「ビキラと無料ゲー」の巻
とある小さな街の銀座を歩いていて、魔人少女ビキラは、
「今、すれ違った大剣を背負った大男、賞金首じゃない?」
と、自分の肩に立つ古書、ピミウォに聞いた。
額の真紅の二本ヅノ。真紅の一本シッポは、手配書を見ていたので、記憶に残っていたのだ。
「しーーっ!」
ピミウォは、しおりヒモを背表紙に立て、ビキラを黙らせる。
「暴れん坊で有名な、虎熊毛皮のヅァロリンじゃ。幾多の街を破壊して来たと言う噂ぞ。今回は関わるでない」
「じゃあ、やっぱり賞金首なのね」
と、腕まくりをするビキラ。
「こりゃ、人の話を聞け! 捕り物で街を破壊して、弁償はどうするのじゃ」
「あーー、そう言う話?」
「そういう話じゃ。たとえばこの銀座を破壊して、弁償する財力のある者は、ヅァロリンに戦いを挑んで良いと思うのだが……」
「うん。あたしたちには、無理ゲーだわ」
「いや、戦いはゲームではないが……、難易度は限りなく高かろうが」
立ち去ろうとするビキラたちだったが、
「お前、賞金稼ぎだな」
と、声を掛けられた。
「えっ?!」
と言って振り向くと、そこには大剣使いの賞金首、ヅァロリンが立っていた。
「な、何をおっしゃいますやら。あたしら、名もない通行人でござんすよ」
ヘコヘコと頭を下げて答えるビキラ。
弁償するような展開が嫌だったからである。
「ヅァッ!」
叫び声と共に大剣を抜き放ち、ビキラに斬り掛かる大男ヅァロリン。
「ひゃっ?!」
銀座の本屋の屋根に飛んで躱わすビキラ。
「な、ななな何をするんですか、旦那さま」
「名もない通行人が、ワシの秘奥義岩断斬を避けるのか?」
タイルの通路に深く刺さった大剣を抜くヅァロリン。
「たまたまですよ」
本屋の屋根の上で手を横に振るビキラに、虎熊毛皮をひるがえして大跳躍斬りを見せるヅァロリン。
「どひゃっ!」
間一髪、振り下ろされた大剣を避けるビキラ。
爆発するように破壊される屋根瓦。
「ああっ、本屋さんの屋根がっ!」
「だだだ大丈夫じゃ、あのくらいなら、銀行の預金でなんとかなるっ!」
屋根伝いに逃げるビキラに、次々と大剣を振り下ろすヅァロリン。
通行人が集まり、
「狼藉者だ!」
と指をさして騒ぎ始める。
「ああっ、八百屋さんの屋根がっ!」
「音楽堂がっ!」
「魚屋さんがっ!」
「銀行屋がっ!」
「バレー教室がっ!」
「お米屋さんがっ!」
「酒屋さんがあっ!」
ついに避けきれず、頭上に振り下ろされた大剣を、真剣白刃取りの要領で受ける魔人ビキラ。
ビキラは斬撃の衝撃に耐えたが、文房具屋の屋根はビキラの踏ん張りに耐えられず、屋根にぽっかりと穴が空いた。
「ひゃあ!」
「うおおっ?!」
「おっと!」
瓦礫と共に落下するビキラとヅァロリン。
身体を広げ、ページを羽ばたかせて空中に逃げる古書ピミウォ。
ヅァロリンは床に倒れ、落ちて来た屋根の破片、砕片で頭をしたたかに打ち、運悪く気を失った。
「ビキラ、今じゃ、逃げるのじゃ!」
「合点だ!」
気が動転していたビキラとピミウォは、ヅァロリンを捕まえずに逃げ出した。
ヒョウ柄のジャケットを頭から被り、手遅れながら顔を隠すビキラだった。
賞金首ヅァロリンは、街の有志の手によって捕縛された。
ヅァロリンの大剣によって散切り頭のようになった銀座通りは、
「ざんぎり銀座」と名付けられて、ちょっぴり賑わうようになったそうである。
(ざんぎり銀座)
ざんぎりぎんざ!!
お読みくださった方、ありがとうございます。
明日も「新・ビキラ外伝」を投稿予定です。
「続・のほほん」は、お休みです。
決して在庫が危ないからではあります。
しかしそれでは、今度は「新・ビキラ外伝」が危なくなりゃせんかい?
何をおっしゃいますやら。
全くその通りではあります。
ではまた明日、「蛮行の雨」と「新・ビキラ外伝」で。