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リーゴス再び



 魔王スクラヴォスと魔王バシリスの討伐。

 しかしおれはギルドと共同戦線を張り、無人兵器を多数動員、皇都をさんざん破壊する結果になったにも関わらず、魔王討伐を果たしたのはクレメンスだった。

 そのクレメンスも、魔王アポミナリアの力を宿している。おれがこの戦いで果たした役割は避難を手助けしたくらいだ。


 反省している暇もなかった。今、世界各地で魔王との戦いが続いている。

 バシリスの死体の周りでギルドの人間が魔物の残党と戦っているが、既に勝勢であり、おれは無人兵器の残りを他の戦地に移動させた。

 クレメンスはアンドロイドの一体に近付き、おれに向かって話しかけた。


「スズシロ。アポミナリア様との取引に応じたようだな」


 クレメンスの眼差しは暗かった。光を宿していない。


「ああ」

「他の魔王の討伐も手伝う。私を運んでくれ」


 クレメンスはやる気のようだった。それぞれの魔王の弱点を知っている彼なら、バシリスとの戦いのときのように、攻撃を浴びせているのに粘られるということもないだろう。


「……そうだな。分かった」


 おれはヒミコに飛行艇を手配させた。ヒミコはこの件に関しておれに何か言うことはなかった。おれの判断を信頼しているというより、咄嗟にこのような判断をおれにさせたことに責任を感じているようだった。つまり、無人兵器だけでバシリスを圧倒できていればこのような事態にはならなかったわけだ。


「マスター、クレメンスが魔王を倒してくれるのなら、我々も魔王と無理にやり合う必要はありませんね」

「そうだな。首尾に徹し、順次クレメンスに魔王を倒してもらうのが良いだろう……。被害をこれ以上拡大させるな」


 いったん取引が成立したのなら、利用しない手はない。

 高速艇に乗ったクレメンスは世界中を飛び回り、それぞれの戦地で魔王と対峙した。


 まずは魔王メントル。大量の魔物を召喚し大陸西部の各国家の要衝を取り囲んでいたが無人兵器の弾幕でなんとか侵攻を防いでいた。

 メントルはまだ完全顕現をしておらず、巨大化はまだだったが、クレメンスと共に無人兵器が大量に到着すると、覚悟を決めて巨大化した。

 クレメンスは空中の飛行艇から飛び降り、巨大化したばかりのメントルの脳天を巨大なハンマーでたたき割った。

 衝撃で頭蓋から背骨、腰部が砕け散り、大量の体液が撒き散らされた。

 残る魔物の処理は無人兵器だけで十分やれる。到着して数分と経たずに別の戦地に向かう。


 次は魔王ツァコモス。雪原国家に出現した彼は、魔物を伴わず、既に巨大化して都市を攻撃していた。

 無人兵器の配置が遅れ、戦力が整っていない。現地の兵士たちが魔王の対応をしていた。 

 死者数が数えきれないほどであり、既に都市の大部分が崩壊していた。

 ツァコモスは勝ち誇り、逃げ惑う人々を踏み潰そうとしていたが、クレメンスが到着した。


「――傀儡が! メントルを殺したのは貴様か!」


 クレメンスは飛行艇から降り立つと、何も言わずに弓矢を構えた。魔法で生成した大弓。炎の矢をつがえる。

 音もなく矢を射出する。それは魔王の巨大さに比べるとあまりに小さな武器だった。

 しかし矢が空中でみるみる膨らんでいく。眩いばかりに炎が燃え上がり、ツァコモスの胸部に突き刺さる。

 爆発炎上した矢が魔王ツァコモスの全身を灼熱に包み込む。ツァコモスはもんどりうってもがいたがますます炎が強くなった。

 ツァコモスの周囲の建物にまで飛び火し、都市全体が火災に見舞われる。

 それをクレメンスは興味なさそうな顔で見ていた。そして近くのアンドロイドに首を向ける。


「次だ。さっさと行くぞ。それとも、休憩時間を設けてくれるのか?」


 クレメンスの力は圧倒的だった。次に訪れた都市でも、巨大化した魔王アトゥを粉砕した。

 その数分後には魔王モノマキアと対峙。モノマキアは巨大化するのに躊躇し、結局力を発揮する前にクレメンスの剣の錆となった。


 瞬く間に魔王を殺していく。今日だけでスクラヴォス、バシリス、メントル、ツァコモス、アトゥ、モノマキア、六体の魔物を斬ったことになる。おれが倒した魔王テレティを合わせれば七体……。


