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「梨々香が中学二年生の時でした」
と答えたのは鏡子だ。それを受けて梨々香が口を開く。
「学原家と愛宕家の人間は代々、一定の年齢になると親から使命を教えられます。桜の精を宿した方を見つけ出すという使命です」
「ふむ」
「でも、宗像先輩がいまおっしゃったように、真桜町には毎年約百五十名の女子が誕生します。そこからどうやって探し出すのか……正直、その使命を聞いた時には途方に暮れました。でも、何か手がかりがあるはずと思って、神社に残されている記録をチェックしてみることにしました」
その結果、花の向きに気づいたという。
御桜神社では毎年、開花の時期が丹念に記録されていた。ご神木は必ず最初に一つだけ花を咲かせる。その花が咲いた日を記録していたのだった。
時代が下がるにつれて、開花日の記録に写真が添えられるようになった。それがヒントになった。昭和の初期からずっと同じ向きだった花が、平成に入ってからふと向きを変えていたのだ。
梨々香は照桜寺を訪れて同じような記録の有無を聞いた。記録はあった。
二つの記録を照合した結果、花の向きが変わった年が一致していることが分かった。そこから「桜の精を宿している方が生まれた方向を指しているのでは?」という推論が導き出されたというわけである。昭和初期から平成まで同じ向きだったのは、桜の精を宿した「先代」の人生の長さを表しているのだろう、とも。
それぞれの桜の花の向きを交差させると花畔産科医院が浮かび上がった。
そうなると、後はスムーズだ。
花の向きが変わった年に花畔産科医院で生まれた女子のなかに桜の精を宿した方がいる。
となると、そこからどう絞り込んでいくか……。
その結果として思いついたのが二人の神をスーパースターとして設定すること、そして塾と団の結成だった。
鏡子と梨々香が話を終えると、倫子が手をあげて言った。
「宗像先輩、一ついいですか?」
「お前のことだ、一つでは済まないだろう」
「えへ」と言ったあと、倫子は立ち上がってぺこりと頭を下げる。「私たち、先輩には感謝しています」
「どういうことだ?」
「先輩はさっき私たちのことを利用したっておっしゃいましたけど、先輩のおかげで私たち、部長に思いを告げることができました。あれがなかったら、きっと互いに牽制し合って険悪な仲になっていたと思います」
「ほ、本当は宗像先輩も私たちのことを気遣ってくれていたんだと思ってます、うん」
と春奈が言葉を添える。
「……そう言ってくれるとホッとする」
美帆も紗希も、そしてあわたもうなずいている。
「さてと。では、最後に神々へのご挨拶だな。一菜、起きろ」
と一花はいつの間にか眠っていた一菜を揺さぶる。
「ん……。話は終わったか?」
「終わった。最後にお前の番だ」
「わかった」
そう言って一菜は大きく伸びをし、水を飲んだあと、緒方と坂本に向き直る。
「春羅、春瀬。久しぶりだったな」
「そうですね。ご無沙汰しておりました」
緒方が生真面目な顔で言う。
「というか、われわれが知っている桜姫とはずいぶんキャラが違ってますよ」
クスクス笑いながら坂本が言う。
「仕方ないさ。桜姫としてまるまる生まれ変わったわけじゃないんだから。オレはあくまで宗像一菜で、桜姫は一部でしかない」
「僕たちに関する記憶はあるんですよね?」
緒方が言う。
「あるさ。すべて覚えている。約束もな」
「……そうですか」
「で、こうしてオレはお前たちの前に現れた。再会する時は、どっちかのものになるって話だったな。悪いけど、オレには選べないから、お前らで決めてくれ。じゃんけんでもいいし、くじでもいいぞ。勝った方の嫁になるさ」
「一菜。本当にいいのか?」
「一花。これはいい悪いの話じゃないんだ。オレはいま、神々に力を使わせたんだから、それに対しては礼をもって接する必要がある。一方的に与えられるわけにはいかないんだ」
「生け贄みたいなものか」
「口を慎め。そんな言い方をすると神様が気を悪くするだろう。バカ妹が」
「ふん。どっちがバカだ」
双子姉妹が口ゲンカをする様子を苦笑しながら見ていた緒方と坂本は顔を見合わせる。その二人の様子を見て、鏡子と梨々香も理解したような顔でうなずく。
「春瀬、君はどう思う?」
「たぶんお前と同じことを考えてる」
「だろうね」
「ああ」
「私たちもそうです」
「はい」
鏡子と梨々香が言う。
「お前たち、どういうことだ? 何を言ってる?」
一菜が首を傾げる。
「えーとですね、桜姫。次の世でまた会いましょう」
坂本が言い、緒方が付け足す。
「いまのあなたを嫁にすると、尻に敷かれそうです」
「な!」
一菜が喜んでいいのか怒っていいのか分からない顔をする。頬が紅潮していた。
「私たちもそれがいいと思います」
「はい。こういうやんちゃバージョンの姫にお仕えするのは大変です」
鏡子と梨々香が澄ました顔で言った。
「お前ら、言い方! 桜姫に対して、なんだよ、それは」
「来世はもう少しおしとやかな方にお宿りくださいませ」
鏡子がニコリと笑った。
「安心しろ」と一花が言う。「そんなに遠い将来じゃない。こいつは修行バカだから、そのうち命を落とすに決まってる」




