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魔王の都


 ザカリアス帝は、不老不死を実現する能力を持つ魔王として、スクラヴォスの名を挙げた。

 しかし実際に皇帝に取り入っているのは魔王バシリスだった。

 ザカリアス帝に言葉を信じるなら、今皇都には複数の魔王がいる可能性を考慮しなければならない。


 魔王ヴェロスが巨大化し、おれの無人兵器と激戦を繰り広げたことを考えると、皇都で戦闘になれば大量に死人が出ることは間違いない。

 しかし戦闘の規模を抑えたうえで魔王を討伐することはかなり難しいように思われる。魔王フォスと魔王スコタディの双子との戦闘においても静かな戦いにはならなかった。


 やはり無人兵器で死人を出さずに戦うには場所を選ばなければならない。

 場所を用意して魔王を誘引する……。それができなければおれにとって、敗北のようなものだ。


「皇都に魔王がいるとはな」


 アドルノは話を聞くなり、身支度を始めた。おれはそんな彼の肩を掴む。


「どうする気だ?」

「先日の戦いでは現場に居合わせることができなかった。リーゴスとの戦いでも不覚を取った。皇国最強の魔法使いと持ち上げられて、このザマではな」


 彼は責任を感じているようだった。肝心なときにギルドの力になれなかったのは、確かに気になるところだろう。


「戦う気か? そもそも向こうが応じてくれるとは思えないし、皇都で戦いになれば、想像もしたくないほどの被害が出るぞ」

「壊れればいい。あんな都」


 アドルノは吐き捨てた。

 おれは一瞬、言葉を失った。


「……あんたは、皇国が嫌いなのか?」


 アドルノの顔は真剣だった。冷たく言い放つ。


「前にも言ったが、私は魔族の保護を念頭に動いている。ギルドに入ったのも内側から体制を変えるためだ。皇国が変わってくれればいいのにと何度思ったか」

「それは、しかし、物理的に破壊されることを望んでいるわけじゃないだろ?」

「気分は晴れるだろうな」


 冗談なのか、それとも本気の気持ちが混じっているのか、おれには分からなかった。

 アドルノはここでふうと息を吐いた。


「戦う前に人間を避難させればいい」

「しかし、その上で魔王を捕捉し戦いに持ち込むのは難しいだろう?」


 奴らは別に皇都を拠点にしているわけではない。逃げ足も相当なものだ。


「魔王は人間を滅ぼしたいのだろう? 戦場を選ばないはずだ。皇都での戦闘は望むところではないのか。避難を迅速に行えば、あるいは……」

「向こうが乗っかってくるかどうかは未知数だが……。とにかく、調査を続けるしかないか」


 おれは皇都の監視を継続する。しかし魔王バシリスはおれの監視に気づきつつも、皇帝との会話を続けた。

 全て連中の術中なのだろうか。奴らは何を考えている? ヴェロスの巨大化、完全顕現は、連中からすると時期尚早だったはずだ。こちらから攻撃を仕掛けても逃げるだけのような気もするが……。

 いや、ヴェロスが戦いに参加したのは、フォスとスコタディを助ける為だった。連中にとっても仲間を失うことは痛手だ。魔王の居場所さえ分かれば、戦いに持ち込むことは不可能ではないのかもしれない。


「スズシロ。話は変わるが、ベルギウスはまだ動けないのか」


 アドルノは気遣うわけでもなく淡々と尋ねてくる。


「ああ……。重症だ。中にスコタディを宿した上で、さんざん暴れられたからな」

「ベルギウスの封印術があれば、魔王の動きをいくらか制限できるかもしれない」


 おれは目を見開いた。封印術が戦場を限定する効果を持つとは、思っていなかった。


「……本当か?」

「魔神スコタディは、魔王と同等の存在なのだろう? 魔王の性質も理解できているはずだ。その点は封印術において有利に働く」

「もし、そうなら、ベルギウスは魔王討伐の要になるな。無事に回復してくれるといいが」


 しかしベルギウスの治療はそう簡単にはいかないように思われた。

 既存のどんな外傷、病理にも当てはまらないような障害を負っている。効果的な治療方法はない。

 歪んだ骨格と内臓が彼の健康を損ねているが、それを直せば良いというものでもない。

 ヒミコが管理している今、死ぬことはないが、自分で立って歩くことができるようになるかはまだ分からない。


「ベルギウスの回復まで待つべきか? しかし今、この瞬間、皇都を魔王が練り歩いている……。危険な状況には変わりないだろう」


 アドルノが言う。おれは腕を組んで考え込んだ。皇都周りに戦力を差し向けるべきか? 今、無人兵器は膨大にストックがある。しかし兵器工場を撤収し、資源の掘削を中断した今、そう余裕があるわけではないと考えることもできる。

 皇国以外に工場を建設しなければならない。氷の大陸にも工場はあるが、資源には余裕がない。資源不足に陥るのは時間の問題だろう。


「アドルノ……。少し待っていてくれ。魔王と戦うにしても、戦力は必要だろう」


 アドルノは首を振る。


「戦力なら皇都にいるだろう」

「ギルドメンバーか。だが、今まともに戦えるのはグリ派とアドルノ派だけ。モル派は指導者が不在で統率が取れない。そんな状態で魔王と戦うべきではない」


 無人兵器主体で戦うにしても、無限ではない。魔王はまだ10体以上残っている。戦力が尽き、探査船やヒミコまで撃破されれば反撃する手立てはなくなる。


「と、いうことは……」

「モルとロートラウトへの冤罪は晴れたわけではないが、追及はやんでいる。皇都に呼び寄せ、モル派のまとめ役を任せることはできる」


 あの二人がいるのといないとでは大違いだ。モルの統率力はギルド随一だろう。


「……しかし、スズシロ、無人兵器を使って魔王と戦う気だろう。モル派を巻き込んでもいいと考えているわけか?」

「いや……。だが、戦うとしたら、ギルドの協力は不可欠だと考える。市民を避難させるにしろ、魔王や魔物の対処をさせるにしろ」


 アドルノは途端に興味を失ったように、小さく頷いた。


「そうか」

「魔王が魔族を狙っているのなら、アドルノ、あんたはこの場に留まっていて欲しいんだがな」

「私一人でどうにかできるものでもないが……。魔族は世界中に散っている。ここにはいる魔族の数なんてたかが知れているわけで……。連中にとっては、さして重要ではないのかもしれない」

「だといいが」


 おれはアドルノを何とか説得して、彼をここに留めた。

 それで状況が変わるわけではないが、今はどうにも動けなかった。

 皇都の人間を人質に取られているようなものだ。皇帝が魔王バシリスにどれだけ従順なのか……。


「マスター。モルとロートラウトの潜伏先を発見し、いつでも接触可能です。皇都までエスコートしますか?」


 ベータが報告する。それをアドルノも聞いていた。


「いや……、まずはここに呼ぼう。今でも皇帝に見つかれば殺されかねない」

「了解しました」


 おれは自ら迎えの飛行艇に乗り込んだ。魔王討伐に躍起になっているというモル……。傲慢な男だが、こんなとき魔王討伐の力になってくれるかもしれない。おれはそんな期待を胸に抱いていた。


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