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パンドラの箱 ~萌えるゴミ発電所と異世界怪奇録~  作者: くぁwせdrftgyゆとりlp
第三章 Crazy Gonna Crazy
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第八話 夏休みの課題(物理)(その8)

■その8



 あの、若月である。ウドンケンジョウレイ結界に潜み想力発電所を破壊するために陰謀を巡らした不気味な異世界人だ。論点のすり替えといった詭弁を弄して多くの人々に自分の正義が正しいと思い込ませ、正義という名の妄想を世界に侵食させてどんな非現実をも現実のものにしてしまうフォース・『イノセントワールド』の使い手。

 千影は最初この異空間を若月の仲間が作った可能性を疑ったが、むしろ若月自身が作ったと考えた方がしっくりくる。背中にのしかかる重圧は忘れたくとも忘れられない。あの男と相対した時と全く同じ雰囲気だ。おぼろげだった嫌な気配が突然に明確な実体をもって千影の首を刈りに来たところまで。

 木南や零比都、虎野から若月の能力についての予習はした。その本質は一言で言えば『正義感気取りのかまってちゃん』である。対処方法もかまってちゃんと同じで『徹底的にスルーして取り合わない』『絶対に話に乗らない』というものだ。それ以外にも『イノセントワールド発動時の隙を突き最強の攻撃を叩き込み一撃必殺する』があるが、これはできる条件が限られる上に難易度が凄まじく高い。

 取りうる対処方法は基本、スルー一択となる。若月の関与を口にするのもNGというレベルの、徹底スルーだ。


 しかし、まさかこんな事が起きるとは誰が想定できただろうか。

 気づかぬうちに千影と玲南の足首が浸かる高さまで満ち潮のように現れた水面に、2人の背後に立つ巨大な怪物の姿がハッキリと映っていた、なんて!

 千影達を見下ろす怪物の大きさ10m以上はあるだろうか。体表には棘みたいな突起物が無数に生えている。水面に映る忌まわしい姿に2人の目が釘付けになっている。

 それは無数の生物が集まってできた人型の塊だった。突起物はこの世界にかつて住んでいた住民達の成れの果てだろうか。古そうな着物に身を包む人、薄汚れたを通り越してボロキレを身に纏った人、狼や猫、蛇の姿も見える。真っ黒な眼窩とぽっかりと開けた口をこちらに向けている。

 棘に見えたモノは腕や足だった。人間の手足、獣の足、タコの足がもぞもぞ蠢くデタラメな動きをしながら、千影達のすぐ後ろまで迫っている。若月のフォースが産み出す戯言につきあってはいけないとわかっていても、目が離せない。

 千影達の周囲にいたゾンビ人形達はいつの間にか姿を消していた。もしかして、この異空間に置かれていたゾンビ人形全て取り込んで誕生したのがこの怪物なのか?

 などと、考えている暇はない。


『嬉 し い 。 や っ と オ レ を 見 て く れ た な あ ? 』


 この異世界の生き物全てを取り込んだ忌まわしいバケモノの表面に口を思わせる巨大な空洞が現れ、そこから嬉しそうな声を発した瞬間、牙の長さも歯並びもデタラメな醜い口が千影と玲南もろとも世界を一飲みにした。咄嗟に玲南が千影にしがみつき2人をすっぽり覆える広さに五線譜ワイヤーを張り巡らし防壁を構築した直後、飲み込んだ2人を消化すべく怪物の肉襞が防壁に激しく衝突し、まさに間一髪。

『わぁい、おともだちだぁ』

『こんにちは! 友達になソましょう』

『災害を鎮めるため人柱になったわたしにも、はじぬ乙友達が増えるよ……』

 押し寄せる肉襞が防壁を破壊しようと圧力を強めてくる。ワイヤーとワイヤーの隙間から肉襞に取り込まれたゾンビ達が蠢く様が見える。

 怪物を構成するゾンビ達が千影達との友好など微塵も考えているとは思えない。そもそも有効という概念を理解できるかも怪しい。耐えがたい飢えと渇きを生者の血と肉と命で癒そうとする本能全開で五線譜ワイヤーの隙間を潜り抜け、ついに分厚い防壁の内側に顔をのぞかせた亡者達が、暗く窪んだ口を大きく開けて、逃げ場を失った千影達を捕食しようとした、次の瞬間。

 顔の部分を特殊な金属の工具で挟まれて無造作に肉塊から引き抜かれて下に叩きつけられ、熟しすぎてグズグズに腐ったトマトめいた中身を地面にぶちまけていた。


『『え?』』

 べちゃっという聞き慣れない音がもたらした一瞬の静寂。その間にも『バールのようなもの』と称される特殊工具がワイヤーの隙間を隙間をかき分け顔を出した侵入者達を肉襞から引き抜いて床に打ち捨てる。まるで板に刺さった大量の釘を造作もなく引っこ抜くような慣れた手つきで。

 淡々と。淡々と。

「初めまして! お友達がこんなに増えて嬉しいよ……★」

 ゾンビ達は一瞬、バールのようなものを手にする少年が何を言っているのか理解できなかった。これから無造作に命をすり潰される哀れな犠牲者の分際で、その表情には恐怖の色が見られない。隣にいる少女みたいなおぞましさに引いたような顔とも違う。

 言うならば……恍惚の表情だ。バールを握り締めた少年が何を考えているのかわからずゾンビ達が戸惑った仕草をした次の瞬間、内部に顔を出したゾンビの半数が巨大バールの餌食にされていた。

『『え? え?』』

 分厚い防壁を構築する五線譜ワイヤーの隙間を突破したゾンビ達は何が起きたのかさっぱりわかっていない。防壁から顔を出した彼らはまだ気がついていない。傍から見た自分達は、蜂の巣穴にみっちり詰まった蜂の幼虫のようだった。

 無数に開けられた穴の中で、ツブツブが蠢いているように見える!

