「崖の上のビキラ」の巻
「きっ、貴様の思い通りにはならんぞ」
崖の上に追い詰められた窃盗団の首領、クロンヂが叫んだ。
「思い通りって、あたしは単にあなたたちを捕らえたいだけよ、賞金稼ぎなんだから」
追い詰めた魔人少女、ビキラが応じた。
「その後ろの崖から飛び降りて逃げるって言うの? 五十パーセントの確率で死ぬと思うけど」
そう言われ、崖の下の岩礁に打ち寄せる高波を覗く窃盗団「灰色魔党」。
「と、飛び降りるんじゃねぇよ、小娘。貴様を倒すんだ!」
「五十パーセントじゃねえよ、百パーセント死ぬよ!」
「じゃあ、大人しく捕まってくれなくて、あたしと戦うって言うのね?」
にたりと笑みを見せる魔人ビキラ。
そして回文を詠唱した。
ビキラは回文妖術師なのだ。
回文を具現化し、悪党を苦しめる事で、貧困を解消しているのだった。
「かさ増しした獅子まさか (かさまししたしし、まさか?!)」
ビキラの詠唱で、全長五メートルはあろうかと言う獅子が具現化した。
胸板は厚く、漆黒のタテガミが勇ましい。
タテガミは腹部まで帯状に太く長くつながっていた。
「うへえ、バーバリライオン?!」
悲鳴のように叫ぶ首領、クロンヂ。
「そ、そうそいつ、野蛮ライオン!」
調子を合わせるビキラ。
「気が向けば空を飛び、岩をも噛み砕くのだ!」
「首領、ちょっと待って下さい。あのライオンの脚、短かすぎないですか?」
「えっ? バーバリライオンは、脚が短いぜ」
「いや、短い上に細すぎますってば、あの四本脚は」
「脚だけ白いのもオカシイです、首領」
「バレたみたいね」
と、肩の上の古書ピミウォにささやくビキラ。
「さすがにのう」
と、表紙を歪めて苦笑する古書ピミウォ。
「そう言えばてめえ、『かさ増しした獅子』って言ってやがったな?!」
と、首領クロンヂ。
「そうか、ハリボテだ。そのデカいライオン!」
「人間が二人、入ってやがるんだ!」
「しかも短足と見た!」
見破って叫ぶ手下たち。
「見破られたからには仕方がない」
被り物のバーバリライオンを脱ぐ、
「慣れ慣れしい医師レナレナ (なれなれしいいし、れなれな!!)」
と、
「恥ずかしい医師カズハ(はずかしいいし、かずは!!)」
「うっ。首領、バーバリライオンよりヤバそうな奴らが現われましたぜ」
「ビビるんじゃねえ、ただの白衣の医師じゃねえか」
「ぶち砕いて抱く恥部 (ぶちくだいて、いだくちぶ!!)」
と、突如カズハが叫んだ。
「回文だったら何を言っても良いってもんじゃないのよっ!!」
即座にカズハを殴り倒す女医レナレナ。
「まったく恥ずかしいったら!」
地に伏し、ピクリとも動かなくなるカズハ。
しかし、これで恥ずかしい事は言えまい、出来まい。
「ああ、そこの数個体、気にせず掛かって来てよ」
なれなれしく窃盗団に話し掛ける女医レナレナ。
「お姐さんが可愛がってあげるから」
「お主そのままではないか、ビキラよ」
レナレナを見てつぶやく古書ピミウォ。
「キャラ作りが面倒だったもんだから、つい」
と、ビキラ。
「おおおおお女だからって、手加減しねえぞ」
首領クロンヂが喚いた。
実は異性が苦手なクロンヂだった。
付き合った事がなかったからだが、その話はまた後日。
「オレらが束になって掛かれば、あんな強そうな女医のひとりやふたり」
「やる気らしいぞ、ビキラ」
と、古書ピミウォ。
「馬鹿ね」
ビキラは同情し、そして吐き捨てた。
「そんな数個体で、あたし相手に何が出来るって言うのよ」
数個体の窃盗団は、果敢にもビキラと彼女の分身たる女医レナレナに立ち向かった。
そして殴られ過ぎると、幸せな気持ちになる事を知るのだった。
(数個体多幸す)
すうこたい、たこうす!!
↑。苦しまぎれの回文です。
決して暴力を推奨する話ではありません。
お読みくださった方、ありがとうございます。
回文を幾らかブチ込んだわりに、ラストがアレで申し訳ありません。
明日も「新・ビキラ外伝」を投稿します。
今度は苦しまぎれではありませんように。
ではまた明日、「新・ビキラ外伝」と「蛮行の雨」で。