「ビキラとミサイルマン」の巻
海沿いの街道で、魔人少女ビキラは呼び止められた。
「そこなお嬢さん、財布を落として難渋しております」
立派な身なりの紳士が、街道の端に座り込んでいた。
「ちょっとお金を貸して頂けまいか?」
だかその紳士は、寸借詐欺のギンズルだった。
そしてビキラの相棒、古書ピミウォが、ギンズルの正体を見破っていた。
古書に収集している手配書に、顔があったからである。
ギンズルの魔人の証は、頬っぺたの渦巻き模様だったのだ。
「おっちゃん、寸借詐欺のギンズルでしょ? 一緒に岡っ引き屯所へ行きましょう」
と、優しく話し掛けるビキラ。
ビキラは賞金稼ぎであった。
「ぬぬぬ。暴露ておったか」
元気に立ち上がる紳士姿のギンズル。
「それでは此処で死んでもらおう。詠唱が終わるまで、静かに待て」
そのギンズルの言葉に、思い当たるビキラとピミウォ。
「詠唱を待て、だって。ひょっとして例の、長いヤツ?」
「かも知れんなあ。まあ、待ってみよう」
ギンズルは手印を切りながら、詠唱した。
「ゆめはうせ (夢は失せ)
かたなにとける (彼方に溶ける)
あやしきをろち (怪しき大蛇)
ひねもすわらふ (終日笑ふ)
こまいぬのむれ (狛犬の群れ)
ゑみおさへそりて (笑み押さへ反りて)
つよくほえゐん (強く吠え居ん) 」
「やっぱり、かな四十八文字のパングラムだわ」
「八岐大蛇と、狛犬の群れが出現したぞ。大丈夫か、ビキラよ」
ヲロチの大きさは、驚くほどではないものの、巨体と尻尾で完全に街道を塞いでしまった。
身を反って、笑いをこらえつつ天に吠えている狛犬多数。
回文妖術師でもあるビキラは、反撃すべく回文を詠唱した。
「我が味方、北上川 (わがみかた、きたかみがわ!!)」
どっ!!!
と、具現化し、街道にたむろする八本首、八本尻尾の巨大なヲロチと、狛犬の群れを海に押し流した。
あっ、と言う間の出来事であった。
寸借詐欺のギンズルも、ひとたまりもなく沖に流されて行った。
北上川は、岩手県中央部を北から南へと流れる一級河川である。
それなりのプライドもあった。
自分を証明するために、流域出身者である宮沢賢治や石川啄木も押し流した。
雨ニモ負ケズ風ニモ負ケズ、しかし川の流れには負けて、ビキラの目の前を流れ過ぎてゆく宮沢賢治。
じっと手を見たり、蟹と戯れたりしながら、ビキラの前を流れ過ぎてゆく石川啄木。
「なるほど、北上川じゃ」
と、感心するピミウォ。
「しかし、寸借詐欺を捕え損なったが良いのか?」
「ついハズミで……、むにゃむにゃ、八岐大蛇や狛犬の群れを相手に勝つ自信はないから、これで良いわ」
ちょっと残念そうな顔をするビキラ。
「むう。ビキラよ、沖に流された八岐大蛇が、こちらに向かって泳いで来るぞ」
「仕方ないわね、もう」
ビキラは舌打ちとともに詠唱した。
「ミサイル勇 (みさいる、いさみ!!)」
具現化するミサイルマン勇。
「一発、ドカンとやってやるぜ!」
ミサイルな勇は元気一杯だった。
「矢でも鉄砲でも持って来いってんだ」
「勇様、沖から迫って来る八本首の大蛇をヤっちゃって」
と、ビキラ。
「合点だ!」
尻からドッ! と火を噴いて、飛んでゆくミサイル勇。
街道でイサミを使うと、街道が破壊されてしまうし、自分もただでは済まないので、水責めにしたビキラだった。
やがて沖で巨大な爆炎が上がり、圧力波が街道のビキラたちを襲った。
「ひゃあ!」
悲鳴をあげ、蹌踉めき倒れるビキラとピミウォ。
「い、イサミ。あんなに強かったんだ」
地に伏したまま呟くビキラ。
「津波も迫っておるぞ、高みに逃げるのじゃ、考えなしのビキラよ」
ページを羽ばたかせ、陸地の奥に逃げる古書ピミウォ。
「それにしても、我が身を犠牲にして……。尊い御仁じゃった」
「いや、ミサイルって、そういうモノじゃん」
斜面を登りながら、ビキラが言った。
「でも、もう少し話しとけば良かったかな」
「いや、情が移って、爆散された時が辛かろう」
ピミウォがしんみりと応じた。
(尊いの居とった)
たっといの、いとった!!
昔に「ミサイル勇」を使っていましたので、昔の「ミサイル勇」を書き換えました。
回文詠唱はダブっちゃいけない事にしたからなあ。
気をつけないと……。
お読みくださった方、ありがとうございます。
明日は、「続・のほほん」と、「新・ビキラ外伝」を投稿する予定です。




