(11)
その日はそれ以上何も起こらず、下校となった。
ひとみとメイが一緒に校門を出ると、華蓮がなだらかな坂道をおりていくのが見えた。
「西園寺さんだ」
「なんだか背中が丸いね」
「うん、なんだか元気ないみたいなんだ。今日だって私のことかばってくれたりして」
「そうね、いつもの西園寺さんじゃなかったわね」
そんなひそひそ話をしながら坂をくだりきり、大通りにでた。
「それじゃ、また明日ね、メイちゃん」
「また明日ね、ひとみちゃん」
お互いに手をふって、メイはバス停にならび、ひとみは大通りにそって自宅へと歩いて行った。
ひとみがふと前を見ると、華蓮がゆっくりと歩いていた。
ーーやっぱり……。西園寺さんの背中が寂しそうに見える
ひとみは思わずかけよった。
「西園寺さん!」
ひとみの声に華蓮がふりむいた。
「あら」
華蓮はうれしげな笑顔を見せた。
だが、その顔にはうっすらと涙のあとがあった。
ひとみはそれを見逃さなかった。
「西園寺さん…」
ひとみの気遣いに華蓮は手で涙をぬぐい、にっこりと笑った。
「大丈夫よ。神尾さん」
その笑顔にひとみはほっとした。
「あ、あの今日はありがとう。更衣室でかばってくれて」
華蓮はフッと笑った。
「いいのよ。これからはあなたと仲良くしたいし……」
華蓮は首をふった。
「そうじゃない、ただ仲良くするんじゃないの。親友になりたいの!」
「へ?……」
ひとみはきょとんと口をあけた。
メイはいつものようにバスの最後尾に座った。身体をひねり、ひとみにむかって手を振ろうとした。
ーーひとみちゃん、また、明日ねって、あれ?
あげかけた手を引っ込めた。
ーーひとみちゃんと西園寺さんが一緒にいる!なにしてるんだろう?
華蓮はしばらく、下を向いて考えこんでいた。
「西園寺さん?」
ひとみの声に華蓮はパッと顔をあげた。
「そうだ、まずは握手からよ」
右手を差し出してきた。
「えっ?」
あわてたひとみは、とっさには手をだすことができなかった。
「いいから、早く!」
華蓮はひとみの右手をつかんで、自分の右手を握らせた。
「これから、よろしく!」
ひとみはつられて、うん、とうなずいた。
メイはバスの中からそれを目撃してしまった。
ーー何で?なに?今の握手!
メイが怒って前を向いたとき、バスが発車した。
バスに揺られながら、メイはだんだんとうつむいていった。
「たしか、神尾さんの家、このへんだったよね?ちょっと寄ってもいいかな?」
「いいけど?」
「しゃ、寄らせてもらうわ」
華蓮はうれしそうに笑った。
ーーほんとにどうしたんだろう、西園寺さん……
ひとみは首をひねった。
「さあ、どうぞ」
「ここが神尾さんの部屋かあ」
華蓮は室内をぐるりと見回した。たくさんの人形がおいてある。
「お人形、好きなのね」
「うん、好きよ」
華蓮は部屋中の人形をひとつひとつじっくりと見た。そして最後に
「かわいいぬいぐるみだね」
そう言ってロックを手に取った。
ひとみがなおしたあとなどを確認して満足そうにうなずいて、小さくつぶやいた。
「この子か……いいわね、そばにいてくれて」
華蓮はふりむいてロックをひとみに渡した。
「じゃ、私帰るね。おじゃましました」
華蓮はさっさと部屋を出て、玄関にむかった。
「あ、うん……ねえ、この子かって、どういう……」
ひとみはロックを抱いたまま、華蓮を追いかけた。
靴をはきながら、華蓮はいたずらっぽく笑った。
「ふふっ、聞きたい?」
「気になるわ」
「じゃあ外で」
ひとみはあわててママに声をかけた。
「ママ、ちょっと西園寺さん送ってくる」
「はーい」
ダークピエロは、とある家の屋根の上に立っていた。
隣には大きなダークライオンがあくびしながら寝そべっている。
ダークピエロは望遠鏡をのぞきこんでなにかを探していた。
「んーーっと、ダークプリンセスになりそうな女の子、いねえかなあ。いねえなぁ……まいったなぁ……ダークレディ様に啖呵きっちゃったのになぁ……」
ダークピエロはため息をつきながら望遠鏡をおろし、手首につけたオラクルブレスに目をやった。
「おっ」
ダークピエロの顔が輝いた。
「反応があったーー!いたーーって、なんだドールプリンセスじゃないか」
ダークピエロはオラクルブレスに赤い色と緑色の光が点灯しているのに気づいたのだ。
「あれあれ、しかも2人かぁ。だけど、んーー、まあ、ダークライオンがいりゃあ大丈夫だろ。どうせひとりはへなちょこプリンセスだし。もうひとりだってマニーの言うようにたいしたワンダースキルじゃないかもしれないしな」
ダークピエロはニヤリと笑った。
「ようし、せっかく見つけたんだ。まとめてやっつけて、マニーの鼻をあかしてやるぜ!」
ダークピエロはニヤリと笑った。