魔法実験場
更に数か月が経った。
おれがこの星に降り立ってからかなりの日数が経過したが季節の巡りを実感することがなく、この星には年間を通しての気候の変動が少ないのかもしれない。
おれはギルドを通じて皇国と交渉し土地の使用権を獲得していった。
地主にはカネを渡し、可能であれば買収した。
採掘とプラントの建設が急ピッチで行われる。
建設自体は機械を自動運転して行い、資材さえ用意すれば三日ほどで完了した。
疲れを知らない建設機械は昼夜を問わず作業を続け、建設機械のメンテナンスも専用機械が行い、更にそのメンテナンスも同種の機械が行うという効率性があった。
懸念していた希少金属の入手は滞りなく進んだ。
幸い、皇国内の希少金属の埋蔵量はかなりのものだった。
もちろん想定していたもの全てを入手することは難しかったが、代替品の目星はついていたのでなんとかなる。
無人兵器の製造の目途が立ち、試作品も幾つか造った。
本来、兵器を造るだけなら試作品は必要なかった。
造る前にシミュレーションを繰り返せばそれで済む。
ただし魔法技術を搭載した兵器に挑んでいたので、不確かな部分がどうしても発生した。
ヒミコが蓄えた魔法の知識をふんだんに使った兵器だ。
信頼性に欠けるので、無人兵器全体の二割程度を想定しているが、従来の科学兵器では不可能な挙動ができる。
色々と実験しないといけないのでどこまで能力が伸びるか未知数ではあるが、魔王との戦いで魔法は不可欠。
なんとか実用化までこぎつけないといけない。
その魔法の起動には、聖印化したガンマとの接続が必須だった。
おれは魔法実験に立ち会い、ああでもないこうでもないと言い合ったが、魔法の知識があるとはいえ、実践できるわけではない。
ガンマ以外にも魔法の専門家の意見が欲しかった。
「それで私に協力を? 別に、いいけど」
レダを探査船に乗せて実験場まで連れてきた。
実験場は買収した土地に建設していた。
魔法能力を有したアンドロイドを多数並べ、逐一魔法を実際に発動させて威力や機能性を調べている。
レダはそのだだっ広い空間と、物々しい雰囲気に驚いたようだったが、空飛ぶ船や増産される傭兵アンドロイドを目の当たりにして、既にこういったことに慣れているようだった。
「私以外に適任がいると思うけど……。ギルドに知り合いがたくさんいるんでしょ?」
「彼らも忙しいからな。仕事の邪魔をするわけにはいかない」
レダは唇を尖らせた。
「その点、私は暇ですからねー。そうですよねー」
「ふて腐れるなよ。ニュウはどうした?」
レダは一瞬で機嫌を直して、心配そうな顔になった。
「ああ……。実は、来年度に魔法学校に入学することになって、今はその準備に忙しいの」
魔法学校。ヒミコが無礼な形で強制的に退学したあの学校。若干気まずいことになっている。自業自得だが。
「魔法学校に? 良かったじゃないか。ニュウの魔法の才能は凄まじいだろう」
「そうね。私より遥かに上等な才能がある。探査船に乗り合わせたギルドの人に、ニュウの才能を見抜かれて、入学推薦状を書いてもらったの。それで、来年度から入れることになったんだけど。ニュウって読み書きができないから、今必死に字の勉強中。村長に教えてもらってる」
「字の……。そうか。大変そうだな。手伝ってやりたいが」
おれの魔法との出会いはニュウから始まった。彼女が突然降ってきて、ニュウ! と鳴いたんだったか。そういえばこのニュウという発声はどういう意味があるのだろう。いまだによく分かっていない。
レダは小さく嘆息した。
「覚えが悪くてねー。あの子、頭は悪くないはずなんだけど、興味ないことには集中力が続かなくて」
「字が読めないと入学ができないのか」
ヒミコの場合は学長に直接話をつけるという荒業だった。もちろんニュウはそういうわけにはいかないだろう。
「そうだね。一応、試験もあるし……。推薦状があっても最低限の教養は必要かな」
