17
宗像先輩と入れ違うようにして部長が姿を現した。
「よ、早いな」
手を上げて笑いかけてくる。
「いま、宗像先輩が来てた」
「そうか」
「これ」
紗希が「卒部式会場のご案内」を渡すと「ああ、やっぱり」と言ってホワイトボードにマグネットで貼り付けた。
「全員参加すると思う」
「私、もう参加しますって先輩に言った」
「うん」
「あの、部長」
「ん?」
「私のこと、宗像先輩に黙っててくれたんだね」
「……ああ、そうだな」
「ありがとう」
「どういたしまして」
部長は自分の席につき、パソコンの操作を始める。その横顔を見ながら紗希は言う。
「お茶いれようか?」
「うん、頼む」
「はい」
そしてお茶の準備を始めた。女子部員がほとんどということもあって、部室にはお菓子が常備されている。それを皿に盛り、お茶といっしょに出した。
「ありがとう」
「どういたしまして」
紗希は席につき、そして文芸部用のノートを取り出した。文学事典をテキストとしながら勉強を始める。いまは万葉集のことを勉強していた。
「万葉集で詠まれている花のなかで一番多いのは萩で、その次が梅。桜は意外に少ない」
という話を美帆から聞いたので、万葉集に興味を持ったのだった。それに先日の緒方の件もあった。果たして本当に万葉集の歌を全部覚えることができるものなのだろうか……?
日本最古の歌集ということもあって、万葉集の項目には多くの紙数が割かれているた。ざっと斜め読みしていた紗希の目に「異母妹」という言葉がとまった。その途端、息が苦しくなって事典を閉じる。
「紗希?」
と部長の声がした。次の瞬間には隣に座ってくれていた。
「呼吸に意識を集中しよう。まずはゆっくり吐き出す」
言われた通り、息を吐き出す。肺のなかの空気をすべて吐き切ると、自然に空気を吸うことができた。
「よし。それでまた息をゆっくり吐く」
部長は手を握り、背中をさすってくれている。じきに呼吸が楽になり、気持ちも落ち着いた。
「ありがとう。もう大丈夫」
「そうか」
「……お義兄ちゃんのこと思い出して」
「うん」
部長はうなずき、紗希をハグしてくれる。
こんなところを他の部員に見られたら大騒ぎになるのに……と紗希は思ったが、そのまま身をゆだねていた。
部長はきっとそういうことは気にしない。




