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「庭で対話するビキラ」の巻

賞金稼ぎビキラは、宿屋の廊下で会ったシルクハットの紳士に声を掛けた。

「逃げないでね、追っかけるの面倒だから」


「な、なにを言っておるか、そなたは」

  紳士は驚いて言った。


「あなたって、ほら、賞金首じゃない?」

「そしてこの魔人少女は、賞金稼ぎ」

  と、ビキラの肩に乗る古書ピミウォが言った。

「賞金首を見つけたら、捕まえようとするのは必然じゃて」


魔人ビキラは小柄だった。

しかし、意志の強さを表わすように、ヒョウ柄のジャケットとブーツを身につけていた。

そして虹色の髪が、人間ではない事を示している。


(えっ? バレてる?!)

(高い服を買って紳士に変装したのに)

  食い逃げの常習犯、サエササイは(あわ)てた。

魔人の(あかし)である、スラックスから出ている一本シッポは、別に珍しくもない。


少女の青い瞳は深く、射すくめられたような気分になるサエササイだった。

(ここは、なんとかせねば)

「いや、お嬢さん(おご)りますよ。どうですか? 特製ステーキ定食など」


サエササイは食い逃げは、お手のものだった。

そうやって、街で会った見ず知らずの何十人と言う人間に支払いを押し付けてきたのだ。


「断る」

(なか)をぎゅるぎゅる鳴らしながら、ビキラが言った。

「貴様を捕まえて、その賞金で焼き魚定食を食べるから、問題ない。とりあえず、廊下はマズいから庭に」

  と、誘うビキラ。

(いざとなれば、庭の方が逃げやすい)

  と思って従う賞金首サエササイ。


庭に降りるなり、


「庭にワニ (にわに、わに!!)」


  と回文を具現化させるべくビキラは詠唱したが、空間に、「ヅヅーーー!」と言うビープ音がして、何も出現しなかった。


「すでに一度、使っておるようじゃな」

  と、ピミウォ。


宇宙の摂理(せつり)によって、一度使った詠唱は、二度と使えないのだった。

  勢い、少し変えて使う事となる。


「庭がワニ (にわが、わに!!)」


  ヅヅーーーー!

「それも使用済みのようじゃな」


「庭師ワニ (にわし、わに!!)」


  ヅヅーーーーー!


「庭で対話だ沸いたでワニ (にわでたいわだ、わいたでわに!!)」


ようやく詠唱が通り、魔人ビキラと、賞金首サエササイの周りにワニがワラワラと沸き()でた。


食い逃げ犯が、びっくりしている間に、ビキラは素手で殴ってサエササイを失神させた。


  一件落着である。



食堂で焼き魚定食を食べながら、古書ピミウォが言った。

「最初からアレをやれば良かったのじゃ」


「長い回文(やつ)、そんなにほいほい出来ないのよ」

  ビキラは回文妖術師の本音を吐いた。

「回文の事ではない。素手で一発、殴ったろうが」


「素手で解決してたら、回文妖術師じゃなくなっちゃうじゃないの」

「それはそうじゃが……」


「ああいう直接物理攻撃は、ちょい足しだから、良いのよ」

  それがビキラの理屈であった。


ヘソを曲げて、意地でも暴力は使わないという暴挙に出た事もあった。

だが、妖術より暴力が得意な事は、ビキラは百も承知していた。


あとはプライドの問題である。

     妖術師として生きるのか、

        それとも格闘家として生きるのか。

解決策はひとつ。

   ある時は、回文妖術師。

      ある時は、蛮行の格闘家。

しかしてその実体は、臨機応変な気まぐれ魔人少女。


    ビキラの新たな旅は、

        まだ始まったばかりであった。



(したのです素手の足し)

したのです。すでのたし!!





お読みくださった方、ありがとうございます。

以前に投稿していた

「回文妖術師と古書の物語『魔人ビキラ』」の外伝で、

回文オチ形式のショートショートです。


「続・のほほん」にも投稿しておりました。

最初に、「なろうサイト」に投稿を始めた物語なので、愛着があって、また始めてしまいました。

不定期投稿になると思いますが、見かけたら、そして気が向いたらのぞいてみて下さい。


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