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パンドラの箱 ~萌えるゴミ発電所と異世界怪奇録~  作者: くぁwせdrftgyゆとりlp
第三章 Crazy Gonna Crazy
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第十三話 禁忌の地で(後編)

■その13



 家の要求を聞かなかったら殺されるかもしれない。そんなオレの話を角刈り頭のイカツイ風貌の男は黙って聞く。このスーツ姿の巨漢こそが、日本想電にその人ありと言われた社長・戸愚呂安芸津(とぐろあきつ)だ。

 オレの話を一通り聞いた安芸津社長は、何とも複雑な声で

「佐々津くんのご家族をあまり悪く言いたくはないのだがねえ……キミのご実家は相当おかしいと思うよ」

「同感です」

 想力発電の解説動画以外にも、企業経営や社員教育論、そして社会風刺でも定評がある動画解説者・ミスター日本想電と見解が一致したのは嬉しかった。

「ご家族はキミに全く感謝してないし、今までもキミを家族と認めなかっただろう。息子の人生を食い物にするような仕打ちだけでなく、言う事を聞かなければ今まで育てるのにかかったお金を返せと脅してくるとは。年齢を重ねても大人や親になりきれなかったんだろうね。お気の毒な人達だ」

「はい」

「話を戻すと、確かにご両親の要求通り来年春からバイトのシフトを増やす事もできる。しかし、キミは今後の日本想電を背負って立つ人材になる。私はそう確信しているのだよ。できれば大学で色々な知識を身に着けたキミを日本想電の専門職に迎えたいのだが……御実家がその様子ではなあ」

 解説動画と全く同じ、優しげで聞き取りやすい口調で安芸津社長が語りかける。ミスター日本想電と呼ばれる男にそこまで高く買ってもらえるなんて思わなかった。どうして高評価を貰えたのか、理由は全く分からないけれど。

 ただ、高く評価される未来があっても、目の前にある理不尽を清算しないと全て台無しになる。

「お金を納めなかったら5630(ころされ)そうです……」

 高校卒業後は収入の9割を生活費として納めよと言われたが、生活費がバイト代の5割から9割に爆上げされるとオレの取り分はむしろ少なくなる! 家に入れる生活費を増やす代わりに食事を用意してくれるのか母に聞いたところ、『アンタねえ、自分がどれほど卑しい要求してるかわかってるの?』と真顔で返された。このままでは家計が更に苦しくなればバイト増やせ、掛け持ちしろと言い出すのは目に見えている!

「まず確認する。佐々津くん、キミは今後アルバイトではなく、日本想電の職員として働く気はあるかい?」

 オレは思わず顔を上げる。安芸津社長は本気でオレを社員に迎えるつもりなのか?

「……あの、ひどい兄貴と両親を見返したい気持ちはありますが……」

 正直、それだけで大学に行こうと思っていたオレでもいいのだろうか?

「高校を卒業したら、日本想電に入社して社員教育を受けてもらう。試験に合格したら正社員採用。で、キミが成人したら実家と縁を切る。どうだい?」

 社長が本気である事はオレにもすぐにわかった。けれども、どうしてオレなんかに?

「でも、実家と縁を切ったりしたら親父がブチギレて地の果てまで連れ戻しに来そうですが」

 あの父親ならやりかねない。今まで出来損ないと馬鹿にしてきた次男に反抗されメンツを潰された日には何をされるか。

「会社経営が本当に火の車になったら探す暇もなくなると思うが?」

「確かにそうですが、家を出た後生活できますかね? 今貰ってるバイト代も、生活費を納めた後には食費と交通費でほとんどなくなっちゃって」

「では、キミが20歳になったら実家と縁切りできるプランを準備しよう。ここで重要なのは、キミのやる気次第だ。どうする? あと2年辛抱して、やってみるかい?」

「……本当に、できるんですか? あのクソみたいな実家と縁切りだなんて」

 ミスター日本想電とあろうお人が、どうしてそこまでして下さるのか?

「できる、できないではない。実行するかどうか、だ。それはキミ次第だ。もう一度問う。やるかい?」

 意志の強そうな、どこか優しげな眼がオレを見つめる……



 こうして高校を卒業したオレは、表向きはあくまで富嶽第一想発でアルバイトに勤しむフリーターとして日本想電に就職した。母親はバイト代の振込先を実家の口座に指定しろと本当にうるさかったけれど、本人名義の口座以外認められないとして、給料はオレの口座に振り込む事で押し通した。給料日はいつも『実家に納金するお金、ごまかしてないでしょうね!?』と言わんばかりに母親と聡明が家の前で仁王立ちして待っているのが本当にムカついた。玄関に入るとその場でバイト代の明細を改められ、納金された給料(そしてカードを持った母親の手で午前中に全額出金済)が全額か、オレがピンハネしてないか、わざわざオレの前で調べるのだ。

