表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

1

 枯れ木すら見えない、深い谷の底。天を仰げば、ずいぶんと先のほうに青い空が見える。かろうじて日の光は届くものの、ここは地上の夕方ほどの明るさでしかない。


『サチ! こっち!』


 やや遠くで、銀糸が揺れた。


「ジル?」


 銀狼のジルは、二年来の私の相棒。十二歳でここに来てから、ずっと一緒に暮らしている。


『コレ、人間?』

「え……っと、ひ、人の子⁉」


 足元にはぼろをまとった幼子が転がっている。魔法で小さな光の玉を出し、様子が見えるようにと近づけた。


「……生きてる!」


 喉に指をあてると、弱々しいながらも脈が伝わってくる。


「こんなところにどうして……」


 上から落ちてきたのなら、こんなきれいな(・・・・)状態で転がっているはずがない。しかし、誰かが置いて行ったにしても不自然だ。ここは人が降りてこられるような場所ではない。


『これはなかなか大物だな』


 魔法の光に当たって伸びた私の影から、大きな闇がたゆんで盛り上がる。瞬く間にローブを深くかぶった人形が完成した。顔かたちはわからないが、金色に輝く球が二つ。瞳だろうか。何せ、このローブの中は空洞だ。空気が布をまとっているだけと言ってもよい。ふわふわと、ローブの裾が波打っている。


『規格外な魔力を内包している』

「魔力? 感じないよ?」


 ローブの人形、闇の精霊ディーは手も触れず、浮かすようにして幼子のぼろをまくった。鎖のような黒い模様が、首にぐるりと幾重も巻き付いているのを見て目をむく。


「魔封じの呪い⁉」


 文字通り、魔法を封じるための魔法。こんなものを使える魔術師はそうそういない。


「これじゃ、わかんないはずだわ……」


 私だってそれなりに魔力は高いほうだ。でなければ、二年もこんな場所で生きてはいない。魔力を持つものなら、対する相手の魔力も大なり小なり感じるものだ。なのに、この幼子からは一切の魔力を感じなかった。


『外傷はなさそうだな。魔力切れといったところか』


 ディーの言った通り、青白い顔をしているものの呼吸の方は安定している。


「……あなたも捨てられたの?」


 見れば六歳か、七歳くらいか。

 人とは残酷だ。生活の負担になるのならば、老いも若きも関係ない。


 ここは「ナステの谷」。ナステ=名捨て。この国では「名」が特別な意味を持つ。「名」は存在意義。名捨ては存在を捨てること。ここはひそかに要らない人間(・・・・・・)が捨てられる場所。その後の生存はお察しだ。


 捨てられるのは口減らしのためか子供が多い。そう、かつての私も、この谷の底に投げ捨てられた。


 私の場合、奇跡(・・)があってここで暮らしている。ふと、ディー(奇跡)を振り返ると、彼は肩をすくめて見せた。この幼子に奇跡が起きたわけではないようだ。


『どうするの? サチ』


 ジルが足元にすり寄ってくる。


「とにかく、家に連れて帰る」


 こんな底地だ。凶暴な魔物は少ないが、全くいないわけではない。このままにして帰って、丸かじりでもされたら寝覚めが悪い。


『背中に乗せようか? その子』

「大丈夫……無茶苦茶軽いわ」


 抱え上げた少年は、思ったよりもずっと軽かった。



挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