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16話:水源を往く


 翌日から俺が倒したゴーレムの鉄板が町から輸送され始めた。

 量が量だけに、今後数か月に渡って取引されるという。


「次の次のレイドまでは、俺たちは仕事のしっぱなしだ」

「解体するより、人を雇ってる時間の方が長くなってる。数字ばっかり見て、頭痛いよ」


 俺の援助者である整備屋と解体屋は笑っていた。


「何よりだろ。よかったな」

「ああ、よかったんだけど……」

 整備屋が言いづらそうに、俺の顔を見た。

「キリュウ、これはお前のお陰だし、金も借りてるようなもんだと思ってる。ただな、俺たち、親がいねぇんだ。レイドで冒険者だった親を亡くした孤児でよぅ。金をこんなに持ってもどう使っていいかわからないんだよ」

「宿買って、料理屋も買ったんだろ? 人だって雇ってるって言ってたじゃないか?」

「余るんだ。俺たち2人ともこの町で育ったから、酒もやらないし娼婦に入れ込むってこともない。身持ち崩した奴らをたくさん見てきたからな。いや、貯めればいいとは思うんだけど……」

 どうやら2人とも金を稼いでも使い方がわからないらしい。

「俺も孤児で、地元じゃよく鉄くず拾ったりしてたから、そんなに変わらないと思う」

「そうなのか?」

「そうだ……」

 スカベンジャー(ゴミ拾い)と、竜騎士や竜の仲間からはよく言われていた。貶しているわけじゃなく、どんなことがあっても生き残る奴と誉め言葉として受け取っていた。

「寒い日に腹が減ったりすると眠れなくて、キツくなかったか?」

「あれはキツいよな」

「あ~、殴られながらパンを口に詰め込んで盗んだりしていた」

「今回のレイドでも何人か死んでるはずだ。家族だっている。そういう奴らのために、飯を食わせたり、寝場所を提供したりすれば、なんとなく記憶の中のキツかった自分も救われた気になるんじゃないかと思うことがある」

「そうかもしれない」

「金の使い方なんて、そんなのでいいんじゃないか。もちろん、クズもいれば、認めたってしょうがない奴らもいるから、2人が好きな奴に手を差し伸べればいいんだけど……」

「ああ、そうするよ。俺たちらしいし損しても納得できる」

「見返りなんか求めるなよ。自分の好きでやってるんだからな」

「わかってる。昔の自分を思えば、一番後悔しない使い方だ」

 金貨を貯め込んでいた俺が、どうしてこんなことを言っているのか自分でも不思議だ。右腕が取れて、おかしくなっちまったのかもしれない。最近、やけに夢をはっきり見るし、呪いのせいだろうか。


「それより、ゴーレムの腕の整備を教えてくれ。水源になんか行ったら、錆びそうだからよ……。まったく難儀な腕だ。重たいし、動きにもまだ慣れないし、なんとかならないのか」

 いいこと言っちまった後は、悪態をつきたくなる。日頃の自分とのバランスが取れないのだ。


「なんの話をしてたんですか?」

 宿から出てきたコマチが聞いてきた。

「ババアのケツとジジイの金玉だったら、揉みたいのはどっちだって話」

「……何の話ですか!? それは!」

 そんな風にコマチをからかいながら、旅の準備を始める。

 どこの店も、俺を英雄扱いして、なにかとサービスしてくれる。金は整備屋たちにつけておいてもらえるので、特に金を出すこともなく、寝袋や火打石、着替え、リュックなどを揃えていった。

 

 駅馬車のチケットだけは、ちゃんと買う。魔物も倒していたので、その報酬で払えた。

「今度は席が埋まってるようなことはないか?」

「ああ、まだ席はありますよ。ただ、鉄の輸送車が何往復もしているから、渋滞するかもしれないのでご了承ください」

 御者の爺は、禿げ頭を掻きながら説明してくれた。輸送車で渋滞するのは、この町が儲かっている影響なので、何も言えない。


 ジョゼと早起きクマさんからは、訓練に付き合えと散々言われたが、面倒なので断った。ゴーレム相手に使えそうな技は、もう持っていない。やはり鉄の装甲でもすり抜けられた死霊の右腕は便利だったのだ。


 2日後、町の広場に呼ばれ、貴族から功労賞を貰った。金ぴかのメダルと塔の中で行われる晩餐会への招待状が副賞としてついていたが、招待状は通りすがりの娼婦に上げた。美人だから、上手く貴族の子息を騙せるかもしれない。

 整備屋たちは新しいナイフをプレゼントしてくれた。こちらの方がよほど旅で使う。


 赤目の大佐たちに別れの挨拶をして、俺たちはその足で馬車駅へと向かう。

 乗合馬車なので、行商人3人と一緒だ。

 馬車の窓から手を振り、裏の魔法使いの町を出た。


「母親の話は聞けたか?」

「ええ、思ったよりも町では明るく暮らしていたようです」

 コマチはそう言って、窓から吹く風を受けていた。


 馬車は昼休憩を挟み、長いトンネルを抜けて水源へと走る。

 高い山脈が見え、大森林と同じような樹木が生え、大きな川が流れている。上流に行くと水源があるようだが、辺り一帯をセレステ水源公園といって特区になっているとのこと。

 夕日が沈む前に、馬車は宿場の駅に停まった。


「この先は湿地帯になっているから、宿場から出ないように。管理者たちがうるさいんだ」

 御者は俺たちに注意していた。


 実際、湿地帯には魔物が出て、危険なのだとか。

 宿場には御者が溢れかえり、宿部屋はどこも空きがない。鉄を運ぶ馬車が何台も並び、馬小屋まで埋まっていた。


「俺たちは駅の近くで野宿だな」

「寝袋がある分、大森林よりいいですね」

 夜盗が現れるかもしれないので、火を焚いて身を寄せ合って寝床を作る。

飯もないので、非常用の干し肉を早速食べてしまった。

「湿地帯に入れれば、何か獲ってくるんだけどな」

「ええ。早いところ水源は抜けていきましょう」

 寝袋に入り、寝てしまうことに。盗まれて困るものなどないので、気は楽だ。


 夜中、何かぬるぬるとしたものが頬を撫でる感覚があり、飛び起きた。

 魔物かと思い、ナイフを構えたが周囲には何もいない。コマチの寝息が聞こえるだけ。


 起きてしまったので、宿の厠を借りようと宿場に向かった。

 厠は少し離れているので、誰が使っているのかはわからない。

 真っ暗な中だが、宿から御者や行商人たちが飲んでいる音が聞こえる。どうやらこの宿場には娼婦もいるらしい。

 用を済ませて通りを見ると、宿から明かりが漏れていた。その明かりに群がるように、小さな魔法使いたちが張り付いていた。

宿一軒につき、5人ほどが窓に顔をつけて覗いている。同じような容姿。黒いローブには見覚えがあった。


「おい、何をやってんだ?」

 思わず声をかけてみると、魔法使いたちが一斉にこちらを見た。

 皆、同じ顔をしている。姿かたちはコマチそっくりだ。


 コマチの群れが宿場に現れたらしい。



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