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新たな段階




 戦いは終結した。そしていくつかの問題が解決に向かい、細々とした難題が新たに提示される。


 魔王が暴れ、甚大な被害が出た。魔王が直接出現した国や都市ではもちろん、それ以外の場所でも魔物が大量に出現し、動きも活発になり被害が出た。おれの無人兵器も魔王が出現した場所に集中して向かわせたので、むしろ魔王が現れなかった国のほうが犠牲者が多いというケースもあった。

 あまりに被害が大きく財政破綻しそうな国があったので、おれは復興に最大限貢献することにした。

 氷の大陸にも施したインフラ整備を、地球の技術をふんだんに使って行った。見目麗しいアンドロイドたちを大量に派遣し、重機や大型車両を乗り込ませて、住居や道路を急ピッチに建造していった。食料品や衣料を持ち込み、現地の住民ができそうな農作業や工業品造りを仕込み、その後の生活に役立たせた。彼らの文明レベルを考慮し、元の住環境を確保できたと判断したらさっさとアンドロイドたちを引き揚げさせた。


 そんなことを世界中で行ったので、嫌が応にもおれの名前は知れ渡ることになった。

 おれは皇国を勝手に後ろ盾として使い、皇国のスズシロと名乗った。ヒミコが操るアンドロイドたちもスズシロの部下とだけ名乗ったので、世界のほとんどの国が皇国に感謝した。


 その皇国では皇帝が崩御し、新たな為政者が君臨することとなった。

 皇帝の圧倒的な権力の前で霞んでいたが次なる候補者たちもなかなかの野心家たちだった。

 しかし有力な諸侯、貴族が政治ゲームを本格的に始める前に、権威の象徴である皇城は崩壊し、皇都は見るも無残な状態だった。

 おれはあえて皇都の復興は後回しにした。避難した人間が仮住まいできる住居だけ用意して、他の場所の復興を優先した。

 この混迷した状況が戦争の抑止になるし、皇都の住民が信頼するギルドが存在感を発揮できる状況だと判断した。


「はいはいお食事はたんまりありまーす! 慌てないで、きちんと列を作ってー!」


 ギルドが食料を持参し避難民に振る舞うと、悲しみに暮れる皇都住民も一時とはいえほっとした表情になった。

 自ら進んで調理をし配膳までするギルドメンバー。その指揮を執っているにはヴァレンティーネだった。彼女の部下も全員参加している。

 

「皇都に再び住めるようになるまでには、少なくとも半年はかかるでしょう」


 ヴァレンティーネは避難民から相談を受けると、真摯な態度でそれに応じた。


「今、ギルドでも復興に尽力しています。国内各地から職人さんや魔法使いを呼んで元の都を取り戻そうと奮闘しています」

「兵隊たちは何をやっているのかねえ」

「今、皇国はこんな状態ですから、外敵に付け込まれる可能性もあります。兵士たちも今必死で働いていますよ」


 実際には他の国々は侵略どころではなかった。魔王出現の不安、自国の復興で、皇国どころではなかった。そもそも皇国の被害は他の国々と比べても軽微だった。皇都以外はほぼ無傷だったので、国全体の機能は損なわれていなかった。だからこそ、おれが手を貸さなくとも皇都の復興は問題なく進むだろう。


 そんな皇国を脅かすとすれば、氷の大陸が第一候補だった。

 穏健派のザカリアス帝がトップにいるとはいえ、一度は戦争を覚悟し、おれの無人兵器工場の建設を許可した国々だ。皇国の弱体化を見て、こちらから打って出る可能性もなくはなかった。

 

 タージ公国ではオイドクシアが王権に返り咲き、ザカリアス帝の後ろ盾もあり、内戦の傷をいやしているようだった。このタージ公国は大陸外の国家と戦う際、最前線に立たされる位置であり、氷の大陸の各国から皇都へ兵を差し向けるように圧力をかけられる立場にあった。

 オイドクシアは戦争を断固として拒絶した。各国の王が集まる会議でも、彼女の態度は一貫しており、そんな彼女をザカリアス帝は支持した。


「なんとも頼りになる新参者だろう。レーム将軍もそう言ってる」


 ザカリアス帝は半分ふざけたように言ったが、オイドクシアへの攻撃には敏感に反応した。会議の主催者がそんなスタンスだったので、氷の大陸全体が大陸間戦争には慎重になっていった。


 会議終わり、アンドロイドに向かって彼は言った。もちろんその先にいるおれに向けての言葉だった。


「無人兵器を勝手に出庫して、世界各地に援護に向かわせただろう。あれでスズシロに対する不信感が強まってね。そのおかげでオイドクシアへの当たりが弱まった点もある」


 おれはそれを聞いて苦笑するしかなかった。


「一度は国を追い出されたオイドクシアが元気にやれているようで良かった。まだまだ手を貸さないといけないと思っていたのだが」

「私も同感だ。スズシロはこの後どうする気だ?」

「まだ戦いは終わっていない。魔王フォスと魔神スコタディがいるし、アポミナリアたちの動向も注視しないといけない。それと、魔王アイプニア……。投降したので監視下にいるが、正直奴が暴れ始めたらどうしたって被害は出る。完全に奴を封殺するだけの戦力を維持し続けるのは現状では難しい」