「新しいおともだちには自己紹介しないといけないよね。ってなわけで自己紹介いっきまーす★ このオレは蜂の巣板からハチノコを引っこ抜く事を趣味にしていまぁーす★ こんな風に! こんな風にーっ★」

 ゾンビ相手にハチノコとりを実演してみせる千影。もちろん彼自身にはそんな趣味はない。トライポフォビアを発症してツブツブバーサーカーと化した時だけである。バールの釘抜部分でゾンビの首を挟み、後は引き抜くだけの簡単なおしごとです。怪物から分離され地面に放り棄てられたゾンビ達は身体が維持できず、後は朽ち果てるだけ。

「ぬーくーのーっ★ ツブツブをみんな、この世のツブツブを全て処置するのだーっ★」

 興奮のあまりすっかり鼻息も荒くなった千影が、歓喜の声を上げてゾンビ達に襲い掛かる。こいつヤバいと判断したゾンビ達が慌てて撤退しようとするが、ワイヤーとワイヤーの隙間に挟まって後退もままならない。悪戦苦闘するうちに千影のツブツブ除去貢献スコアがどんどん積み上がっていく。

「探せ! 探すのだ!! この世の全てをツブツブに置いてきた!!」

『んげ、ぬけね……アバーッ!?』

『ちょ、ちょっと待て! タイムタイム! アバーッ!』

 ゾンビ達がたまらずタイムを宣告するが千影が受け入れるはずがない。防壁内部に侵入したゾンビ達は瞬く間にバールみたいなものの餌食になって数を減らしていき、2体を残すのみ。既に肉襞は防壁を圧迫するのをやめて引き始めていた。

 あの怪物まで千影のツブツブバーサーカーモードに恐れをなしたようだ。しかし千影には逃がすつもりは毛頭ない。

 五線譜ワイヤーをこじ開けて防壁から飛び出した千影を見て、後退し続けるゾンビ達がヒッと悲鳴を漏らす。空高くから、前方から、後方から、左右両方から。ゾンビ達でできたおぞましい肉襞がぐるりと千影を取り囲んでいた。

「タイムなんて認められると思うか? ここが実戦だったらお前は5回死んでるぞ!」

『『『『『いや、もうオレ達死んでますし……』』』』』

 じりじり後ずさる怪物達に、千影がバールを片手ににじり寄る。

「屁理屈を並べるなーッ!! ここで逃げる奴は皆ゾンビだ! 逃げない奴はよく訓練されたゾンビだーッ!」

「千影くんが言ってるのは屁理屈ではなく言いがかりだよね★」

 防壁を作るために使用したワイヤーが複雑に絡まって、片付けに手間取った玲南が遅れて出てきたところ、千影はすっかりツブツブ相手に無双状態だった。世界の全てを呑み込んだ肉壁の表面に切り込み、引っぺがしたゾンビを後方に勢いよくしゅぱぱぱぱ……と射出していく。ゾンビが空中を舞っているうちに急速に風化し粘土みたいな塊に変換され地面に撒き散らかされる。

 玲南がいるところにゾンビが落下しないように千影も気をつけているのだ。実際は千影の腕に繋げた五線譜ワイヤーで流される、千影の反射神経や認識能力を上げる歌の賜物なのだが。

 とにかく、一気に楽勝モードになった。ツブツブバーサーカー万歳。



 もちろん、それで全てを片付ける玲南ではない。

 いくつか気になる点がある。

 この異空間を作り出したフォーサーは何が目的でこれだけ大掛かりな仕掛けを準備したのか。

 やっている事があまりにも杜撰すぎる。まるで千影のトライポフォビアを確認するのだけが狙いだったと思えるような。

 もしもそうだとしたら。この異空間を形成したのが若月やその仲間だったとすれば、これで千影の欠点に気づいたはずだ。

 千影の本質はこの世の理不尽に対抗する力だと神父が言っていた。だからこそ若月の話術や詭弁に引っかからず、イノセントワールド発動の隙を突きあと一歩というところまで大逆襲できたのだ。

 若月にとって千影は天敵というべき存在である。

 でも、ツブツブバーサーカーに覚醒した千影はそうではない。それこそ、赤子の手を捻る様に簡単にハメられてしまう。


 嫌な予感がする。真剣に対策を考えて実行できる手筈を整えないと、そのうち本当に千影が危険に晒されてしまいそうな……



「悲鳴を上げて逃げ回るツブツブ()は何処にありや! 何処にありや! 全世界は知らんと欲す!」


 いつもの管理棟事務所に戻ったのも気づかず、粘液がべったりとついたバールを手に、事務所の掲示板に貼り付けられた画鋲を夢中で引っこ抜く千影を見て、玲南は本気でそう思うのだった。


To Be Continued>

もう一波乱あります。

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