「ビキラと、かけうどん」の巻
「沢山のタコさんウインナー!」
おたずね者の駄洒落妖術師、ウキゴリルは公園の隅に追い詰められ、ダジャレを放った。
タコさんウインナーとは、ウインナーソーセージの片方の先に幾つも切れ込みを入れ、足と見立てた飾り切りである。
そのタコさんウインナーの群れが、切り目を釣り上げて魔人少女ビキラを襲う。
ビキラはウキゴリルを追い詰めた賞金稼ぎであった。
「うお、かわいい!」
と、肩の上の古書ピミウォ。ビキラの相棒だった。
「大好物が向こうから!」
と目を輝かせる魔人ビキラ。
目にも止まらぬ早さでタコさんウインナーを食べ始める賞金稼ぎ。
その肩の上を離れ、飛び交い食いをする古書。
ウインナーらは仮初めの物体にすぎず、三十分もすれば妖術限界が来て消滅してしまうのだが、消えるまでは味も匂いも楽しめる具現化物であった。
「うおっ。あれだけのタコさんウインナーを全部喰らっちまっただと?! はらぺこ怪獣ペコペコペコンか、お前ら!!」
子供の時に読んだ絵本のタイトルを、思わず言ってしまうウキゴリル。
彼にも少年時代はあったのである。
ウキゴリルは気を取り直し、ビキラたちを倒すべく新たな駄洒落を放った。
「フルハウスのウエハース!」
モノリスを模し、各辺が一対四対九の比率で作られた巨大ウエハースが、バニラ味二枚、チョコ味三枚というフルハウス状態でビキラを襲う。
が、またしても賞金稼ぎたちに美味しく食べられてしまう無念の攻撃食物。
「あなた、味付けが上手ね。良い菓子職人になれるんじゃないかしら」
言われて「てへ」と照れるウキゴリル。
その隙を突き、ビキラは回文をを唱えた。
ビキラは回文妖術師なのだ。
「看板が岩盤か(かんばんが、がんばんか?!)」
が、ウキゴリルの頭上に具現化して、
そのまま落下した。
「ぎゅっ」
と言って岩盤な看板に押し潰されるウキゴリル。
公園とて、滑り台が巻き(ぞ)えを食った。
「生きてる?」
近寄って声を掛けるビキラ。
「な……なんとか」
かんとか返事をするウキゴリル。
岩盤な看板が滑り台を壊してしまったので、弁償しようとしたらウキゴリルの賞金では足りず、またしても貯金をはたく魔人ビキラ。
一件落着の後、赤字の捕り物だったので、失意のうちに食堂に入るビキラたち。
腹に入った沢山のタコさんウインナーとフルハウスなウエハース群が、時間限界が来て消滅してしまい、お腹が減ったのである。
しかし、持ち合わせがもはや、無い。
「かけうどん、ひとつ」
と、ビキラは注文した。
内緒だが、支払いは皿洗いで、である。
ウキゴリルとビキラの戦いの、一部始終を見ていた食堂のメイドさんは同情して、
「励ましてあげて」
と、かけうどんに声を掛けた。
「承知!」
と短く答える、かけうどん。
ビキラたちのテーブルに置かれるなり、
「うっひょーー。あの武道家、ブドウ買ってる!」
と、春の陽気も凍るオヤヂギャグを放った。
冷たい空気を察して、ヤバしとばかりに繰り出されるかけうどんの得意技。
「ああ眠い。睡魔に襲われてすいません!」
「このあんまん、案外、アンが良い!」
「あなたなんか嫌い! 破れたラブレター!」
「陽気なイヤホンは叫んだ。イヤッホーーン!」
身振り手振りの、かけうどんの励ましに、ビキラたちもいつしか心が和むのだった。
(かけうどん道化か)
かけうどん、どうけか?!
お読みくださった方、ありがとうございます。
午後からは、「続・のほほん」を投稿予定です。
ではまた午後に、のほほん、で。