 残りは二か所――暴れまくる魔王リーゴス。比較的静かなフォスとスコタディの姉妹。

 リーゴスの魔物の軍勢は手当たり次第に集落を攻撃し、緊急性が高かったが、それだけに既に無人兵器を大量に向かわせて対応中だった。


「魔王リーゴス……。私を痛めつけた、あの……」


 クレメンスが飛行艇の中で呟く。おれはアンドロイド越しに話しかけた。


「あまり気負うな。今のお前なら問題なく斬れる」


 クレメンスは自らの失明した眼のあたりを眼帯越しに触った。


「分かっているさ、スズシロ。しかし、次のリーゴスを倒せたとして、残りは何体だ」

「アポミナリアとエイシカを除けば、討伐対象は残り三体だ。魔王フォス、魔神スコタディ、それから魔王アイプニア……」


 わざとらしくクレメンスが魔王の数を数え始めた。


「数が合わないな。魔王は全部で18体だったはずだ。……氷の大陸にいるザカリアス帝は放置するのか?」

「彼は平和的に国家を運営している。魔王討伐にも協力的だった」

「だから見逃すと? 別に私は構わないが、アポミナリア様との取引には消極的だった貴様が、ザカリアス帝には心を開いているのだな」

「彼は何十年も穏やかに過ごしている。氷の大陸のまとめ役だ」

「ふん。他の魔王は最近目覚めたが、ザカリアス帝だけは随分早く地上に現れていたのだな。特別というわけか」


 確かに他の魔王は示し合わせたように同時期に地上に出て来たようだ。数年のラグはあれど、おおむね一緒。例外はアポミナリアとザカリアス帝だけだ。


「何が言いたい?」

「心を許すのは迂闊ではないかと言っている。奴も魔王には違いないのだろう」


 しかしザカリアス帝とは敵対する意味がない。彼の態度を見ていると、普通の人間より友好的なくらいだ。

 クレメンスはおれをかき乱そうとしている。彼にザカリアス帝の何が分かるというのか。


「マスター、魔王フォスと魔神スコタディが撤退を開始しました。他の魔王の討伐を知って怖気づいたようです」


 おれの隣にいたベータが報告する。おれはそれをクレメンスにも伝えた。


「どうする? 追うか?」

「いや、今は事態の収拾を優先する。時間さえあればおれは戦力を増強できる。魔王との戦いではこちらが有利だろう」

「だといいがな」


 クレメンスを乗せた飛行艇は魔王リーゴスの戦場に到着した。かなり高い空から、まずは戦場の確認を図る。


 クレメンスが窓の向こうに視線を向けた――と同時に飛行艇の機体を刀で斬り、飛行艇に風穴を開け、機外に脱出した。


 次の瞬間、飛行艇の横っ腹に下から飛んできた瓦礫が直撃した。爆発四散した飛行艇を、巨大化した魔王リーゴスが下から見上げて悦に入っている。

 間一髪逃れたクレメンスが戦場へ落下しながら刀を構える。

 今度も一瞬で片づけられると思っていたが、クレメンスの表情は険しかった。


「なんだこいつ……。他の魔王と比べてはるかに魔力が強い」


 獅子の頭。炎の錫杖と氷の剣。かつてダンジョンで見たその姿そのままにリーゴスが巨大化している。 

 クレメンスが斬りかかったが氷の剣で受けられた。弾き飛ばされたのはクレメンスのほうだった。


 クレメンスを捕捉してから、不自然にリーゴスの魔力が増加した。そのことを無人兵器の計測器が検知していた。

 クレメンスは地面に叩きつけられたがすぐに起き上がった。口の中を切り、血の混じった唾を吐く。


「スズシロ、援護しろ」


 クレメンスは全く臆することなく魔王リーゴスに立ち向かった。このままクレメンスが魔王を殺してくれるならそれでいい。だがそう簡単にはいかないかもしれない。リーゴスの余裕たっぷりの態度を見ていると、おれはそう感じざるを得なかった。



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