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姉の話.エピローグ

森の中を人影が二つあった。

先を行くのは体に似合わない大きな荷物を背負った若い女。

頭にはなぜだか、獣、猫のような耳飾りがついている。

後ろには男。軽装な青年が一人。

和装に身を包み、杖をついている。

小さな小川に沿うように二人は進む。

すると青年が若い女に声をかけた。


「君は嘘をつくのが得意なんだね」


「なんの話だ」


「いいや、何でもないさ」


「そうか」


「そういえばなんだけれども、あのとき言うべきことは言えたのかい?」


「いいや」


女は全く振り向かずにそう言った。


「ふうん。そっか。僕には十分だったような気がするけれどね」


「十分だったか」


「そうだね」


「私にはわからない」


「じゃあもっと人のことを知らないとね。ちなみに何を言おうとしたんだい?」


「お前も殺したいほど憎かったと」


「それは...どうして?」


「二人を養うには宿だけでは足りなかった」


「ああ」


「だから自分を売った。売るように母親に言われた。宿に泊まる客にだ。それがたまらないほど嫌だった」


「それから」


「母親が憎かった」


「うん」


「何も知らない妹が憎かった」


「うん」


「だから二人を殺して逃げることを選んだ。そのためにまずは妹をと、刃物を握った」


「うん」


「階段を降りようとした妹を後ろから刺そうとしたが、そのとき妹は足を滑らせた」


「うん」


「落ちれば妹は死ぬはずだったのに、刃物を捨てた。そして妹をかばって落ちた」


「そっか」


「それが一番最後の記憶だ」


「なるほどね」


「だが、この体が一番伝えたい記憶ではなかった」


「そうだね」


「どれが本当なのか、何を一番伝えたいのかは正確に分からない。流れ込む記憶に優先される順番はない」


「うん」


「優しさとは真実を伝えることか。それとも深く刻まれた思いを伝えることか。私にはわからない。でも今回は合ってたかな」


「ふうん」


女と男は川沿いに進む。

それがどこまで続いているのかは分からない。

順調に進んでいるのか、そもそも何が順調なのかもわからない。

女は突然倒れ込むかのように膝を折った。


「ああ。私は嘘が得意だったらしい」





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