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それは突然のことだった。


週末になるといつも上靴をマメに持ち帰るオレは当然のように下駄箱の中に上靴は入れずスクールバッグの中に無造作にそれを押しこんだ。そして下駄箱に手をかける。


既に生徒のほとんどが下校したというのに妙に廊下が騒がしい。だが別に気にもしなかった。来年から高校生だというのに幼さがまったく抜けない同級生に嫌気がさしていた。もちろん生徒だけではない。毎日耳障りなほどに「勉強、勉強」と言うしか能がない教師にも無論嫌気がさす。


正直、今は誰とも関わりたくはない。



思春期、反抗期。

そんな言葉は腐るほど聞いた。


誰もが通る道。

友情だの努力だの、大人に無理やり期待を押しつけられて窮屈なカゴの中で過ごしているオレは一体何のために今ここにいるんだろうか。そんなことを最近考えるようになった。


自分の存在価値?面倒くさい事はあまり考えたくないのに・・・、余計な事ばかり考えてしまう。おかげで勉強なんて手つかず。鞄の中に押し込まれた参考書はほこりがかぶっているのではないかと思うくらい読んでない。



世の中が変わってしまったのか。それとも自分が変わってしまったのか・・・。



下校時刻はいつの間にか過ぎていた。

気がつけばオレは下駄箱の前で直立したまま放心していた。


昇降口の静けさに妙に安堵する。

一つ深呼吸して、鞄を持ち直す。そして愛用の外靴を下駄箱から出した。



・・・ヒラリと靴の中に入っていた手紙が足元に落ちた。手紙?一瞬、踏みそうになってしまった。驚きなのか、不安なのか手紙など指で数えられる程しかもらったことのないオレはいささか戸惑った。


それも当たり前だ。誰もオレを怖がって近寄ってこない。オレは笑うのが苦手だ。何故楽しいとも思えないのに皆普通に笑えるのか理解に苦しむ。この考えがおかしいのだと頭の隅では理解しているが納得はできない。


なにせまだ中学3年生。すぐに問題の答えを出すなんて容易じゃない。「人生の問題はゆっくり確実に解決していくべきだ」と父は言う。その言葉が今のオレをつくっているような気がする・・・。



ゆっくりとしゃがみ手紙を拾い上げる。


もう日は完全に暮れていた。薄暗い帰路をゆっくりと進みながら手紙を開く。そこには繊細な、だがしっかりとした文字がつづられていた。





-広瀬(ひろせ) 夏輝(なつき)君へ-



いきなりこんなこというのもなんだけど君に好意を持っている。

できれば明日の放課後、屋上に来てほしい。



緒方(おがた) 大希(たいき)




「え?」

思わず声が漏れた。

まさか友だちからこんな形で手紙をもらうことになるなんて想像もできなかった。


しかも同性。異性にこれといった興味があるわけでもないが同性にはもっと興味がない。これは文字通り読むべきか、何か奥があるのか・・・できれば後者であってほしい。


緒方 大希・・・。

確か水泳部の・・・全国大会まで行くはずだったのにいきなり途中棄権した生徒。なんでこんなやつがオレに興味をしめしたのか見当もつかない。


家の扉が混乱した頭を落ち着かせてくれた。明日の放課後・・・イタズラかもしれないが暇つぶしにはなる。できれば人と関わりたくはないが静かな屋上は好きだ。




(行ってみるか・・・)


心の中で呟いた。玄関のすぐそばにある階段を上がってすぐに夏輝の部屋がある。自室に入った瞬間、スクールバッグを投げ出した。そして疲れた肩をさすりながら倒れこむようにベッドに転がる。妙な脱力感と疲労感が同時に襲ってきた。制服のまま、夏輝は静かに目を閉じた。

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