「だってお前は嘘つきの異常者だからな。こうでもしないと信用できないだろ」

 その異常者のバイト代をあてにしといて何言ってるんだか。


 もちろん、その口座に振り込まれるお金はバイト代であって、給料全額ではなかったのだけど。

 富嶽第一想発で日雇いでバイトした扱いにして、手渡しでもらったお金を別の口座に貯金してケータイを契約した。

『お前みたいなクズがケータイを持ったら無制限にゲーム課金するだろ』

『スマホ持ちたい? そんな寝言ほざく前に、まずは奴隷みたいに働いてこい!』

 ケータイ電話が必要と言っただけでこの言い草だ。バイト先からもケータイを契約せよと言われたと話して何とか認めてもらったが。

 こうでもしないと家を出るお金さえ準備できないという社長の想定は正しかった。

 毎月決まった金額を貯金し、食費から余ったお金で前々から読みたかった本を買ったり、昔熱中したゲームを買ったり、クズ兄にぶっ壊されたオモチャを買い直したり。

 何て楽しいんだろうと思った。むしろ、お金を遣いすぎてマズイ事になった月もあった。それを注意してくれる同僚や上司もありがたい。

 このまま貯金して、成人したら家を出ていくつもりだった。幸い佐々津工業の経営は()調()()()()()()()()()()、出ていくに都合がいい状態ができてきた。


 しかし、日本想電に就職してしばらく経った頃。

 オレは不可解な現象に遭遇するようになった――



■■■


『一番最初の異変はお昼休みに休憩室でウトウトしていた時に起きた。気がつくと、オレはエジプトにあるピラミッドの前で夜空を眺めていた』

 動画から目を離せない3人がギクリとした。生物の気配も物音も全く存在しない世界に放り込まれた、今の自分達と同じ状況なのか? と思ったからだ。

 黒い雲が浮かぶ真っ赤な空の下、朽ち果てた木々が墓標のように大地に突き刺さる異様な空間。干からびた地面にはいつの間にか大量の水が満ち、まるで湖のようだ。その水面には空高く輝く紫色の満月が映っている。

『気がつくと変な場所に飛ばされていて、変な奴らがこちらをじーっと見ている……』

 背後の枯れ果てた森から無数の視線を感じる。

 人間か? それとも異様な世界に生きる獰猛な野獣の群れか? 襲われる前に逃げなければ。

 でも、ああ! 3人の身体は動かない! まるで時間を止められたように動けない!

『誰かがこっちを見てい……、ザー……こっちを……舌なぬずr……涎を垂らレなg……』

 心臓に悪いタイミングで映像と音声が乱れる。一体何を言っているんだ!?


――再生エラー 現在このアカウントはログインしていません――


 この表示が出た一瞬の後、ケータイは全く違う景色を映し出した。

 気味が悪い紫色の満月が映る湖の畔で、見覚えがある老夫婦と小太りな中年男性がケータイの画面に釘付けになっている。何をしているのか? 相変わらず身体を動かせず動画の視聴をやめられない3人は色々な疑問で脳を埋め尽くして余計な思考をシャットアウトする。

 余計な思考とは何か?

 例えば、この3人はもしかして自分達ではないか、とか。

 満月が映る湖面にチラつく、思い出しただけでも錯乱しそうな醜い巨体の影や。

 こちらに近づいてくるズシンズシンという振動は怪物の足音なのか?

 耐えられずに転倒してしまった彼らの視界がふっと暗くなったのは何なん縋d縫罪追ヲ……



「何をしてるんだ陽はぁぁっ!! 早くオレ達を助けに来い!!」

「あの出来損ないが、こんな時にどこで何をやってるんだ!!」

「そうよ、どうして家族のあたし達を助けに来ないのぉぉぉっ!!」

 役立たずな異常者と長年罵った者に3人が全力で助けを乞う。

 どうしてこうなった?

 何がまずかったのか?

 今回の損害賠償請求について、どの弁護士に相談しても断られる中、

「真心を込めて説得すれば、彼もきっとわかってくれますよ」

 などと言っていた、細目で黒髪オールバックをした、あの弁護士の言葉を信じたのがまずかったのか?


 それとも、あんな出来損ないがこの世に産まれたのがそもそものまちg


 自問する3人が、ケータイに表示された最後の文章を読めたかどうかは定かではない。


『お前羅は↑・鰍いらなア/いから<¥ヲ・罪▲断捨離#0c05凪・ヲ→罰sお前羅が法縋ヨ』


【お前らはいらないから断捨離】と読める文字列は何者かの意思表示だったのか、あるいは文字化けによる偶然の産物なのかは定かではない。真相がどうであろうと、佐々津一家は動画の結末通りに変わり果てた姿で発見された事だけは申し上げておく――



■■■


 佐々津家の3人がおぞましい怪物に遭遇した、湖から少し離れた場所にある古いお寺と墓地の中で。

 若月によって無自覚にフォーサーにされて、鉄砲玉のように使い捨てられた3人の最期を悟った新牢神父が、寺院跡から荒野へ去っていく。

 無人となった寺院跡に放置された無数の萌え人面土器達は、まるで集落の住民達を弔う墓石のように見えた。


To Be Continued>

次回から 再び千影くんと玲南ちゃん達の物語に戻るよ>

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