「レダはどうやってそれを乗り切ったんだ」
レダは腕を組んで、昔のことを思い出すために斜め上を睨んだ。
「えっとね、試験一か月前に皇都に行って、勉強した。ニュウもそうするつもり。でも皇都に付き添いはできないから、それまでに字を完璧にマスターしておかないと勉強すらできないし」
「ふむ。良ければ家庭教師を派遣しようか? 試験内容を教えてくれれば、村にいる段階で効果的な勉強ができるだろう」
レダは慌てて手を振って遠慮した。
「え!? そんな……。スズシロたち、忙しいでしょ?」
「いや。全く問題ない。ニュウには結構世話になったからな。恩返しをさせてくれ」
「ええ? むしろ、私たちのほうが世話になった気がするけど……。でも可愛い妹の為なら、お願いしちゃおうかな。家庭教師」
「よし、ベータ。できるだけ村に馴染む容姿の奴を派遣してくれ。レダ、試験内容の詳細をベータに教えてくれ」
「あ、うん」
レダとベータが話を始める。おれはそれが済むのを待ってから、レダに話しかけた。
「それで、レダ……。おれたちは魔法の知識を、魔法学校の図書館から仕入れて大量に得たわけだが。実践という意味ではまだ不慣れなわけだ。その点をサポートしてもらいたい」
「それはいいけど、教えられることなんてあるかな」
早速、アンドロイドたちが魔法を撃つ。
プログラミングされた通りの動き、魔法の挙動。
しかし想定通りの威力や軌道にならないことが多い。
実験とシミュレーションを繰り返し、良好な魔法だけを採用するのがベターだが、やはりありとあらゆる魔法を網羅し、自由自在に魔法を開発したいという野望があった。
「あー、これはあれだね」
レダはすぐに問題点を挙げてくれる。
「これは、魔法学校でもわりと初期に習うことなんだけど。魔力は流れ。途絶えさせてはいけないわけ」
「流れ……」
「なんというか、現状、魔力の流れを一気に流して、それからピッ、と止めて、メリハリのあり過ぎる感じになっているかも。もっとこう、なだらかに、機嫌を窺うように……。この説明で分かる?」
レダは自分の説明に不安を覚えたようだった。おれはベータに目配せした。
ベータは何度か頷く。
「魔法素子とその周辺の機構に冗長性を持たせる、ということでしょうか。実はそういった類のアンドロイドも実験的に製造していたのですが、魔法の成功率が低く……」
「ただ冗漫にやっても駄目だよ。つまり、これは感覚なんだけどね……。魔力は止めれば止めるほど死ぬ。そう思って」
「摩擦は少ないほうが良いということでしょうか。確かに、魔法の発動要件を確実に満たす為、魔法素子間の情報伝達を並行的に行うのではなく、一つずつ実行してから順番に処理していることが多いです」
「あー、うん、たぶん原因はそこだよ、よく分からないけど」
「並行処理を行うには魔法素子の配列を根本的に変える必要がありますね。現在は最効率化されていますが」
レダの助言は新たな試みを与えてくれそうだ。これで何かが変わってくれればいいが。
おれたちは魔法実験を繰り返した。資源は豊富にあったので新たな機構や仕組みをすぐに試すことができた。
魔法の出来は、前進することもあれば、後退することもあった。レダが泣きべそをかいて役立たずでごめんなさいと叫ぶこともあった。しかし最終的には「私のおかげで形になったわね」と自信満々に言っていたので、その点は良かった。
機械兵団の魔法技術はモノになりそうだった。この後も研究は続けるが骨子は定まった。レダが思いのほかノリノリになったが、やはりニュウのことが気になっているようなので、一旦彼女は村に帰すことにした。
魔法の実験に夢中になっている間に、外の世界でも変化があった。
オットケの山。
そこを監視しているプローブから、アドルノが現れたという報告があったのだ。
オットケが死守しているあの山地にいったい何があるというのか。おれは保留していたその謎に、採掘事業が一段落した今、もう一度取り組むことになった。




