ると、状況解決に最適な方程式が視野に浮かび、改変したいパラメーターが明滅する。それを書き換えれば魔法が発動する。発動を確実にするため、グラスランナーの時に無意識に口走った言葉、「その理に従え」と唱えることをトリガーとした。

 そうして練習を重ねるうちに、やがてメガネのフレームに触れるだけでゾーンに入れるようになった。「特訓の成果だよ。やったね」と、アリアが褒めてくれた。

 最初に使ったときのように疲れ果てて泥のようになってしまうこともなくなった。ただ、甘い物が無性に食べたくなるのは変わらなかった。


       *   *   *


 四日目からはアリアが昼間は学校なので、アリアの教科書や賢者の蔵書で、この世界についての知識を吸収した。こちらの文字で書かれているが、すらすら読めるのが不思議だった。

 初級科学の教科書によれば、天文地理学的に元の世界と違うのは、大陸の形と月の数ぐらいだった。惑星(ほし)の大きさは地球と同じ、一日や一年の長さも同じ、星座の形も同じ、基本的な物理定数も単位系も変わっていなかった。つまり、ここでも光速は秒速三十万キロだ。その他にも社会や経済、歴史など、こっちで暮らしていく上で困らない程度の一般常識は覚えた。魔法書の類も読んでみたが、こちらはさっぱり理解できなかった。

 アリアと一つ屋根の暮らしは、最初は戸惑うこともあったが、広い屋敷のそれぞれの個室で過ごしている限り、思ったよりも顔を合わせる時間は短く、緊張も次第に解けていった。

 これまでのところ寝ぼけてアリアの部屋に入って着替えシーンを見てしまったり、風呂の時間を間違えてうっかりアリアの入浴シーンを見てしまったりなどというありがちなハプニングもなく、いつの間にか自分の家のように落ち着くことができた。本に囲まれているというのも大きかった。

 家事は分担することにしたが、基本的にアリアに任せることが多くなってしまった。料理は理一郎にもできないことはないが、案内された調理場には馴染みのない食材や調味料が多く、すぐには扱えそうになかったからだ。部屋や風呂の掃除は基本的には生活魔法で済ますというし、庭の手入れは庭師に頼んでいるとのことで手を出せない。せいぜい使った食器や鍋を洗ったり、玄関の前を掃いたりするぐらいしかできることがなかった。

 一緒に暮らしていて分かったことは、アリアが非常に勉強熱心なことだった。夜遅くに調理場でばったり会った彼女は、まだ魔法学の勉強中だと言った。また、料理は手際が良く、家庭料理としてなかなかのレベルだったのも意外だった。初めての夕食を褒めた理一郎に、自炊生活が長かったためだとアリアは照れながら説明した。理一郎は夕食を作るアリアを手伝いながら、この世界のレシピを覚えていくことになる。

 新しい生活への期待と不安が入り混じる中、アリアの存在は大きな支えになっていた。他人を信頼しきってしまうのはまだこわかったが、アリアには不安を感じさせないなにかがあつた。


       *   *   *


「理一郎くん、朝ごはんできたよ!」

 そんな回想にふけっていると、階下からアリアの声が聞こえてきた。

「理解した。今行く」

 階段を降りると、食堂にはアリアが用意した朝食が並んでいた。パンと卵、薫製肉、新鮮な果物、そして香り高い紅茶。

「おはよう。今日は力が出そうなものを用意したから、しっかり食べていってね」

 アリアの気遣いが、理一郎を身体の中から温かくする。

「今朝もうまそうだ。アリアは実に料理上手だな」

 アリアと暮らすうちに、理一郎の口調や態度もだいぶ柔らかくなってきた。

「ありがとう。お母さんが忙しくて、小さい頃から手伝ってたからかな」

 アリアは少し照れくさそうに答えた。

 二人で食事を始めると、アリアが尋ねてきた。

「ねえ理一郎くん、今日は教導クエストの日だよね。大丈夫そう?」

「準備はできている」理一郎はギルドでもらった書類をテーブルに置いた。「ここに書いてあることはすべて覚えた」

「がんばったね」

 倍以上歳の離れた少女から褒められるのは、なんとなくむずがゆかった。

「本番に活かせるといいのだが」

「理一郎くんなら大丈夫だよ」

 食事を終え、片付けを済ませると、理一郎がアリアに訊いた。

「珈琲を入れるが、アリアは不要か?」

 元の世界の理一郎は、カフェインやニコチン、アルコールなど、さまざまな合法化学物質に依存していた。体が若返ってからは喫煙や飲酒に対する衝動は消えたが、珈琲への欲求は消えなかった。だから、この世界にもあると聞いた時には安堵した。ただ、アリアは紅茶派なので、淹れるのはいつも一人分だった。

「うん。もう学校に行く時間だから。戸締まり、お願いね」

 アリアは革鞄を肩にかけて玄関に向かったが、突然足を止めた。

「あっ! 課題を入れ忘れちゃった」

 彼女は慌てて階段を駆け上がって行く。

 理一郎は、せめて見送りぐらいはしようと、頃合いを見計らって玄関ホールに出た。

 その時、階段の上から「きゃーっ!」というアリアの悲鳴が響いた。

 慌てて振り返った理一郎の目に、階段から転げ落ちようとするアリアの姿が映る。

 メガネを押し上げると一瞬にして意識が研ぎ澄まされ、ゾーンに入った。

 F=ma

 視界にニュートンの運動方程式が浮かび上がる。

 ――ならば、加速度aをゼロに

「その理に従え!」

 空間が歪み、アリアの身体が宙に浮かんだまま静止する。彼女はまるで時間が止まったかのように、半空に浮かんでいた。

 理一郎は階段を三段飛ばしで駆け上がり、浮かんだままのアリアに腕を回した。

 魔法を解除すると、アリアの重みが腕に伝わってきた。想像以上に柔らかく、温かい感触。彼女から漂う甘い香りに、不覚にも鼓動が速まる。

「あ……ありがとう」

 その小さな声に我に返った理一郎は、慎重に階段を降り、玄関ホールに立った。

 ゆっくりとアリアを地面に下ろす。

 アリアの頬は真っ赤だった。彼女は理一郎から少し離れると、スカートの乱れを整える。

「ご、ごめんね。大事な日なのに迷惑かけちゃって。でも本当に助かったわ」

「心配するな。君と特訓した成果だ。ケガはないか?」

「うん、大丈夫」

 お互いの視線がすれ違い、微妙な沈黙が流れる。

「じゃあ、行ってくるね」

 アリアは玄関ドアに手をかけた。

「ああ」

 ドアを開けたアリアは、一歩踏み出したところで足を止めた。ゆっくりと振り返り、

 柔らかな笑顔を見せながら小さく手を振った。

「頑張ってね」

 理一郎も思わず手を上げ、その仕草に応えていた。彼女の姿が見えなくなった後も、甘い香りが玄関に漂っていた。

次回、教導クエスト。常闇(テネブリス)の森での試煉です。

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