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「岩志木、ちょっと言っておくことがある」

「はい」

「ここにいる三人は君のことが好きなようだ」

「そうなんですか?」

 岩志木は首を傾げ、宗像先輩の唐突な言葉に思わず固まってしまっている三人に言った。

「そうなのか?」

「それは後で個々に確認してくれ。それで君に頼みがある」

「はい」

「君がこの三人のうち誰かを好きになったとしても、在学中はその気持ちを抑えて欲しいんだ」

「わかりました」

 即答する岩志木に宗方先輩が苦笑した。

「理由は聞かなくていいのか?」

「じゃ、うかがいます」

「君が誰か一人とつきあうことになると、残りの二人は文芸部に居づらくなる」

「……ああ、そうですね」

「居づらくなった結果、退部ということになったら文芸部は消える」

「ギリギリ三人残りますが」

「来年、誰も入ってこなければ?」

「消えますね」

 宗像先輩は三年生になり、夏には引退する。残りは二人だ。部活動の条件が満たされなくなる。

「リスクが高すぎる」

 宗像先輩がそう言うと岩志木は肩をすくめる。

「でも、おれはもうこの三人を好きになっていますが、それはどうしましょうか?」

 岩志木の言葉に、三人はさらに強度を増して固まる。

「君の言うその好きのレベルがどの程度のものかは分からないが、とにかく一人を選ぶのは高校を卒業してからにしてほしい」

「はい」

「文芸部を引退してからでもいいけど、そうなると受験に差し障りがある」

「そうですね」

「高校生男子としてはツライと思うが、頼む」

 そう言って宗像先輩が頭を下げると岩志木は笑って答える。

「先輩。似合いません。よして下さい」

「そうか」

 宗像先輩は次に、まだ固まっている女子三人に向き直る。

「君たちも、卒業まで待ってくれ。これは強制ではないが、おそらく君たちにとってもどっちつかずの状態のほうが過ごしやすいはずだ。岩志木は公平な男だから」

 それに対し、三人は何も言わなかった。

「もし私が思い違いをしていたら謝るが、君たちは岩志木のことを好きになっているんじゃないのか? もしそうなら、ハッキリと言っておいたほうがいいぞ」

「…………」

「…………」

「…………」

「これはアドバイスだが、岩志木は公平ではあるものの、男としてはニブイ。遠回りのアプローチは通用しないし、むしろ伝わらないと言ったほうがいい。いわゆる朴念仁というやつだ。だからハッキリと気持ちを伝えておかないと、卒業後の彼の恋人としての選択肢に入らないことになる。幸いなことに岩志木も君たち三人のことが好きだと言っている。となれば、選ぶ相手は自分に思いを寄せてくれている人が対象になる可能性が高い」

「それもそうですね」

 美帆が一歩前に出て岩志木に言った。

「私、岩志木君のことが好きです」

「ありがとう。おれも好きだよ」

 その言葉に美帆は思わず目をうるませる。

「あの……」

 おずおずと片手をあげて言ったのは春奈だ。

「わた、私も好きです」

「うん。おれも好きだ、神浪のこと」

 春奈は顔を真っ赤にして「ありがと」と言った。

 最後に残った倫子は「あうあう」と言うだけで固まったままだった。全員から見られて半ばパニックに陥っていた。

「大丈夫か、鬼城」

「あうあう」

「無理に流れに乗らなくてもいいぞ。おれは、」

「私も好き! すごく好き!」

 その声の大きさに思わずのけぞった岩志木だったが、すぐに笑顔になって言った。

「ありがとう。おれも好きだ、鬼城のこと」

 その言葉に倫子は思わずしゃがみこんで「うわーん」と泣き出した……。

「と、まあね、そういうことがあったの」

 美帆が言うと、あわたが首をひねる。

「客観的に見ると、それって宗像先輩の策士ぶりが冴えているような気もしないではありませんが」

「策士もいいところだよー」と倫子が言う。「結局は文芸部存続のためなんだもん」

「ですよね」

「だけどさ、そのおかげで私たち、モヤモヤを抱えないまま互いに接してこれたし、それは部長に対しても同じなんだよ。あれがなかったら、どうなってたかなー」

「ストレスが溜まってたように思う」

「だよね〜。部長も公平に接してくれているし、私ら安心して好きな気持ちを口にできるもんね」

「はあ。そういうものなんですかね」

 あわたが首をかしげる。

「子どもには分かんない世界なのよ」

「いや、先輩たちとは一歳しか違わんわけですし」

「ということで、梓川さん!」

「は、はい」

「あなたも、部長のことが好きなら、私たちの同志になること。分かった?」

「……うん」

 紗希はうなずく。倫子も倫子でフェアなんだと思いながら。

 そのタイミングを待っていたかのように、部室の外で話し声が近づいてくるのが聞こえた。どうやら部長と春奈が戻ってきたようだ。

 紗希は心臓が高鳴るのを抑えることができない。

 さて、どう告げようか。

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