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8話:ただいまレイド準備中


 

「くそっ。なんで俺がゴーレムの群れの前線で戦わないといけないんだ?」

 俺は冒険者ギルドの掲示板を睨みながら疑問を口にした。配置図には、ゴーレムの群れと戦う配置が描かれていた。


 今朝がた、東門から出て馬車道を通って王都へ向かおうとしたが、長いトンネルがあり俺が進んでいる間に轢かれてしまうことがわかった。さらに、故郷がある西へ向かおうとしたが、魔物が強すぎてちゃんとレベルを上げなければすぐにはいけないことも判明。結局、一週間後に控えているゴーレムのレイドまで裏の魔法使いの町に滞在することになった。

 ただ、いつの間にか、ほぼすべての宿から出禁を食らっていて、宿泊を拒否された。宿の主人の財布を盗んだことがバレたらしい。冒険者ギルドだけはレイドに参加するなら、隅の方で寝ていても良いという。金もないので、そこしか寝床はない。

 コマチは正式採用なので部屋を割り当てられているらしい。しかも後方で、支援術者としての起用。町が破壊されない限り危険はないそうだ。ちゃんと先輩たちからの教育もあり、裏の魔法使いたちにとって即戦力になるとか。


「扱いがまるで違うな」


 俺はというと、前線も前線の逃亡班という囮役として起用されるらしい。


「マジで鍛えないと死ぬな」


 罠班やカタパルトによる砲撃班、医療班などもあるが、裏の魔法使いや冒険者で決まった者たちがいるらしい。あとは前線で盾役になるか、囮役になるかの二択。俺はすっかり出遅れたため、囮役しか残っていなかったのだ。


 掲示板から目をそらし、とにかくゴーレムをいかに足止め、及び討伐していくかを考えながら、町の西門から出て森へと向かう。

 町の近くにいる魔物なら、それほど強くはなく俺一人でも倒せる魔物が多い。剣も新調したし、できることからやっていかなくては。


 ウサギや鳥を狩り、内臓と食べる分の肉を取り出して、麻痺効果のあるキノコの胞子を表面に塗ってから中に入れておく。血も大事に採っておいて、仕掛けている場所の周辺に撒いた。

 その罠を十か所以上で仕掛け巡回していくと、人狼とか羽ばたけなくなった空飛ぶ魔物なんかがよたよたと歩いているので、剣で首を飛ばして経験値を稼いでいく。朝から町の門が閉まる夕方まで、ひたすら魔物を狩る。

 冒険者になったので、討伐部位と呼ばれるその魔物の特徴的な耳や羽の一部なども集めることに。簡単な回復薬や砥石など消耗品も必要なので金がいる。

 死霊の右腕でいくらでも盗めるというのに、バレると動き難くなる。手間が増える一方だ。

 

 多少レベルが上がって強くなれば、やはり足のスキルに全振り。ゴーレムから逃げる練習もしておく。レイドの作戦上で、最も多く死ぬのが囮役。ミスひとつで、あっさり重量あるゴーレムに潰されるとか。

 魔物を挑発して逃げながら、相手の首筋や眉間など急所に剣を滑り込ませる。あとは緩急のある足運びで相手に並走。死霊の右腕で、心臓を掴んで動きを止める訓練もしておいた。


「ゴーレムの急所ってどこだよ」


 疑問を解消するため、ゴーレム整備屋のもとに訪れ、町の防衛用ゴーレムの整備をじっくり観察。意外にもゴーレムは部品ひとつ取れても動かなくなることがあり、頭部よりも胸部に大事な部品が集まっているという。


「頭部は基本的に噛みつき用の武器としてある。二足歩行のゴーレムよりも圧倒的に四足歩行のゴーレムが多いから、覚悟しておかないとすぐに追いつかれるだろうな」

 ゴーレム整備屋は俺を脅しているのか軽く笑っていたが、逆に脅して胸部の構造を説明させた。

「当日は裏の魔法使いが使役するから、俺も定かなことは言えないが、人の肋骨と同じように心臓部にある魔石を守るような構造は変わらん」

「魔石を動かせばゴーレムは死ぬのか?」

「いや、そもそも魔石は動かない。もし狙うなら魔石に繋がる管を切ったほうが早いぞ。管に小石でも詰まったら、ゴーレムは動かなくなる」

「管の固さは?」

「こんなものだ」

 実物の管を在庫の中から取り出して見せてくれた。

 厚みは薄いが鉄の管だ。よほど力を込めないと潰せない。

「これひとつくれ。練習したい」

「いいけど、あとで返せよ」

「ああ、俺が倒したゴーレムの部品なら全部持って行っていい」

「本当か!?」

 どうせどこかに持っていけるわけじゃない。買い取り手くらいは自分で選んでおこう。

「その代わり寝床と靴を用意してくれないか?」

「寝床はそこら辺に寝てくれて構わねぇけど、靴か……」

 逃げる際に、草原だけでなく足場の悪い石だらけの場所も走ることになるので、靴がボロボロになってしまう。

「ゴーレムは何回か、一気に押し寄せてくるんだろ?」

「ああ、波が3回から5回あるって言われてる」

「第一波、第二波、第三波と替えがあればいいんだけどな」

「わかった。伝手を辿ってみるよ」


 その後、整備屋は忙しそうにしていた。前線で活躍できる奴ほどレイド終了後に倒しているゴーレムは多く、それだけ鉄の量も多く貰える。俺が死んだら、援助している者たちが総取りだ。


