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新連載を始めてみました。
開いてくださいありがとうございます。
是非是非ブクマや感想などよろしくお願いします。
それでは本編をどうぞ。
「我は魔王なり」
「いやなんか違う気がする」
「俺? 私? 儂? 吾輩? 某? 」
などと一人で呟いている人間がいた。
キャラ作りをしているとこを見られたら恥ずかしすぎて死んでしまうだろう。
この人間は滑稽だった。
ただ一つ問題があるとすれば、それはこの人間が俺自身なことだ。
「なんでこんなことになってるんだろ」
ふと我に返る。
現実離れした現実が今目の前にあった。
ただの人間だった俺が魔王になるなんて思いもしなかった。
何故こんなことになったか改めて最初から整理しよう。
そう思い今までの記憶を辿った。
「あー、 疲れたなぁ」
アルバイト先から帰宅中にふと言葉が漏れた。
俺の名前は黒野 白。
田舎から何かが変わると期待を込めて上京をしたが何も変わらず毎日アルバイト。
アパートと勤務先の往復の繰り返し。
彼女も数年おらず寂しい毎日を送っていた。
唯一の趣味といったらゲームくらいだった。
ゲームといっても同じゲームを飽きずにやり込むといったプレイスタイルだ。
「そういえば今日は給料日だったな」
「少しは自分へのご褒美として新しいソフトでも買いに行くか」
給料日ということで気分が高揚していたのか普段とは違う思考に行き着いた。
明日はシフトがなく休日だ。
善は急げということでゲームショップへと向かうことにした。
ゲームショップは最寄り駅から数駅先にあるが節約のため電車は使わず徒歩での移動。
「何を買おうかなぁ」
「あれも話題になってたし、あれはゲーム人口多いからオンライン楽しそうだな」
どのゲームソフトを買うかの想像をしているだけで徒歩での移動が苦ではなかった。
傍から見れば歩きながらブツブツと呟いている不審者だった。
最近独り言が多い気がする。
事案にならないためにも外では控えようと肝に銘じた。
独り言を控え歩いていると気になっていたソフトの発売日が気になりスマホを取りだす。
歩きスマホは危険だが今や習慣となってしまった。
その状態のまま交差点へと差し掛かるが普段から交通量の少ない道だったので油断してしまった。
次の瞬間には甲高いブレーキ音と鈍い衝撃音が辺りに響いていた。
油断が全ての元凶だったのか。
それとも節約のため徒歩移動を選択したのが間違いだったのか。
もしくはゲームショップへと向かったことが間違いだったのか。
或いはこの死は正解だったのかもしれない。
同じことの繰り返しの毎日からの脱却を俺は心の中で少しは望んでいたのかもしれない。
意識が飛んでどのくらいたったのだろうか。
自分が車に轢かれたことは覚えている。
だが体のどこにも痛みがない。
それどころか怪我などしておらず健康と言っても過言ではなかった。
自分自身には問題はなかったが自分自身がいる空間には問題しか無かった。
何も存在せず真っ暗だった。
どこまでも暗闇が続いている気がする。
その中にスポットライトが当たっているかの如く自分の周りだけが明るかった。
「貴方は死んでしまったのです」
「若くして何もやり遂げることなく」
「誰の記憶にも残ることなく死んでしまいました」
暗闇の中からどこからともなく声が聞こえてきた。
その声の主の正しい居場所は分からないのに近づいてきているのが分かる。
不思議な感覚だった。
「誰だ!! 姿を見せろ!! 」
何も分からないというこの状態が怖かった。
だから声を荒らげ声の主に言い放った。
すると今まで俺の周りを照らしていたような明るさが広がり正反対な真っ白な空間になった。
「これは失礼致しました」
「私は死後の案内人のようものです」
「名はルカといいます」
ルカという少女が自己紹介をした。
見た目は幼女といったところだ。
真っ白な空間で俺とルカの二人だけ。
この異質な空間によって改めて自分が死んだんだと実感した。
「ホントに俺は死んだのか」
「はい、トラックと正面衝突で即死でした」
自分で聞いときながら死という言葉を突きつけられ自分の存在が無くなる恐怖を感じた。
今まで死というものはどこかファンタジーと思っていたからだ。
だが死んでしまったのなら気持ちを切り替えるしかない。
過ぎたことはどうしようもないのだ。
「それで天国が地獄か今ここで言い渡されるわけか」
「残念ながら不正解です」
軽口を叩いたらルカに否定されてしまった。
幼女に否定されると何故か分からないが恥ずかしさが込み上げてくる。
「先程も言いましたがハクさんは何も成し遂げず死んでしまったのです」
「改めて言わなくてもいいから」
これ以上恥ずかしい思いをしたくなかったので口を挟んだ。
だがルカはそのまま話し続けた。
「そのような人間を送り込むスペースは天国にも地獄にもないのです」
「ですので私からの提案なのですが」
「ある世界を救っていただけませんか? 」
「その功績があれば天国へねじ込むことが出来るのです」
「ちなみに提案と言ったのですがハクさんに拒否権はありませんのでご了承ください」
横暴すぎることを指示された。
質問したいことが多すぎる。
何一つとして理解出来ていない。
それなに話だけはどんどんと進んでいく。
少しでも理解するためにある質問をした。
「異世界転生をして世界を救えってこと? 」
「その捉え方で問題ありません」
「あれって創作の世界だけのことじゃなかったんだな」
ふと素直な感想が漏れる。
昔やっていたゲームでそんな設定があった気がする。
確かそのゲームでは最初に強いスキルを授けられ世界を救う冒険に出るといった話だったはず。
その考えを読まれているかのようにルカが話し始めた。
「本来スキルなどを授けさせて頂くのですが、この業界も不況でそんな余裕が無いのです」
「え、業界って括りなの!? しかも不況なの!? 」
この状況にも少し慣れたのか自然とツッコミが出てしまった。
だが、それに対してルカのとった反応は無視だったのが少し傷ついたが気にせずルカは話し続ける。
「スキルを与えることは出来ませんがプレゼントが一つありますので受け取ってください」
そう言ってルカは手を差し出した。
それに反応し俺も手を出し受け取る。
そんな俺の手の中にあったのはおにぎりだった。
「え、おにぎり? なんで!? 」
「めんどくさいなぁ」
俺に聞こえるか聞こえないかくらいの声でルカが呟いた。
少し本性が見えた気がする。
その後、我に返ったのか満面の笑みを浮かべた。
「コホン、それでは時間もないので転送させて頂きます」
「え、ちょっと待って」
そう問答になっていない問答しているうちに足元から透明になっていった。
既に異世界転生が始まり始めている。
何も準備が出来てないのに。
「小学生の遠足でも、もっと準備するぞ」
「検討を祈ります」
俺の最後の言葉は面白くもない例えツッコミであった。
それを聞いて無反応な幼女がお辞儀をしながら見送る。
黒歴史が一つ増えてしまった。
後で思い出して恥ずかしくなるのだろう。
そんな反省をしているうちに目の前は真っ白から壮大な草原が広がる世界に変わっていた。
俺は草原の真ん中でおにぎりを片手に仁王立ちをしていた。
「異世界は晴天か…… 」
俺は現実逃避をするしかなかった。
読んでいただきありがとうございます。
episode0になりました。
次から異世界冒険が始まります。
是非ブクマや感想などお待ちしております。