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 ちょうど同じ頃、岩志木は坂本と愛宕梨々香とともに下校していた。校門を出てすぐに声をかけられたのだった。

「よう、岩志木。テスト、どうだった?」

 坂本が呼びかけてきて、それからしばらくはテストの話をした。

 肩を並べて歩く岩志木と坂本の後ろを愛宕梨々香が従っている。その梨々香を振り返って岩志木が礼を言ったことから「その話題」は始まった。

「愛宕。この前はありがとう」

「いえ。こちらこそお参りいただき、ありがとうございました」

「なんだよ、岩志木。梨々香をお前のハーレムにスカウトするつもりじゃないだろうな」

 坂本は「この前」とは何のことかということを聞かない。当然、知っているからだろう。

「おれにはそんな度胸はないよ」

「ご謙遜ってやつだな」

「おれは文芸部のあいつらのことが可愛くて仕方がないんだ」

「わお!」

 坂本が驚き、愛宕梨々香も「それはずいぶん……」と苦笑を浮かべる。

「だからいろいろと考えた。この前、お前が弁当を食べている時に言った事情について」

「おれと緒方が文芸部の二年生女子に関心を持つ事情か?」

「そう」

「で、何か答は出たのか?」

「お前が春瀬命で、緒方が春羅権現だ」

「ふむ。それで?」

 坂本は自然な口調で応じる。

「うちの四人のなかの誰かが桜の精だな」

「なんでそう思った?」

「桜の精は春瀬命も春羅権現も選ばない」

「つまり?」

「坂本団にも緒方塾にも入らない」

「入っていない女子は他にもいるぜ?」

「二年生に限ってはうちの四人だけだ」

「そうですね」

 愛宕梨々香がうなずく。

「正直、桜の精を宿した者を二年生に限定している理由までは分からない。ただ、坂本団を結成したのが愛宕で、緒方塾を作ったのが学原となると、その意図が見えてくる」

「どんな意図だ?」

 坂本の問いに岩志木が答えかけたところで梨々香が言った。

「話が長くなりそうですね。ここに入りませんか?」

 三人はちょうどハンバーガーショップの前を通りかかっていた。


 先に注文を終えた岩志木がトレイを手に二階への階段をあがっていく。

 その後ろ姿を見ながら梨々香は坂本に言った。

「話すんですか?」

「とりあえず、あいつの話を聞いてみようぜ」

「緒方さんと学原さんには?」

「後で報告すればいいさ」

「分かりました」

 店員にうながされて坂本は適当にセットを二つ頼んだ。そして梨々香を振り返る。

「坂本団も潮時だな」

「そのようですね」


「それで、どういう意図だって?」

 と坂本が言う。三人は二階席の窓際の丸テーブルに向かい合って座っている。

「御桜神社の愛宕が坂本団を作り、照桜寺の学原が緒方塾を作ったのは、桜の精を宿した女子をあぶりだすためだ」

 岩志木は普段通り、淡々とした口調で言った。

「あぶりだす、ね」

「お前も緒方もスーパースターだ。性格もいいし、人望があり、イケメンだ。誰にでも公平に、そして親切に接する。お前たち二人に魅力を感じない女子はいない」

「ありがとう。お前に言われると照れるな」

「お前はおれのことを買いかぶりすぎだ」

「そんなことないさ。もしお前の言っていることが正しいなら、お前は桜の精に惚れられているってことじゃないか」

「ふむ」

「それで? 学原さんと私がそれぞれに塾と団を結成した理由でしたが?」

 梨々香が話を戻す。

「さっきも言ったように、なぜかは分からないが、お前たちは二年生女子のなかに桜の精がいると考えた。二年生女子はおよそ百人いる。そのなかから一人を見つけ出すには、桜の精を宿しているとは言えない者たちを除けばいい。桜の精は春瀬命も春羅権現も選ばないわけだから、逆に考えれば、坂本か緒方に魅力を感じる女子、あるいは両方に魅力を感じる女子は対象外となる」

