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18話:攻めるも竜、見つけるも竜


「死体の確認をさせてくれるか?」

「いいじゃろう」

 コマチに「見たくなければ見なくていい」と言って、俺だけ死体を確認させてもらった。

「私だって死霊術師の娘ですよ。え? うぅ……」

 袋から出てきた死体を見てコマチは吐き気を催していた。確かに臭いはきつい。

 死体は腹のない女で、胸部に噛み痕も付いている。噛んだ主は大型の魔獣、ブラックドッグぐらいの口の大きさがある。足も腕も取れかけていて、肉はほとんどなかった。

「他は?」

「全員、女。似たような噛み痕だよ」

 髪の長い女が説明してきた。

「一応、確認しておいていいか?」

 俺は、似たような女の死体を5体見た。どれも噛み痕は似ている。

 コマチはすでに吐いていてぐったりとしていた。


「水源を案内してもらえるか?」

「いいじゃろう」


 水源の西半分を簡単に散策。コマチの気分も徐々に良くなったようで、青かった顔にも生気が戻ってきている。


 おかしなところや違和感がある場所がないか注視していたが、それほど見るところはなかった。

昼頃、再び湖畔の小屋に帰ってきた。

「見ての通り、西はほとんど沼地や川、湖だったじゃろ?」

「そうだな。魔物も多い。ただ、死体を残すような奴らは見かけなかった」

 カエルの魔物やヘビの魔物が多く、人を襲うなら丸飲みするような魔物ばかりだ。あるとすれば消化した後の骨だけだろう。

「スライムもいましたよ」

「スライムは魔力しか吸わない」

「後に残った魔力切れの人間は小さい魔物か虫に喰われるのじゃ。ただ、ここから東はちと違ってのぅ」

 東は見るからに森だ。小川が流れているくらい。爺は生息している魔物も知っているのだろう。

「なんだ? 実はもう魔物も特定しているんじゃないか?」

「おそらく、ハイイロベアかダイアウルフじゃ」

 どちらも大型で、熊と狼の魔物だ。

「だったら、罠を仕掛ければいいんじゃないか?」

「……」

 爺と女は大きく頷くだけで、何も言わない。

「なるほど、俺たちが罠か? 囮になれってことだな?」

「頭が回る男で助かる」

「また、キリュウさんは囮班なんですね」

「何言ってる。今回はお前もだよ。コマチ」

「え~!? なんで私が?」

 とりあえず、混乱しているコマチは放っておこう。

「毒やトラバサミなんかはあるのか?」

「無論。用意してある」

 毒は塗るタイプの麻痺薬。鎧の表面に塗っておく。トラバサミは3つも持っていけばいいだろう。俺と爺、女がひとつずつ。細いが女も膂力はあるらしい。

「日が暮れる前に行こう。囮なら慣れてる」

「頼もしいな。キリュウと言ったか?」

「ああ。それで通ってる」

「ジーオウじゃ」

「タユウ」

 爺はジーオウと名乗り、女はタユウと名乗った。不思議な名前だ。雰囲気も独特。

「ほら、コマチ、置いていくぞ」

「ちょ、ちょっと! 私、納得してませんよ!」

 俺たちは歩き始めたが、コマチは湖畔から動かないと腕を組んでいる。

「夕方になると湖畔からスライムが出てくるから、気をつけてね」

 タユウがそう言うと、コマチは慌てて俺たちの後ろをついてきた。

「どうしてこうなっちゃったんですかねぇ?」

「なるようにしかならないからだろ」


 森に入り、湖に流れていくという小川を遡り、獣道を進んでいく。獣の気配は濃いが、姿は見えない。


「この先は危険だ。足元に気を付けろ。突然、地面がなくなる」

「どういうことだ?」

「よそ見をするな」

 振り返った俺にジーオウが注意してくる。前を見ると獣道が途切れ、獣の気配も消えた。風音も小鳥の声も、小さな虫の鳴き声も消えて、急に静かになっていることに気が付いた。

