「ビキラと駅前再開発」の巻
某市の駅前が再開発された。
「便利になった!」
「利便性が高まった!」
「店を探し回るフラストレーションが
減ったように思う」
「使い勝手の良い駅前になった」
同じような表現を繰り返しながら、駅前再開発部の人々は快哉を叫んだ。
しかし、人に来てもらわねば、良くなった駅前が分からない。
そこで開発部のメンバーは一計を案じ、サクラを撒いた。
「あのう、ナツアカネ書店は何処でしょうか?」
「さ、さあ、分かりませんが」
「駅前にあるそうですよ、一緒に行きましょうよ」
「この辺に、たこ焼きの美味しい店があると聞いたのですが」
「あっ、そこにありますよ」
「いえ、私は駅前のお店が良いです。一緒に食べましょう」
「駅前は何処でしょうか?」
「えっ、駅があるんですか?」
「あります。一緒に探しましょう」
老若男女のサクラが、人々を駅前に誘った。
魔人少女ビキラも、そのサクラのアルバイトに加わっていた。
「誘うなら、旅人が良いわよね。駅前を知らない人に紹介した方が」
と、ビキラ。
「そうじゃな、股旅合羽に三度笠などしておる者は積極的に誘おう」
と、ビキラの肩に立つ古書、ピミウォが応じた。
「と言ってる所に、破れ合羽に三度笠!」
笑顔を見せるビキラ。
「おっちゃん、駅前が便利になったそうよ。ちょっと行ってみない?」
「ああ、おじさんは、腹が減っておるよ」
埃にまみれた合羽を揺する旅人。
「駅前の『んまいもの横丁』に色々なお店が揃ってるわよ!」
「あのう、まず合羽の埃を今ここで払っておいた方が……」
と、ピミウォが言い、
「おう、そうだ。店に失礼かも知れん」
と言って合羽を脱ぎ、旅の垢埃を叩く旅人。
もうもうと上がる白煙。
「うわっ、す、凄い」
後退るビキラ。
「いや、埃ではないのう」
と、ピミウォ。
煙が晴れて出て来たのは薄衣の女神だった。
頭に王冠を乗せ、手に宝飾過多の大きな杖を持っている。
「よくぞこの、みすぼらしい旅人に声を掛けました、平民よ」
「えっ? あんた、何?」
女神の人体から放射されるオーラに目を細めるビキラ。
「吾こそは『哀れの女神』。貧相で野暮ったくて不恰好な者に化け、それでも声を掛けてくる凡夫を讃える女神なり」
「随分、ズケズケ言うのね、あなた。合羽に三度笠って、だいたいあんなもんよ」
ビキラもズケズケと言った。
ビキラの言う事には触れず、
「其方に幸あれ!」
と杖をかざして放言すると、女神は消滅した。
「な、なんなのよ、今の女?! 冷やかし? こっちはアルバイトで忙しいのに」
ビキラは無駄にした時間を取り戻すべく、旅人らしき人々に片っ端から声を掛けた。
「何処か安い食事処があれば」
「どうぞ駅前に!」
「ミラクルXマンを置いてあるゲームセンターを探しています」
「どうぞどうぞ駅前に!」
「セロハンテープを切らしたので、文具店を探しています」
「ずずっと駅前に!」
全てビキラの得意分野であったので、ていねいに対応出来た。
駅前の推薦アルバイトは上々の出来に終わり、ビキラは鼻が高かった。
そしてその幸運は、『哀れの女神』の思し召しであったのだが、ビキラは生涯気がつく事はなかったのだった。
(駅前撒き餌)
えきまえ、まきえ!!
お読みくださった方、ありがとうございます。
明日は「続・のほほん」を投稿予定です。
どちらを投稿出来るかは、在庫次第な状態です。
同じ日に、「新・ビキラ外伝」と、「続・のほほん」の両方を投稿したら、「ああ、余裕が出来たんやな」と思って下さい。