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7話:赤目の大佐、作戦表と配置図を張り出す


「よし、逃げるか」

「え……!?」


 宿に戻り、乾いた自分たちの服を着て、町を出る用意をした。コマチは戸惑っているようだが、剣も手に入れたのでもう用はない。あくまで俺たちの目的は復讐だ。


「ゴーレムの群れは倒していかないんですか?」

「この右腕でか? 死霊の腕は暗殺には向いていても、固いゴーレムの群れには向いてないだろう。俺たちがやることなんてない」

「でも、日が暮れて門は閉まっていますよ」

「ああ、そうか……」

 この町は城塞と化している。夜の魔物に対応なんかしないだろう。


 俺は仕方なく荷物をまとめるだけにした。

「コマチの復讐の相手は東にいるんだろ?」

「母が処刑されたのは王都の南に位置する町と聞いてます」

「聞いてるってことは、処刑した奴のことをはっきりわかっているわけじゃないんだな?」

「ええ、魔法使いと貴族に追われてるって手紙で聞いただけです。あと、そいつらは鱗の入れ墨をしてるって」

「それだけか……。情報が少ないな」

「できるだけ情報収集をしておきたいんですけど」

「だな。王都までのルートも確認しないと。ここから先は大森林を抜けるだけじゃなさそうだ」

 ここが最西端だとしたら、人の町も増えていくだろう。

 例の地下室にいた魔法使いとのつながりがある奴がいるかもしれない。あいつの他に竜の胎児なんか隠し持っているようなバカがいると、復讐どころじゃなくなる。


 宿の食堂で飯を食べてから、剣だけ腰に差して夜の町へと繰り出した。

「美味しかったですねぇ~」

 コマチは日頃、魔物のステーキしか食べていないせいか、しきりに宿の飯を褒めていたが、腹に入れば変わらないだろう。


 とりあえず町の東側にある馬車の駅に向かう。夜間はやっていないが、日に何本か人を乗せる用の馬車が王都からやってくるらしい。

「帰りの便は、行商人を数人乗せているが空きはいくらでもある。今はレイドがあるから避難民から冒険者、魔法使い、誰でもこの町に滞在したいさ。皆、鉄の利権にあやかるつもりだ」

 道端で酒を飲んでいた御者の爺さんに詳しく教えてもらった。

「王都までは水源地帯を通るから、徒歩では行かない方がいいぞ。よほど慣れている行商人でもルートを踏み外して、捕まっちまうことがある」

「何に捕まるって言うんだ?」

「水だ。出るんだよ、魔物が……。御者じゃなくても馬車を使うことを勧めるぜ」

 水源にも面倒な魔物がいるのか。明日にでも帰りの便に乗せてもらおう。


 ルート情報はだいたいわかった。

 魔法使いの情報収集なら酒場か冒険者ギルドだろう。

 

 賑わっている酒場の脇を通ると、解体屋とゴーレム整備士が話をしていたので盗み聞き。ゴーレム整備士というのは町を守っていたゴーレムや、呪われて体の一部がゴーレムになってしまった裏の魔法使いの整備をしている職業らしい。この町特有の仕事か。


「赤目の大佐がもう動いてるんだろ?」

「あの人はずっと動いてるよ。ただ、やっぱり表の魔法使いが王都から来たから、今回のレイドはちょっと変わるんじゃないかって噂だ」

「こっちはゴーレムを解体して鉄板にするだけだから、どっちでもいいんだけどな」

「でも利権が表の魔法使いに行くと、報酬も変わってくるんじゃないか? 奴ら避難してきて、金もないからな」

「それは、この町にいた裏の魔法使いが許さないだろう?」

「でも塔の貴族は表の魔法使いよりだって聞いたぜ」

「魔法使い同士のいざこざでこっちの取り分が変わるのは勘弁してほしいな」

「全くだ」

 ゴーレムの鉄利権に関わる人にとっては、避難してきた表の魔法使いなど迷惑なだけなのだろう。


 冒険者ギルドの方も混んでいた。

「作戦表と配置図が張り出されてるぞー」

 建物に入るなり、大きな声が聞こえてきて、冒険者たちが一斉に掲示板の前に集合していた。


「俺たちは後方支援かよ」

「見てみろ。第一陣と第二陣がまるで違う」

「表の魔法使いは試されてるってことか」

「レイドはやる気のある無能から死んでいくからな」

 冒険者たちが口々に話している。衛兵や裏の魔法使いもいるようで、遠巻きに掲示板を見ている。魔法使い、冒険者、衛兵が合同で任務にあたるらしい。


「おい、お前ら!」

 俺に財布を盗まれた門兵が声をかけてきた。ずらかったほうがよさそうだ。

「早いところ冒険者登録を済ませた方がいいぞ」

 門兵は気付いていないのか、なぜかやさしく声をかけてきた。

「どうしてですか?」

 コマチが聞いた。

「財布の盗人追いかけていて、気が付いたんだ。俺は今日、西門の勤務だったってな。お前たちは王都からじゃなく、砦のある西から来たんだろ?」

その質問には答えにくい。

「大丈夫。この町は脛に傷ある奴だらけ。魔女狩りから逃げてきた奴らだってたくさんいるさ。考えてもみろ。レイドだって裏の魔法使いが仕切ってるんだぜ。金がなくて登録できないんなら、また貸してやるよ。十五とごでな」

