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順調


 ダンジョン攻略は順調だった。

 オットケとは有意義な話ができたし、小人たちの研究も進んだ。

 ここでの成果が、アドルノや魔族にとって有意義なことに繋がると信じていた。

 

 ダンジョン攻略を着々と進めていたが、アドルノが一日ほどで一旦帰還してきた。

 安全に進行していくなら休憩は必須だ。

 休憩中もアンドロイドや小人の兵隊たちは魔物を狩り続けている。

 戦闘は彼らに任せ、アドルノは彼らに対応できない事態に備えることに専念するようだった。


 アドルノはダンジョン近くの横穴にねぐらを作り、そこで仮眠することにしたようだ。

 おれとベータが上質なベッドをこしらえると、ふかふかの寝具の上で飛び跳ねた。


「まさかこんな僻地で、一等の宿に泊まれるとはな」

「好きな食べ物を言え。皇都での暮らしで大体の食事は作れるようになった」

「ほう?」


 アドルノが好き勝手に注文すると、ベータがほんの数分で全て揃えてしまった。

 卓上に並んだ色とりどりの食事を見て、アドルノはしばらく絶句してしまった。

 料理を口に運んで、更に驚く。味も彼の満足いくものだったらしい。


「いつでも高級宿を経営できるぞ。いったい、どうやってるんだ?」


 アドルノは食事にがっつきながら言った。


「簡単に言うと、何でも作れるのさ、こいつは。何なら原材料がなくても、手本さえあれば合成して作れる」

「ダンジョンの中でも作れるのか?」

「資材が十分にあれば」


 アドルノは自分の頭をぺし、と叩いた。


「参ったな。リーゴスのダンジョン内でも注文すれば良かった。味気ない食事しか摂ってなかった」

「あのときはおれもベータも、イフィリオスの食事がどういうものかいまいち理解していなかったからな。栄養重視だ」


 アドルノは食事を終えると、仮眠を取った。

 おれとベータは彼の部屋から退去し、アドルノの代わりにダンジョン内部の様子をモニターした。

 魔物の駆除は順調に進んでいるらしい。こちらの損害はほとんどない。


 数時間経って、アドルノが起床した。伸び始めていたヒゲを手で撫でると、それだけで剃れた。手の先を刃物のように鋭く変形させ、剃ったらしい。アドルノは小さく欠伸をした。


「その魔法、良いな。簡単に身だしなみが整う」

「たまに指を変形させたことを忘れて、目をこすったりしてしまうことがあるがな。義手義足になってからはそんなことはなくなったが」


 アドルノは自分の義手を振って、まじまじと見つめた。起床するたび、自分の義肢が正常かどうか、確かめる癖がついているようだ。


「義肢はちゃんと馴染んでいるか?」

「おかげさまで。自分の本当の手足のようだ」

「そりゃ良かった。定期的にメンテナンスをしたいんで、これからもたまに会ってくれ」


 アドルノはちらりとベータを見た。


「おや。もしかして、私が寝ている間に診たのか?」

「ああ。数分で終わるしな」

「礼を言う。この技術を必要としている人間に心当たりがある。色々落ち着いたら、そのあたりも教えてもらいたいものだ」


 もちろん義肢だけではない。医術の知識は魔法の世界にあっても役立つだろう。


「おれもそのつもりだ。たぶん魔族にも適用可能だぞ」

「うむ……」

「そういえば魔族は無事か? アヌシュカは?」


 アドルノは魔族の保護に奔走していたはずだ。ここに彼がいるということは、安心して彼らの傍を離れられる隠れ場所を見つけたのだろうか。


「大丈夫だ。魔王の手先と思われる連中が潜伏先に現れたが簡単に撒けた。魔族は追われる生活には慣れている。今は全員固まって、とある街に潜んでいるよ」

「アドルノと一緒に行動したほうが安全じゃないか?」

「それはそうだが、ここに連れてくるわけにはいかない」


 アドルノはきっぱりと言った。おれは言われて初めて気づいた。


「ああ、そうか……。魔王か」

「そうだ。もしこのダンジョンに魔王が封印されていたら、近くの魔族の体を奪い取るだろう。ダンジョン攻略の際には近くに魔族を置くべきではない」


 もし、近くに魔族がいない状態で魔王がダンジョンから出てきたら、どうなるのだろう。あっさり倒せてしまうのだろうか。ぜひ知りたかった。

 おれはアドルノが難しい顔をしていることが気になった。


「以前からここにダンジョンがあることを知っていたのか?」

「オットケがこの場所に固執しているのは知っていた。何かがあるだろうとは思っていた。その何かの第一候補がダンジョンだ」

「なるほどね……」

「アヌシュカたちが心配なのは事実だ。一刻も早く攻略し、安全を確保したい。その後はここに魔族を呼んで拠点にしたい。オットケが了承してくれるかどうかは分からないが」


 ここを拠点に……。魔物という名前の食料はたくさんあるし、そう見つかる場所でもない。確かに潜伏先としては最適だった。


「心配ない。おれが頼めば了承してくれると思う」

「……しばらく見ない内に随分仲良くなったんだな?」

「まあな」

「ふふ……、処世術に長けているようで、羨ましいな」


 アドルノはその後しばらく休んでから再びダンジョン探索に戻った。

 マーカーを設置していたので、転移魔法ですぐにダンジョンの最前線へと戻る。

 おれはその後もダンジョン探索をサポートした。

 ダンジョン攻略をしている間に、探査船からは様々な報告が入ってくる。

 ニュウの勉強が順調に進んでいるとか、レダの魔法研究が成果をあげたとか、グリ派とモル派がダンジョン攻略を巡って小競り合いをまた始めたとか、イドゥベルガがギルドマスターをやめたがっているとか。


 おれはその中で、魔王が動き始めた前兆がないか、情報を整理した。

 この世界のどこかに潜んでいるはずの魔王。

 おれが皇国各地に建設した兵器工場は今も稼働を続けている。

 本当に魔王に対抗する術が兵器を造ることなのか、おれ自身絶対にこれが正解だとは言い切れなかったが、他に手段も思いつかない。

 少なくとも、ダンジョン攻略に兵器が役立っている現状を考えると、成果はある。

 アンドロイドを大量に動員すれば皇国中のダンジョンを同時に攻略できるな……。

 それが本当に可能かどうかは、ここのダンジョンをどれだけスムーズに攻略できるかにかかっている。

 貴重なモデルケースになるはずだ。

 おれはこのダンジョンに魔王が眠っていないことを願いつつ、常時送られてくるダンジョンのデータを吟味し続けていた。全てが順調……。これが最後の最後まで続けばいい。皆それを望んでいた。

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