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パンドラの箱 ~萌えるゴミ発電所と異世界怪奇録~  作者: くぁwせdrftgyゆとりlp
第三章 Crazy Gonna Crazy
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第十二話 禁忌の地で(中編)

『しかし、3人は警察に捕まる事はなかった』

 動画で語られる内容にホッとする3人。

 だがしかし! 動画はこれで終わりではない。長男・聡明のケータイが再生する動画の結末は、一家3人の安堵を吹き飛ばすような内容だった。


『警察が来る直前でバカ両親もクズ兄貴も大慌てで逃げだして行方不明になった。警察が捜索した結果、バカども3人は事故なのか事件なのか自殺なのかもわからない変死体となって発見された……』


■その12



『ご視聴いただきありがとうございました。気に入っていただけたら高評価、チャンネル登録よろしくお願いします。感想をコメントで頂けると本当に嬉しいです。SNSもやっていますので、そちらもチェックしてください。それでは、次回の動画でお会いしましょう』


 動画を見終わった一家3人は、不可解な状況に置かれた自分達の未来に重なる動画の結末に凍りついていた。


 これはあくまでも動画である。現実にはあり得ない。

 名門・佐々津(ささつ)家の跡取りにして、佐々津(ささつ)工業(こうぎょう)株式会社の次期社長である聡明は自分に言い聞かせた。

 確かに、3年ほど前から悪化した業績は回復していないが、家族と社員総出で苦境脱出に汗を流している。今は大変だが、必ず輝かしい未来を迎えられる筈だ。

 経営陣には社員の生活を守る義務がある。そのために実家の離れで暮らしていた落ちこぼれの弟にも協力を要請したのだ。大学に行けない程頭が悪くて父から役立たずの出来損ないと罵られてきた弟でも、バイト代を全額家計に入れて家を支えれば家族として認められる絶好のチャンスになる。兄として弟を思いやっての話だった。

 計算外だったのは、大学にも行けず高校卒業後フリーターをしていた(バカ)が兄の厚意を理解できないほど頭が悪かった件だろうか。これ以上生活費は納められないと拒絶された。

 しかし聡明は知っていた。高校卒業後に弟が離れで生活し始めて以来、離れが漫画やアニメ、ゲーム、グッズ類で溢れかえっていた事を。お金の使い方や遊び方を知らないうちに生活費として納めるお金をごまかして浪費したに決まってる。後ろめたい事をしている自覚もあるのか家に帰った弟はどこかコソコソしているし、しかも離れに鍵を設置しやがった。

 自分達一家がどれだけ苦労しているのか理解に乏しく、家族に協力もしない弟の態度に業を煮やした3人は、陽が住んでいる離れにあった彼の私物を全部処分して売上を家計に入れ

「不景気で仕事がなくて家族が困ってるのにあんな色々なモノを収集するとは、やはりお前は非常識で出来損ないの異常者だな。これからは心を入れ替えてうちの家に尽くすんだぞ」

 がらんどうになった自室を見て放心する弟に聡明が言い聞かせたところ、発狂したように家を飛び出した。

 そのお金で豪華な食事もして、明日からの仕事や生活を頑張ろうと誓った3人だが、経営陣と社員一丸の努力にも関わらず仕事は次第に少なくなり、退職者も増えていった……




「おい、聡明! そこで呆けてないで早く出来損ないの所に行くぞ!」

 社長である父の声で聡明は我に返る。

「そうよ聡明。私達の行動に、佐々津工業の未来がかかっているのよ!」

「え、あ、わかったよ親父!」

 自分達が置かれた得体の知れない雰囲気にのまれかけていた一家だが、悪趣味極まりないホラーな結末で逆に冷静さを取り戻せたようだ。

 今やるべきは何か。職場にいる弟を探し出し訴訟を辞めるように説得する事だ。

 真心を込めて説得すれば、きっと弟も改悛し反省するだろう。

 相談に乗ってくれた弁護士の言葉を思い出し富嶽第一想発の建物に向かおうとした3人の足が、そこではたと止まった。


 彼らは見た。

 遠くの山々から暗い赤色に染まった空を昇る、不気味な紫色に光り輝く大きな満月を。

 駐車場のすぐ先にあったはずの富嶽第一想発の建物群は見る影もなく消え失せ、暗黒の山々と枯れ果てた木々だけの世界が広がっている。この地球上に、こんな景色が実在するなんて!