「塾か団のどちらかに入る者、あるいはどちらにも入る者ってことだな」

「そう。普通なら、誰もが魅力を感じるスーパースターに関心を示さないのは、やはり普通じゃない」

「それが文芸部の四人ということだな」

「なぜ文芸部に固まったのかは分からないが、そうなったわけだ」

「それは岩志木。きっと、お前がいたからだよ」

「お前たちにとっては邪魔な存在ではなかったのか?」

「そうでもないと思うぜ。だってお前は卒業するまで、その四人に手を出さないんだろ? そしてその間は四人のことを守ってくれるわけだ。この前の緒方塾での騒動の時みたいに」

「まあな」

「お前がいる限り、その四人が他の男に気を移すこともない。こりゃ神様たちにとっちゃありがたいボディガードだろ。その間、四人のうちの誰が桜の精を宿しているかを調べることができるしな。少なくともお前に対して好意を持つんじゃないか」

「なるほど」

「緒方塾に神浪春奈さんを勧誘した件は聞いています。なぜそのような行為に及んだのかは分かりますか?」

「分からない。良ければ教えてくれないか」

 岩志木が言うと梨々香は坂本を見て、坂本は肩をすくめる。

「もし、あそこで神浪春奈さんが緒方塾に入ったら、彼女は桜の精ではなくなります」

「ああ、そうか」と岩志木はうなずく。「踏み絵みたいなものか」

「対象は四人まで絞られました。次はその四人をふるいにかけていけばいいわけです。そのふるいが緒方塾への勧誘です」

「春奈があの時、緒方塾に入ったら、次は残りの三人を勧誘していくつもりだったわけだな」

「そうですね。でも、神浪春奈さんは頑なに拒絶しました。彼女が桜の精を宿している可能性は高いと言えます」

「緒方が文芸部に入ろうとしたのは?」

「残りの三人を勧誘しても無駄だと分かったのでしょう。あの時、あなたが出てきたから」

「……勧誘が無理なら、自分から、か」

「近くにいると、手がかりも得られやすくなります」

「坂本団はほとんど動いてないようだったが?」

「そこが緒方とおれの違いだな。おれはまあ急ぐことはないと考えていた。さっきも言ったように、卒業するまでに突き止めればいいってスタンスだ」と坂本はそこでまた肩をすくめる。「って、おい、いつの間にか緒方とおれが神様という前提で話しているぜ?」

「何をいまさら」

 と岩志木が笑い、坂本も梨々香も声をあげて笑う。

「でもな、岩志木。お前、マジでこんなバカげた話を信じるのか? 桜の精とか神様とか」

「正直、良く分からない。非現実的な話だということは分かるが、あまり違和感はないんだ」と岩志木はうなずく。「こうしてハンバーガーを食べながら話しているとなおさらだな。日常の世間話のように思える」

「そうか」

「日常と非日常はきっと連続した場所にあるんだよ」

「ほう。文芸部っぽいな」と坂本がフライドポテトをつまむ。「なあ、一つ聞いていいか?」

「なんなりと」

「お前、あの四人のうち、誰が桜の精を宿していると思う?」

「ストレートだな」

「まあね」

「正直、分からない。だけど、誰がそうであっても、おれは気にしない」

「ま、お前はそうだろうな」

「桜の精を宿しているのが誰かが分かったら、お前たちはどうするんだ?」

「そりゃプロポーズするさ。そのためにずっと探し続けてきたんだから」

「それもそうか」

「もしお前が邪魔になるとすれば、お前の選んだ相手がおれたちの探していた相手と同じだった時だ」

「その時は一騒動起きそうだな」

「できれば、そうあって欲しくはない。おれはお前が気に入ってる」

「ありがとう」


 岩志木が立ち去ったあと、梨々香は言った。

「なぜ二年生女子に限定したのか、聞きませんでしたね、彼」

「どうでもいいことだったんだろ。その先のことを話していたんだから」

「それもそうですね」

「変な奴だよな」

「彼、ホントに人間なんでしょうか?」

「そうじゃないとしても驚かないな」

「本当に」


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