 俺はゴーレム整備屋を拠点にして、5日間森を行き来し、ゴーレム対策を練っていった。

 魔物にも心臓周辺に管はたくさん通っていて、それを死霊の右腕で潰したり、首を捻転させて剣で切り落としたり、ゴーレムじゃなくても足止めする方法は結構ある。

 ただ、ゴーレムの攻撃をどれほど受けられるのかが心配だ。

 身体のほぼすべての部位が固いゴーレムに対して、俺の身体は柔らかい。攻撃を受けるなら剣しかない。攻撃の初動さえ見切れば躱せる回数も増えるだろうが、通常の魔物と違ってレイド中のゴーレムは疲れを知らないらしい。


「スタミナとの勝負か」


 俺は狩ってきた魔物の肉や内臓を焼き、三食ニンニクと一緒に食べた。ニンニクは俺の援助を買って出てくれた靴屋の差し入れだ。

「一頭でも倒してくれたら、こちらは大儲けだ。死んでも倒せ。倒したら死んでいいからな」

 ドライな援助者なので、こちらも気兼ねなくレイドに集中できる。


 レイドの2日前、一度赤目の大佐からレイド中の合図について冒険者ギルドにて説明があった。


「基本的には鐘の音で合図する。無論、耳が聞こえなくなる場合もあるので、そういう時は外壁の上を見てくれ。赤い旗を持った奴らが必死で走ってるから、それをもとに動いてくれると助かる。それから罠班からの説明を」

 赤目の大佐は少し疲れた顔をしているが、レイドが終わるまでほとんど寝ないという。

 罠班からは罠のほとんどが落とし穴で、穴の中には砂利と泥水が入っていると説明していた。

「少しの異物でも体内に混入すればゴーレムは動かなくなるからな。意外な弱点だ。粘着性も含ませるから、絶対に落ちるなよ。かなり掘っているから底なし沼と考えてもらっていい。仕掛けてある場所は赤く色を塗っておくが、雨が降ればわからなくなる。あとは砲撃班から」

「合図が鳴ったら、構わず大岩を放つ。逃げろ。死ぬぞ。こちらからは以上だ。医療班は?」

「回復薬にも数に限りがあります。自分で立てないほどの怪我は戦線離脱とみなし、後回しになります。ま、仕方ない時は諦めてください。支援班は?」

 砲撃班も医療班も、何度も経験があるからか、希望あることは言わない。

「支援班は呪いに関して、増魔の一族が加入したので、いつもより増強できそうです」

 支援班のリーダーからの言葉に、ギルド内が一斉にざわついた。


「増魔の一族とは『地獄の蓋』以来じゃないか?」

 早起きクマさんが手を上げて質問していた。

「おそらくリドの娘だ。挨拶するか?」

 リーダーに促され、コマチが出てきた。

「増魔の一族、コマチです! 至らぬ点は多いかと思いますが、前線の皆さんを全力でサポートします。よろしこお願いしゃしゅ!」

 普通に噛んでいたが、前線に投入される裏の魔法使いたちからは拍手が起こっていた。

 

「前線からは?」

 赤目の大佐が、後ろの方で溜まっている俺たちに声をかけてきた。

「今回は表の魔法使いたちがいるが……大丈夫なのか? だいぶ逃げ出したみたいだが……」

 前線のリーダーっぽい、大柄で筋肉質な男が表の魔法使いたちに聞いていた。彼は両足をゴーレム化していて、常に弾んでいる。逃げ足は速そうだ。

「逃げたのは腰抜けだけだ。盾役に徹して罠に嵌めるだけだろう? なにがそんなに難しいのかわからん。前線なのに分け前が少ないのが不満だ。後で交渉させてくれ」

「だ、そうだ」

 箒を持った表の魔法使いたちもかなり残っている。腕の見せ所だろう。

「レイド後の交渉には応じる。一応、囮班で言うことは?」

「はあ?」

 猫背の長身で全身黒づくめの男が耳をほじりながら聞き返していた。黒いコートから、靄のようなものが立ち上っている。呪われていることは確かだ。

「囮に言うことなんかねぇよ。生き残れ。じゃなかったら死ぬだけだ」

 基本的に囮役は攪乱して、誘導するだけなので相手の動き次第なところがある。今何を言っても仕方ないだろう。

「それじゃ、各々しっかり準備をして任務にあたってくれ。2日後の夜、レイドが始まる。それまで解散!」


 赤目の大佐の一言で全員バラバラに準備を始めていた。

 俺も整備屋に戻り、確認をしていく。援助者たちの予想としては第一波で動きを見極められ、第二波で実力によって適役に割り振られ、第三波で全力を尽くすという。


「初めから無理はするな。皆の動きを見て、叩けるところで叩くんだ。いいな? 補給物資は一応用意はしておく」

「了解」


 町は、着いた時より活気づいていた。



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