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5話:地下の秘密と純粋な愛情

 

 光る瓶の中には、竜の胎児がアルコールにつけられて入っているらしい。そもそも卵で生まれるはずの竜がなぜこの状態でいるのか。どこかから卵ごと攫ってきたとしか思えないが、瓶の量が棚で3列。24体にもなる。

 こんなものが竜に見つかれば、群れを成して飛んできて大森林ごと焼かれて近隣諸国も含めて焦土と化す。この国の魔法使いは竜について何も知らないのか。


「お前らの国は何をやってるんだ? 大陸ごと破壊するつもりか?」

 コマチに聞いたが、首を振って何も知らないらしい。


 奥の椅子にはローブを着た骸骨の姿がある。死霊の本体だろうか。机の上には日記のようなものもあるが、どうでもいい。

 俺は躊躇もなく骸骨を踏みつぶそうとした。


 キョェエ!!


 死霊が奇声を上げながら、俺の身体を止めた。つまり霊体から実体になってしまったわけだ。


「悪手だろ。それは……」


 右腕を使い死霊を切り裂き、奥にいる骸骨を椅子ごと壁に蹴り飛ばした。

 ばらばらと石の床に散らばった骨を執拗に踏みつぶし、骨粉にしていく。頭蓋骨もすべて粉々にした。

 粉の中から銀の指輪を拾い上げ、右手の小指に装着。念入りに焼いていった。棚も倒し、竜の胎児を切り裂いてバラバラにし、じっくりと強火で原型を留めないように証拠を隠滅する。

 隠し部屋があったとすら思われないように、土をかけて埋めていった。


「魔女狩りされて当然の魔法使いだ。国もこの森もすべてなくなるところだったぞ」

 俺の言葉にコマチは頷くだけ。


 ちょうど埋め終わり、汗を拭おうとしたところで、右腕に激痛が走った。


「このタイミングで力尽きるのか……」

 

 右腕の肉がボロボロと零れ落ち始める。


「コマチ!」

「わかりました! でも、今やると……!」

 

