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会議



 魔法が浸透しているイフィリオスの世界であっても空を飛ぶという行為は特別らしい。

 魔法使い単体ならともかく、大きな乗り物をそのまま飛ばすというのはあまり見ない。


 大国ラズが用意した軍議の場は、王城から程近い迎賓用の館だった。

 館の敷地内に空飛ぶ馬車が続々と到着する。

 魔法の力で強化された輓馬は息が荒かった。用意されていた水を桶からがぶがぶと飲んでいる。


 おれとベータが飛行艇で現れると、それを館の中から見ていた何人かの国の代表者が表に飛び出してきた。

 飛行艇は敷地内の隅に収まる。その緻密なコントロールにも感嘆の声が漏れた。

 おれとベータは一応、彼らの正装に似た服装を用意して着ていた。氷の大陸の王族は、皇国の貴族と比べると質素な恰好を好んでいたので、おれもあまり派手な服を用意せずに済んだ。


 おれとベータが会議場に乗り込むと、既に半数程度の代表者が集まっていた。

 議長のザカリアス帝と、その腹心レーム将軍の姿もあった。巨大な長方形の机を囲む形で席が作ってある。

 おれの席も用意されていて、ザカリアス帝の近くの、やや後方に控えるところにあった。


「どうも」


 おれが声をかけると、ザカリアス帝は握手を求めてきた。


「報告は聞いている。信じられないほどの活躍だそうだな。きみがタージ公国に到着した翌日には、数か国の諸王から問い合わせが来たよ。タージ公国に放った技術者は何者なんだ、とな」


 おれはレーム将軍の少し疲れた顔をちらりと確認してから、ザカリアス帝との握手に応じた。


「光栄だな。できればタージ公国だけではなく、大陸全体におれの活動範囲を広げてみたいんだが」

「おっと、まだ何かしてくれるのか? 心強いものだが……。しかし同時に、皇国の軍事力が想定以上なのではないかと危惧する声も出てきている。きみ個人でこれだけやれるのなら、皇国ではこれ以上の技術や兵器が横行しているのではないかと」


 おれは一瞬考え、


「結論から言えば、同程度の技術はあれど、これ以上の技術は考えにくい。専守防衛に徹するならむしろこちらに分があると思う。おれは専門家ではないがな」

「……ふふ、そうか」


 ザカリアス帝は笑みを含んだ。

 どうして笑われたのか考えた。おれの嘘が見透かされているのかもしれない。

 おれはザカリアス帝ともっと話がしたかったが、諸王がおれに興味津々で、話しかけるタイミングをうかがっていた。

 一人がおれに、あの空飛ぶ船の動力は魔法か、凄腕の魔法使いが制御しているのか、それとも魔法道具の一種かと質問してきた。


「あれは商品だ。交戦能力を持たないが、武装させることも可能だ。ただしその場合、人を乗せることはできない。遠隔操作が基本となる」

「遠隔操作?」

「今回の会議で、詳しく説明したいと思っている。皆興味があるだろうしな」


 会議はその一時間後に開催された。

 ザカリアス帝がまず挨拶をし、簡単に諸王や代表者を紹介した。そして今回の軍議が行われる理由――おれを紹介した。


「彼はスズシロ。旅の商人だ。皇国に滞在した経験があるので情報源として貴重だと考えている。しかし何より注目すべきはその卓抜した技術力だ。巨大な鉄の装置を駆使し、たった数日で大規模な建設工事を完了させた。今もタージ公国全体の要塞化に尽力してもらっている。兵器の販売でも、お世話になるだろう」


 おれはここで、彼らに供与する予定の兵器の説明をした。機能を限定した、あくまで迎撃用の兵器の数々。砲台や銃火器だけではなく無人兵器、索敵装置、防衛網、その制御システム。彼らに理解できるような説明を心がけたが、半数以上が目を回していた。


「にわかには信じられないな」


 一人の王が発言した。


「火力兵器や、空飛ぶ船は、まあ分かる。だが無人兵器を遠隔操作? よく分からないが……、あまりにも我々の常識から隔絶した兵器だ。本当にうまく機能するのか? 聞いたところによると、そなたの兵器が誤作動でラズ国の王城を一部破壊したそうじゃないか」

「正直に言うと、それはわざとだ。おれの兵器の性能を知ってもらおうとした。パフォーマンスだな。本当の性能についてはこの後実演する」


 諸王はざわめいた。また別の王が発言する。


「皇国から来たというが、貴様が皇国と通じていない証拠は? タージ公国領地を好き放題に改造して回っているそうだが、いざ開戦というときに我々に不利なように仕組んでいる可能性だってある」

「可能性を考慮するというのなら、もっともな意見だが。実際に現地に行って調べてみればいい。一応、現地の監督官が計画していた防壁や砦の構造に寄せたので、不審な点はないはずだ」