 木々の隙間に、向こうの木々が見えなくない。

 藪をかき分けてみると、突然、崖が現れた。いや、崖というよりも、地面が大きくえぐれている。まるで巨大なお玉で地面を掬ったように、半球状に陥没。半径50メートルほどのクレーターがそこにあった。

 

「数か月前、突然、光の柱が立ったと思ったら、穴が空いていたのだ」

 ジーオウは淡々と語った。ジョゼも言っていたが、何かの現象だとしたら他の地域でも報告されているはずだ。人為的な兵器の実験か。

「ジーオウもなんなのか知らないのか?」

「わからん。キリュウ、これがなんだかわかるか?」

 ジーオウは小さな拳大ほどの魔物の頭骨を見せてきた。おそらく竜の胎児のものだ。

 思い出したのは、はぐれ魔法使いの家の地下室で見た竜の胎児と、竜騎士になる時に世話をしてやった竜の子供たち。

「竜の子の頭だな」

「やはりか。穴の中心に落ちていた」

「そうか……」

 俺はひとり深くうなだれた。


 西国とこの国が戦争を始めたきっかけは、この国が兵器の情報開示を断ったからだ。攻め込んだのが竜ならば、攻め入る理由も竜か。人の世は竜にこれほどまで乱されるのか。

 竜の子の頭骨を見ながら、俺は考えた。

 どうやってこの国に持ち込んで、どうやってこんな現象を引き起こしたのか。たとえ竜の子だとしても、こんな隕石の落下後のような真似はできない。


「こんな穴、大人の竜だろうとできないだろ?」

「そうだろうな。お前でもわからぬか……」

「きっと西国の竜の学者にだってわからないと思うぜ」

「この穴が空いて以降、水源の東側が騒がしくてな。魔物が落ち着かない。人もなにやら立ち入っているらしい」

「見つけたら殺せるのだけど……」

 ジーオウとタユウは穴の中心を見つめた。


「死体を捨てるにはこういう穴に捨てるのが一番楽だ。適当に魔物が食ってくれるからな。まさか俺たちを殺して、捨てるつもりか?」

「そのつもりだったが、死体は新鮮な方がいいだろう。毒を塗って適当に休んでいてくれ。トラバサミはこちらが仕掛ける」

 穴から離れ、俺はジーオウに持っていたトラバサミを渡した。そのままタユウとともに獣道に仕掛けに向かった。


 俺とコマチは、なるべく喰われそうな腹に毒を塗りこんだ。

「食べられる前提じゃないですか!?」

「そう怒るな」

「なんとかしてくださいよ! 竜騎士さん!」

「なんとかなったらな」

 襲ってくるのが腹とわかっているのだから、右腕を噛ませてどうにかしようとこの時は思っていた。


 ふと風が吹いてきて、嫌な臭いがした。

 俺は一応、自分の肩を確認したが、別に臭いは汗以外しない。


「腐肉の臭いですね」

 コマチが鼻をひくひくと動かして、周囲の臭いを嗅ぎ始めた。

「俺じゃないぞ」

「わかってますよ」

「こっちだな」

 臭いを辿っていくと、木の根元に土が盛り上がっていた。

 棒でつついて中を覗いてみると、腐った肉。しかも人の皮膚のようなものに模様が描かれている。

「これ入れ墨ですかね?」

「そうだな。人の腐乱死体か。でも骨がないぞ」

「肉だけですね。なんだかドロドロになってますけど」

 俺もコマチも鼻をつまむ。

 よく確認すれば、入れ墨が鱗のように見えなくもない。ただ、日が陰ってきているので、どうにも確認できない。


 ガサッ!


 近くの木々の間を大きな黒い影が走り抜けた。


「来ちゃったみたいだな」

「どうするんですか!?」

「なるようにするさ」


 


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