魔法の鏡と真白の姫
宵闇の女王が99人の子を産みました。40人の王子と59人の姫達で、皆、漆黒の髪と白銀の瞳を持っておりました。ただ、99番目の姫だけはひどく小さく、おまけに髪も肌も真っ白で、その瞳はルビーの様な赤でした。名前は付けられたものの、その見た目から、いつしか真白の姫と呼ばれるようになりました。このような姿に生まれた者は魔力も少なく、長生きできないことが判っていたため、不憫に思った女王や兄、姉達からは大層可愛がられておりました。
光がほとんど差し込まない宵闇の城でも、希に僅かな光が紛れ込むように差し込みます。それさえ身体に障る真白のために、女王は庭に塔を建てました。そして、彼女が寂しくないように、搭の最上階に魔法の鏡を置きました。それは色んな所を映し出す鏡で、女王の執務室や、兄達の談話室、姉達のティールームの他に、人の住む街の風景も映しました。
姫は人の街が一番のお気に入りでしたが、ある日一人の少年を見た途端、たちまち恋に落ちました。少年は城壁を守る兵士見習いで、やがて青年となり兵士になる様子を、姫はずっと見守り続けておりました。
しかし、ある日彼が綺麗な女性と楽し気にしているのを見た姫は、激しい嫉妬に駆られ、なんとしてもあの場所へ行かなくてはと思いました。私が存在することを、ずっと想っていることを、あの人に知ってもらわなければと、鏡に向かって全ての力と想いを込めて、手を伸ばし…
パリンと音がして、光の中にいた。痛い、痛い!でも彼の姿が見え、目が合った!私はここよ!必死で手を伸ばす。彼もこちらに手を伸ばし…想いが繋がったと思った瞬間、身体が落ちて行った。光に焼かれ、痛みで意識が薄れる中、一瞬の成就に姫は微笑んだ。
城壁の側にある広場でパリンと音がして、広場に置かれていた天使像の顔が壊れ落ちた。ずっと見守られている気がしていた像が壊れた瞬間、彼は思わずそちらに手を伸ばしていた。そこから小さく真っ白な蝙蝠が飛び出したかと思ったら、くるくると落下していき、地面にぶつかる瞬間、最後の夕陽に貫かれ、塵となって掻き消えた。
それを見て、何か大事な物を失った気がした彼は、天使像の欠片を一つ拾ってポケットに入れました。それは像の瞳の部分で、確かに彼を見まもり続けた物でした。
女王は魔法の鏡が壊れたことに気づくと同時に、姫の死を悟りました。悲しみの中、塔を壊した跡に鏡を埋めて、そこに小さなお墓を建てました。
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