 10日で5割増しか。衛兵というより無茶苦茶な金貸しのようだ。

 ただ、この先、他の町を通るにしても身分が証明されている方が、町に入りやすくはなる。嘘の証明書でも冒険者登録はしておいた方がよさそうだ。その方がコマチの母親関連の情報も得やすい。

 俺は死霊の右腕で、門兵の喉をキュッと締めた。

 門兵のヒューと喉を鳴らし、息をするのが苦しそうだ。

「財布は誰かが落としたものを拾っただけ。優しい門兵が金をくれて冒険者登録を済ませた。それでいいな?」

 声が出せないようだが、大きく頷いていた。

 俺たちは門兵と一緒に冒険者ギルドのカウンターに行き、この国の新人冒険者として登録を済ませた。コマチはそのまま偽名を使い、俺も騎竜からキリュウと名乗ることに。登録料は門兵が出してくれた。


「はぁ~」

 死霊の右腕を離すと、門兵は大きく溜め息を吐いて首を擦った。

「もういいですかい? 冷や汗が止まらねぇよ。赤目の旦那」

 門兵はなぜか俺ではなく、違う誰かに話しかけた。

「あ? 誰だって?」

「俺だよ」

 カウンター脇の柱の陰から、先ほど見た軍服の男が立っていた。

「嘘つくってのは性に合いません。お前らも恨まねぇでくれよ」

 そう言って門兵はとっとと冒険者ギルドから出ていった。どうやら俺たちは軍服の男の罠にかかったらしい。

「コマチにキリュウか。いい偽名だ。俺は『赤目の大佐』と呼ばれてる。ゴーレムのレイドにおける作戦すべてを引き受けてる者だ。コマチ、お前さん、その入れ墨から察するに増魔の一族だろ?」

「んぐ……」

 コマチは喉を鳴らして、動揺した。

「悪いが強制的にレイドには参加してもらう。魔女狩りから逃げたと聞いたときから狙っていたんだ。必ず、この町を通るはずだからな。今回は、表の魔法使いも来ていてイレギュラーが多い。即戦力が必要だったんだ」

呪いを増幅させる能力を持つコマチは、この町が合っているのかもしれない。人間、求められる場所こそ居場所にした方がいい。年も若いのだから、復讐なんかに時間を費やすより、よほどいいだろう。

「冒険者として登録してしまえば、もう魔女狩りの記録は抹消される。そもそも逃げられたなんて記録は残せないからな」

 そう言われたコマチは俺を見て、どうすればいいのか確認してきた。

「やってみればいいんじゃないか」

「わかりました。できることしかやれませんが、やってみます!」

 そう言われて、赤目の大佐は胸をなでおろしていた。

「それで、キリュウ、お前さんはどうする? 正直なところ、俺たちはお前さんについて計りかねている。というか、どこから来たんだ。砦の連中以外、西の森には凶悪な魔物しかいないはずだ。どうやって生き残ってきた……」

 確かに、この国の記録には残っていないだろう。

「その右腕の呪いも『蛟の毒呪』だろ? 限られた者しか使えない呪いだ。どこで受けたものだ?」

 まさか自分が王都を攻め滅ぼした竜騎士だとは言えない。

「質問に答えられるほど、お前らを信用はしていない」

「だろうな。ただ、こちらは手癖の悪さとその右腕能力は買っている。レイド中は前線で活躍してくれると助かるが……」

「俺は強制参加じゃないんだろ? 参加する気はない。この腕がゴーレムに通用するとは思えないからな」

 ここは正直に答えた。

「そうか。だが、おそらく、駅馬車の王都行きはもう埋まってると思うぞ。先に作戦表と配置図は表の魔法使いたちに報せてしまっているからな」

「まさか……。さっき駅で御者の爺さんに空いてると確認してきたばかりだ」

「なら、いいが。馬車で脱出できなければ、どうやってもレイドには参加することになる。気が変わったら教えてくれ」

「ふん、いいだろう」

 俺は赤目の大佐から距離を取り、コマチと分かれ出て行こうとした。


「キリュウさん!」

 コマチに呼び止められた。

「レイドが終わったら、また必ず……」

「ああ……」

 そう返しておいたが、必ずなにかするつもりなのか。

コマチの復讐に付き合う必要もなくなり、俺は身軽になった。これからは自分の復讐相手である竜に集中できる。


ひとまず駅に向かい馬車の予約を取ることに。


駅は表の魔法使いたちでごった返していた。予約の掲示板を見ると王都行きの馬車の予約もすべて埋まっている。

「おい、御者の爺! どうなってる!? 帰りの馬車なら空いてるって言ってなかったか?」

「事情が変わっちまった。レイドの前線に行くってわかった表の魔法使いたちが押し寄せてきてるんだ」

 重量オーバーとされている馬車にも表の魔法使いたちが予約を入れようと、御者たちと揉めている。

「お前らは箒で飛んで逃げればいいじゃねぇか!」

 そういう俺の声は喧騒に消えた。



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