 肉が零れ落ちて、黒い毛が地面に散らばった。

 激痛は続き、ボタボタと血管ごと落ちて足元に血だまりが広がる。


「いいからやれ! うぅああああああっ!」

 気絶しそうなほどの痛みに耐える。コマチは呪文を唱えているが、何を言っているのかはわからないし、わかる気もない。


「……ぬっぽりほむへっぺん!」


 そうコマチが叫んだ瞬間、肩から右腕が落ちた。骨も肉も血管も腱もすべて地面に落ちて、黒く変色。肩からは蛟がうねうねと蠢き、そのまま腕の形を作り出した。


 黒い蛟はいつの間にか薄く透明に変わっていき、徐々に痛みも消えていく。

 荒い息を整え、自分の右腕をよく見た。


 蛟は消えているが、白く半透明の腕が、俺の思う通りに動いている。

 何度見ても、右手の向こう側が透けて見える。


「どうなってんだ!?」

「死霊の腕のようです」

 コマチの言う通り、死霊の右腕が肩から伸びているようだが、落ちている小石もつかめない。

「こんな腕でどうしろって言うんだよ!? 何もつかめねぇじゃねぇか!」

「恨みを込めれば、もしかしたら実体化するかもしれません。あの死霊も本体に危機が迫った時は止められていたようですし……」

「そういうことか……」

 本体と切り離して使えるのかもしれない。

 右腕を思いきり伸ばしてみたが、一向に離れる気配がない。これでは、ただ何も触れられない腕を手に入れたようなものだ。

「こんな腕、力の使いようなんてあるのか?」

 力を使い尽くさないと、死霊の腕でずっと生活することになる。

 どうにか早く死霊の腕の使い方を考えなければならない。


「とりあえずレベルを上げるか」

「またですか?」

「今の俺は新人冒険者くらいの力しかないんだぞ」

 それを聞いて、コマチは思いきり溜め息を吐いていた。

「死霊の腕なら細いですし、布で隠せますから町にはいれると思うんですよ」

「だから何だよ。町なんか行って意味あるのか? だいたいお前は指名手配されてるんじゃないか?」

「ずっとそのなまくらの剣で戦っていくつもりですか? この国の大将首が取られたなら、混乱しているんじゃないかと思ったんですけど……」

 そう言われると、確かに武器は欲しい。右腕が死霊では左手で戦うしかないのだから。


「ちょっと待て。こんな大森林にまともな町なんてあるのか?」

「いや、それは行ってみないと……」


 歯切れの悪いコマチについていくことにした。途中でレベル上げをしていたので、2週間ほどかかったが。


「町に行くんじゃないんですか!?」

「魔物に遭ったんだから、殺しておかないと経験値がもったいないだろ!?」

「普通に行けば、3日で辿り着く距離なのに……」

 コマチは文句をブツブツ言っているが、止める気はないようだ。

 復讐は焦っても仕方がない。


 右腕の死霊の腕で少しだけものを動かせるようになった頃、ようやく俺たちは大森林にある裏魔法使いたちの町の近くまできていた。死霊の集落の近くとは違い、緑が鬱蒼としていて、歩きにくい。一々、藪をかき分けなくてはいけない。


「つまり、俺の右腕を見えなくして、誰かの心臓を握ればあっさり暗殺ができるってわけだ」

 俺は死霊の腕の使い方をコマチに説いていた。

「それは竜騎士さんが気付かれないように背後を取れればの話ですよね?」

「背後なんて簡単だろ? ニッコリ笑って握手して通り過ぎればいいだけだ」

 俺は、そう言って笑顔を作ってみせた。

「竜騎士さん!? まさかそれがニッコリ笑っている表情じゃないですよね?」

 コマチはたじろいでこちらを見てた。

「何かおかしいか?」

 コマチは俺の問いに目をそらした。

「あ、竜騎士さん。道がありますよ」

 振り返ると確かに、森の木々が切れて道が通っている。右腕さえ透明にしてマントで隠してしまえば、わざわざ足場の悪い所を歩く必要もない。俺たちは道に出て東へと向かった。


 30分ほど進むと、ようやく裏の魔法使いの町が見えてきた。

 城塞のように塀は高く、塀の近くには身の丈3メートルほどの鉄でできたゴーレムの姿がある。町の上空には箒に乗った魔法使いの姿も見える。魔物の群れに度々襲撃を受けているからか、大森林では町でもこれくらい防衛しないと生きていけないのかもしれない。

 そう思っていたのだが、小さい女児がバスケットに花を摘んで、町へと続く道を歩いていた。それほど安全なのか。


「竜騎士さん、はぁはぁ、おにゃのこがいますよぅ。ふがふが」

 コマチが急に俺の袖を掴みながら、女児を見て興奮している。

「どうした、病気か?」

「あ、失礼しました!」

 コマチは一度離れて、咳払いをした。ただ、一瞬も女児から目を離さない。思った以上にヤバい奴なのか。

「すみません。どうしてもかわいい女の子を見ると、ふがふがしてしまう癖があって。はっ! 見てください! 女の子がゴーレムに摘んだばかりの花を……!!!」


 女児がゴーレムに、珍しくもない黄色い花を一輪、渡していた。

それを見て、コマチは腰が砕けるように蹲り、よだれを垂らしている。なんて気持ち悪さだ。


「別に人の性癖にとやかく言う気はないけど、そういう姿はあんまり人前で見せない方がいいぞ。ただでさえ小便臭いんだからな」

「性癖なんて不純なものではありません! 純粋な愛情です!」

 目を血走らせていうので、「そうか」としか返せなかった。


「それより、この町、ちょっとおかしいです」

「お前に言われたら終わりだな」

「裏の魔法使いしかいないはずなのに、表の魔法使いが空を飛んでますよ」

 コマチによると、箒で空を飛んでいるのは表の魔法使いなのだそうだ。ゴーレムを操るのは裏の魔法、風魔法を操り、空を飛ぶのは表の魔法だという。


「本来、敵対派閥なので同じ町になどいないはずなのに……」

「入って見りゃわかるだろ」


 俺たちは裏の魔法使いの町へと向かった。



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