「となると、戦力の増強は続けるのだな」

「ああ。皇国以外の国でも、資源の発掘や工場の建設は可能になった。随分協力的になってくれたからな」


 無人兵器が魔王と戦ったのは世界中の人間が目撃している。その兵器の増産に彼らが反対する理由がなかった。

 採掘と建設交渉はあっという間に進み、世界各国に拠点ができた。復興と同時進行でそれらは進み、戦力の増強はかつてないほどのスピードで進むだろう。


 もう魔王との戦いで後れを取ることはないはずだ。星の生態系を歪めるほど過剰に強力な兵器を使わずとも、物量で押し切れるように備えておかないといけない。


「ところで……。きみのところのガンマだが」


 ザカリアス帝は興味深そうに言う。


「魔族の力を溜め込んだままだが、大事はないか?」


 ガンマが世界中の魔族の力を集め、魔王の強化を防いだ。そこまでは良かったが、それ以上の力の行き場がなかった。

 単なる魔力とも違う魔族の力――その正体は独自の変貌を遂げた魔王を強化することに特化した高エネルギーだった。

 魔力ではあるが通常の魔力と比べて移ろいにくく、エネルギーの保持者を常に消し飛ばそうと暴走しようとしている。


「問題ない。人間の見た目じゃなくなったがな」

「魔族たちは普通の人間に戻ったのだろう? 随分感謝されたんじゃないか?」

「いや……。今まで人間に迫害されて生きて来た連中だ。すぐに人間と同じ暮らしに戻るってわけにもいかないな」


 戦いの後、アドルノがオットケの拠点まで戻ってきて、自分の弟子がほとんど無事であることを確認してほっとした様子だった。

 しかしカスパルだけは救うことができなかった。それがアドルノの魔王への怒りを燃やすことにつながる。


 グリゼルディス、モルの両名は皇都に戻ったがアドルノは姿を晦ませた。全世界に探査機をばらまき、日々その数は増やしているが、それでもアドルノの位置は分からない。

 アヌシュカたち魔族は人間と同じ体に戻った。食事も普通になり、魔物の肉は受け付けなくなった。喜ばしいことだったが魔法への適性が落ち、落ち込む者もいた。


 アヌシュカ、シーナ、ユリアの三人の元魔族が皇都に向かい復興の手伝いをすることになった。元々アヌシュカは人間社会に溶け込んでいた少女だったので、問題ではなかった。人間とうまくやっていけるのか不安がっているシーナをアヌシュカが導き、ユリアはそんな二人を近くで見守ることにしたようだ。



 しばらくの間、世界は平和的に推移した。おれの戦力は数日ごとに倍増し、その陣容は盤石となった。

 いつ魔王との戦いが再開しても圧倒できる。そう確信できるほどだったが。

 フォスも、スコタディも、アポミナリアも、エイシカも、どこかに潜伏し姿を隠してしまった。


 アイプニアは山奥の小さなダンジョンの中に閉じ込め、監視下に置いていたが、彼はおれに向かってこう言った。


「さっさと対処しないと、取り返しのつかないことになるかもしれないぞ」


 アイプニアは監視装置と兵器がひしめくダンジョンの中でリラックスしていた。たまにダンジョンの外に出て星を眺めることさえできればそれで満足のようだった。


「どういうことだ。奴らも戦力を溜め込んでいると?」

「いやいや、戦いでは勝てないと、彼らも悟っている。次の段階に上がろうというわけだ」

「次の段階?」


 アイプニアはゆっくりと、もったいぶるように頷く。


「……人間だった彼らがメテオラのダンジョンで修業し、悠久の時間を越えて魔王へと変貌したように。魔王からまた別の存在に生まれ変わろうとしている。元々、ここが終着点ではないということだ」


 人間から魔王へ。魔王から、いったい何になろうというのか。


「……人間を皆殺しにするのが彼らの目的だっただろう?」

「そうだ。その結果、自らの魂の形を変え、不老不死を成就する……。だが人間を皆殺しにするのが無理なら、また別の手段を取るしかない」


 そんなのがあるのなら最初からそうして欲しかった。あるいは、人間を皆殺しにするよりもっとおぞましい手段だとでも?


「別の手段なんてあるのか?」

「私も予想外ではあったが、そんな手段があった。しかし考えてみると、アポミナリアは最初からそのつもりだったという気もする」


 ここでアイプニアは望遠鏡を持ち上げ、レンズを覗き込む仕草を見せた。おれはそんな彼に問う。


「……その手段というのは?」

「簡単に言えば……。この星から離脱するんだ」


 おれは思わず、空を見た。無数の監視装置のごく一部が天体を常に観察している。


「宇宙旅行が望みなら、おれの得意分野だ。相談してくれればよかったのにな……。もちろん言葉通りの意味じゃないんだろうが」


 アポミナリアが何を企んでいるのか分からないが、放置できない。大人しくこの星からいなくなるだけなら、素直におれに言えばいい。そうではないのだ。

 おれの監視対象は地上だけではなくなった。空にも注意を向けなくては。おれは早くも宇宙で活動可能な軍船の製造に着手するように命じた。



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