「なんだ……ここは」

「や、やぁね。きっと私達、道を間違えて全く違う場所に来ちゃったのよ」

「そ、そうだな。聡明、車に戻るぞ」

 3人が駐車場に戻ろうと踵を返した、ちょうどそのタイミングだった。

『本日の動画は……視聴者の皆さんから寄せられた体験談です……』

「おい聡明! お前歩きながら動画見てるんじゃねえぞ!」

「いや、だから見てねえよ! でも動画が停まらねぇんだよ」

「だったらスイッチを切れ!」

「いや、それがおかしいんだよ! ケータイが言う事聞かないし、それにさっきからずっと圏外なのに新着受信が停まらないんだ!」

「はぁ? 圏外?」


『オレの名前は佐々津陽(ささつひなた)。オレには10歳年上の兄貴がいる。家で跡取り息子として大事に育てられた兄・聡明に対し、オレは小さい頃から蚊帳の外状態だった』


 再生された動画の音声が、3人の動きをピタリと止めた。報告者の名前とナレーションの声が心当たりがあるなんてレベルではない。損害賠償請求をした次男坊そのものの声だ。



 ■■■


 以下は、動画内で陽の声が読み上げた内容である。


 ――兄である聡明は確かに成績は良かったが、親の目が届かないところで弟であるオレに酷い嫌がらせをする陰湿な性格だった。いきなり突き飛ばしたり転ばせてくる兄の横暴を母に訴えても、追及された聡明は当然そんな事はしていないとしらばっくれ、母親は聡明の証言だけを鵜吞みにしてオレを噓つきと決めつけた。

 オレを異常者呼ばわりする兄の暴力は次第に悪化していったが、怪我やアザが絶えないオレの姿を見ても母親は転んだだけだと本気で思い込んでいた。そんな母はオレが頑張ってテストでいい点を取っても『90点? アナタどうしてこんな点数なの。毎回100点だったお兄ちゃんを見習いなさい!』と呆れられ、社長をやっていた父親には『どうしてあと10点が取れない!? オレに恥をかかせる気か!』と怒鳴られる毎日が続いた。

 聡明は大学を卒業すると次期社長候補として親父の会社に入った。一方のオレは

『こんな成績では、うちの会社にお前のポスト用意できないな。というか入社も無理だ』と父に言われ、母からも『高校卒業したらうちから出ていってね』と宣告された。落ちこぼれで一家の恥さらしと罵られたオレは会社社長の父と母、次期社長候補だった兄とは一緒に食事も許されず、毎日食費として貰った500円で食費をやりくりした。その食費も1年足らずでストップとなり、バイトで食費を稼ぐように言われ高校2年からバイトを始めた。

 そして高校3年になったオレを待っていたのは、会社の業績が思わしくないので進学は認めない、卒業したらアルバイトして収入の9割を家計に入れて佐々津家を支えよという母親の宣告だった。両親がオレの進学にお金出してくれないのは読んでおり、学校の先生とは奨学金を取れるように相談していたが、

『進学は絶対に認めない。実家からバイト先に通ってお金を家に入れなさい。さもなくばお前を佐々津工業とコネがある怖い人のもとへ売り飛ばし、18年間の養育にかかった費用全額含めて支払ってもらう』

とまで言われて、ついに進学をあきらめるしかなくなった。更に、オレの部屋を兄の書斎にするから高校を卒業したら荷物をまとめて離れに引っ越せとまで言われた時には、こいつらは頭がおかしいと本気で思った。


 会社の経営が苦しくなった理由を、オレは知っている。

 オレが高校2年の時に佐々津工業が落札した公共事業が、経営陣に入ったばかりの聡明が事業条件をよく読まずに入札金額を決定したせいで、本来なら手抜き工事を疑われて失格ラインスレスレの金額で落札してしまい、他事業の収益でも賄えない膨大な赤字になったからだ。

 それを口にしたら母と兄に殺されかねないのはもちろん承知している。進学は決して認めないという母親に

「社員の生活を守るのはわかるけど、それは兄貴と親父の責任であってオレには関係ないだろ」

「まあ! お父さんや聡明が頑張ってるのに、お前は手伝えないって言うの!?」

「だってオレは佐々津工業の社員じゃないし、オレを入社させられないって言ったのは親父だろ」

 頼まれても入社するつもりはなかったけれど。

「当然よ、だってお前は優秀じゃないんだもの。佐々津家にお前みたいなのがいるなんて社員に知られたら示しがつかないでしょ」

「無能なオレのバイト代を生活費のあてにする時点で、名門佐々津家の示しとやらはとっくに迷子だけど?」

「どうしてお前は家族に協力できないの! どうしてお前はいつもそう下らない屁理屈とウソを並べるの!」

 本来なら志望校に合格できるかどうか一喜一憂しながら勉強に励む時期なのに。

 もう本気でこいつらはダメなんだなと思った。


 こんなオレの本当にどうしようもない問題を真剣に解決しようと動いてくれる人達に出会えたのは、多分オレの人生で最大の幸運だったのだろう。

 バイト先である富嶽第一想発の社長。

 ミスター日本想電こと、戸愚呂安芸津(とぐろあきつ)その人だった――


To Be Continued>

佐々津工業が膨大な赤字を計上した理由。これは数年前まで私が勤めていた会社で、自分の退職後に実際にあった出来事をもとにしています。

その会社を辞めた時、次期社長候補のクソガキから死刑を言い渡された(実話……)のは本気でムカつく思い出。

会社はまだ潰れてはいませんが順調に財産を食い潰しているそうで。

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