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「そもそも、部長がどうして文芸部に入ったか聞いてる?」

 そんな風に美帆は話を切り出した。

「聞いてない」

 紗希は首を振る。

「ばりぼり。わらしも聞いてません」

「あわたちゃん。食べながら話さない」

「はーい」

 長テーブルの上にはおせんべいとクッキーの入った木の皿が置かれ、美帆の入れたお茶がそれぞれの前に置かれている。

「部長のご両親も真桜高校の出身で、文芸部に入ってたの」

「そうなんだ」

「うちの親も真桜。だいたいみんなそうだよね」

 倫子の言葉に三人がうなずく。

「あ、でも、春奈のところは違うか。あの子、引っ越してきたから」

「へえ、それも知らなかったです」

「それでね、真桜の文芸部は学校の創立当初から存続していて、もう百年以上の歴史があるらしいの」

「百年。凄いね」

「だけどいまどき文芸部なんてパッとしないでしょ? 本を読む人も少ないし。だから部員が集まらなくて、毎年存続の危機に瀕しているわけ」

「それで部長はパパとママから文芸部に入れって言われたんだよ。素直ないい子なんだよ」

「伝統を守るために、というやつですね」

「そそ」

「まずはそれが大前提ね。部長は文芸部を存続させなければならない。自分ももちろん辞められない」

「うん」

 紗希がうなずく。

「それで去年、部長は入学した時に文芸部に入った。一年生では倫子と春奈も一緒ね」

「私たちがなんで文芸部に入ったのかは、またこんど教えるね!」

「あ、うん」

「当時はその一年生の三人と二年の宗像先輩と三年の椋先輩という人がいたの。だったよね?」

 美帆は倫子に確認する。

「えーと、もう一人いるけど……あの人のことは考えなくていいって部長、言ってるしね」

 どういう人なんだろう……。先日の微妙な空気を紗希は思い出す。

「私も会ったことないんだよね」と美帆。「ま、それはいいか。えーと、それで部員は五人でしょ? でも夏には三年生が引退して四人。一年生三人と二年一人。部活の存続の条件は部員が三人以上だからギリギリなわけ」

「えーと、次の年に一年生が入らなかったら……宗像先輩が抜けて三人だね。鬼城さんと神浪さんと星児……じゃなかった部長」

「やれやれ、発動したよ、幼なじみブラスター。下の名前だぜ」

 倫子がテーブルに顔を伏せる。

「いまのは大きかったですね」

 あわたがお茶をすすりながら言う。

「あの……なんか、ごめん」

「気にしなてくいいよ。幼なじみだもん、名前で呼ぶよね」と美帆が肩をすくめる。「それでね、その四人のまま部活が続いて、去年の終わりの頃に私が入部したの」

「言ってたね」

「私は部長のことが好きになっていて、少しでも一緒にいたいと思って入ったの」

「動機が不純なのよ、この女は」

「自分の気持ちに素直なだけ」

「はん、ものは言いようだ」

「えー、自分の気持ちに素直過ぎる鬼城先輩のお言葉とは思えませんが。素直過ぎるというか後先考えないというか」

「黙れ、後輩ビッチ」

「びび、ビッチ?」

「はいはい」

 美帆はあわたの湯飲みにお茶を注ぐ。

「ありがとございまーす」

「倫子は?」

「ちょーだい」

 こぽぽぽと音をたててお茶が注がれる。

「私、入部してすぐにわかった。倫子も春奈も部長のこと好きなんだって」

「春奈も私も自分の気持ちに素直だからねー。態度に出るのよ」倫子が自分の言葉にこくこくとうなずく。「でも、美帆が入ってくるまでは口には出さなかったんだよ。だって恥ずかしいしね。それに、言ってしまったら、それでいろいろ終わりそうとも思って」

「いろいろ終わりそう?」

「梓川さん、幼なじみだったらさ、これまで部長とはいい関係を続けてきたわけじゃん? 恋人以上友だち未満みたいなさ」

「先輩、それ恋人関係になってます」

「いいよ、細かいニュアンスは」

「雑っ!」

「で、そのほどよい距離感を保っているなかでよ、もし告ってしまってそれを拒否られたら、すべてが壊れちゃうじゃん。それ、怖いよね? そういうこと思ったことなかった?」

「……あった」

「はい、トラップ成功。やっぱ好きなんだね」

 ガバッと倫子が顔をあげた。

「え? あっ!」

 紗希は思わず両手で頬を押さえる。顔が真っ赤になっていた。

「うわ、梓川先輩。カワイイが過ぎる。すげー破壊力!」とあわたが胸の前で手を組む。「鬼城先輩、隅田先輩、これって萌えですね」

「うん、萌えだね」

「萌えだわー。部長にだけは見せたくないわー」

「私、いまの梓川先輩の顔でごはん三杯いけます」

「私も替え玉いけるね」

「それは違う話では?」

「い、いいから話を続けて!」

 顔を赤くさせたまま紗希が言う。

「えーと、そうだね。私が入部して、部長を好きな女子が三人揃ったわけね。それぞれの思いを胸に秘めつつ。さて、ここで宗像先輩が登場」

「宗像先輩も、もしかして……」

「それはない」

「それはないね」

「それ、ゼッタイないです」

 三人は言下に否定する。

 紗希はまだ宗像先輩には会ったことがなかったが、少しホッとした。

「それでね、宗像先輩がある時に言ったの。私たち全員の前で」

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