「ビキラと泥人形」の巻
魔人少女ビキラは、街に危険を知らせるために急いでいた。
街に到着する前に、雑木林で花を摘んでいる親子に出会った。
う
ビキラは叫んだ。
「たっ、大変です! ゴウレムの群れが街に迫っています!」
ビキラの肩に立つ古書ピミウォも叫んだ。
「早く逃げるのじゃ!」
「ゴウレム? なんですか、それは」
娘と一緒に花を摘んでいた母親が言った。
「ええっと、自動で動く泥人形です!」
その場で足踏みをしながらビキラは言った。
「それはゴーレムでしょう?」
「いや、この場は、ゴウレムで」
と、ピミウォ。
「言葉はちゃんとしないと信頼が築けませんよ」
「この際、そんな細かい事はナシで!」
と、ビキラ。
「たとえば『茶飯事』の事を『ちゃめしごと』と言っていた人は、渾名が『チャメシ』になって、人に軽んじられる人生を送りましたよ」
「ををを。なんかリアルな話」
「その人は『矛盾』を『よじゅん』とも言ってました」
「うあ。ちょっと痛い人?」
「そうです、イタメシのような人でした」
「でっ、でもゴウレムがそこまで来てて」
「うわっ、来おったっ!」
ゴーレム、いやゴウレムの群れが雑木林を割って現われた。
「ひゃあ! ゴーレム、いやゴウレムだわっ!」
母親は娘を抱きかかえ、娘を抱きかかえた母親をビキラは背負って、ゴウレムの群れから逃げた。
「ゴウレムよ! 皆さん逃げて! ゴウレムの群れが街にっ!!」
母親はビキラの背で叫んだ。
「うわっ、本当だ!」
「ゴーレム、いやゴウレムの大群だっ!」
街の人々の逃げ足は、さいわいにも早かった。
人々はお互いに知らせ合った。
「ゴウレムだ、逃げろ!」
「早く逃げるんだっ!」
「ゴウレムから逃げるんだっ!」
泥人形の群れには、街の魔法使いたちが対応した。
乾燥波を放射して水分を奪い、身体を崩壊させてゆく。
身体が崩れ、剥き出しになった核を壊すのは、比較的に容易いようだった。
次々に崩れ、倒されてゆくゴウレムたち。
「岩石ゴウレムでなくて良かったわねえ」
ビキラは、礼拝堂の屋根で高みの見物を決め込みながら、つぶやくのだった。
「眠れるゴウレム群の『お目覚めスイッチ』を押したのはお主じゃからな、ビキラよ」
「ううう、うっかりじゃないの。その事実、墓場まで内緒よ」
地上の騒ぎを他所に、こそこそ話し合うビキラとピミウォだった。
(群れ動くゴウレム)
むれうごく、ごうれむ!!
お読みくださった方、ありがとうございます。
最後までお読みくださった方、重ねてありがとうございます。
明日も「新・ビキラ外伝」を投稿予定です。
今日の夕方には、「続・のほほん」を投稿予定です。
ではまた明日、「蛮行の雨」と「新・ビキラ外伝」で。