 おれの淀みのない返答に一瞬会議場は静まった。ここでザカリアス帝が悠々と手を挙げる。


「スズシロ。きみはカネが目的で兵器を売ろうとしている。それに間違いないか?」


 何かを企んでいそうな顔をしているザカリアス帝を警戒しながら、おれは頷いた。


「……そうだ」

「支払いはどうする? 聞くところによると皇国は金貨や銀貨で支払うそうだが、この大陸においては紙幣が流通している。国家が所蔵している正貨といつでも兌換できるという約束事のもと、紙幣で経済圏を形成しているわけだ」


 支払い……。カネなんて本当は要らないが、無償で協力すると言ったら怪しまれるだろう。


「紙幣の支払いで構わない」

「しかしきみの商品は安価では済まないだろう。紙幣なんていくらでも発行することは可能だが、強烈な物価高が引き起こされる可能性がある。ただでさえ戦争に備えてモノ不足に陥っているところだ」

「……ザカリアス帝、何が言いたい?」

「きみが望むような報酬を我々は用意できないかもしれない。カネ以外に何かあれば、是非うかがっておきたいと思ってね」


 ザカリアス帝は笑みを含んでいる。もしかするとおれの意図を見抜いているのかもしれない。

 乗せられている。おれはふうと小さく息を吐いた。


「……おれの希望は、タージ公国ほか、今回の騒動で滅ぼされた国を復権させることだ。はっきり言って、タージ公国は見るに堪えない惨状だった」

「ふむ。その件は私の裁量を超えるな。いかがだろう、皆さん」


 ザカリアス帝が諸王に呼びかける。諸王の視線はとある一人の代表者に集まっていた。実際にタージ公国と戦って滅ぼし、統治を任されていた国の代表者だろう。

 代表者は顔を真っ赤にして、ザカリアス帝を睨みつけた。


「――私を責めているのか!? 軍隊を出動させたのは合同軍議の決定に則ったものだ!」


 ザカリアス帝はひらひらと手を振って、柔らかく否定した。


「いやいや。責めてはいないさ。皇国との戦争に備え、ありとあらゆる手段を行使するとの決定が下ったわけだし、そもそも個別の国家がどこと戦争を起こしたとしても、それはその国の自由だ。ただし、皇国との戦争に際し、有効な手段ではなかった場合、それを翻すだけの器量を持っていて欲しいと、議長国としては希望する」


 何人かの諸王がうんうんと頷いた。責められていると感じたか、代表者が立ち上がった。


「ザカリアス帝。本気でこの得体の知れない男を登用するおつもりか? ちょっとした小間使いを雇うのとはワケが違う。国家の存亡が懸かっているのだぞ!」

「分かっているさ。だからこその軍議だ。タージ公国での彼の働きぶりは超人的だ。我々にとっては救世主と言ってもいい。彼の手綱は私が握る……。その上でその能力を最大限活用したい。それが私の考えだ」


 ダァン、と卓を叩く。代表者は唾を飛ばして訴える。


「能力があるのは分かった。しかし信頼がない! 強大な力は、一歩間違えれば我々に破滅をもたらしかねない!」

「指をくわえて事態を見守っていても、我々に待っているのは破滅さ。採決を取ろうじゃないか。スズシロを信用するのか、しないのか。私が手綱を握ると言っているのだから、雷剣帝ザカリアスの信用問題でもあるな。いかがだろう?」


 採決が取られた。ぎりぎり過半数の代表者が、おれを信頼すると答えてくれた。タージ公国の民に人道的な待遇を与えて回ったことが、諸王の耳に届いていたらしい。ザカリアス帝がおれの後ろ盾になってくれたのも大きい。

 ザカリアス帝は苦笑していた。


「おっとっと、もっと圧倒的な支持を得られると思っていたが、厳しいな。不徳を恥じるばかりだ。とはいえ、これで次の話ができる。スズシロ、きみには皇国に対抗する策があるのだろう?」


 ザカリアス帝に促され、おれは氷の大陸各地に工場を建設することを提案した。無人兵器工場を造り、人間の出血なくして戦争に勝利する。ちまちま商品を購入するのではなく、技術まるごと、工場を買ってもらう。

 それは無人兵器軍団の構想だった。理解を拒む者、一笑に付す者、真剣に聞く者、様々だったが、実際に行動を開始すれば全員認めざるを得ないことを、おれは理解していた。


 数十分後、おれは無人兵器を使った実演を行った。館の敷地内で模擬戦争を演じたのだ。

 それはかなり小規模なものだったにも関わらず、諸王を畏怖させた。

 事情を知らないラズの国民は、迎賓の館の高い塀の向こうで行われている砲火の応酬を、何らかの催しだと勘違いしたらしい。街で混乱は起きなかった。


 正確な射撃。迅速な機動。無人兵器による流血のない戦争。

 館の敷地には、あまりに正確な射撃による幾何学模様が刻み込まれ、その現実離れしたワザに、目撃者の大半が絶句していた。


「皇国の軍隊は氷の大陸に足を踏み入れることさえできない。海洋上で全滅するだろう。我々は一兵たりとも失うことなく勝利する」


 ザカリアス帝が言った。誰もそれを楽観に過ぎると否定しなかった。既存の軍隊が、この無人兵器の軍隊に勝てる見込みがないことは、誰もが理解していた。




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