第六話 夏休みの課題(物理)(その6)
2021年4/13 修正しました。
■その6
「何がわかったんだ? 玲南」
「当然、萌え人面土器の素晴らしさを知らない少年に世界がお怒りなのだよ! 息をするように萌える、その呼吸は勇気の産物!! 人間のすばらしさは人面土器のすばらしさ!! その素晴らしさを今回は特別に教えてあげよう。これは僕が昔イケメン英国紳士だった頃の話なんだけどね……」
「んで、何がわかったの? 玲南」
千影の質問に答えるように、玲南は応接間へ向かって五線譜ワイヤーを射出し、事務所の風景を勢いよく剥ぎ取った。後に残されたのは漆黒の空間。千影達を包囲する漆黒の空間に、無造作な文字列が浮かび上がる。
「この壁紙、ブルースクリーンって呼ぶんだよね。色は黒だけど★」
「いやこれゲームとかPCの文字列じゃねえだろ! お札だよ!!」
忌まわしいとか気持ち悪いなんてレベルではない。玲南が切り裂いた景色の裏に現れたのは、何かのcodeというより模様と印のついたお札と言った方が正しかった。何か良からぬものを封じているように、壁一面に貼り付けられている。びっしりと、隙間なく、無造作に!!
『アーイイ、イーッ、イーッ!!』
変わる事なく漆黒を切り取っている、計量受付の窓にあたる部分から見える何かが奇妙な声を上げてこちらに向かってきた。オッ〇トヌシになり果てたトラックが積んできた萌えるゴミだろうか。こちらを覗き込み窓を激しく叩いている。
「ほら! 少年が萌え人面土器を拒んだからバチが当たったのだ! 一刻も早く少年が萌え人面土器を受け入れないとボエボエボエ」
早口でまくし立てる神父だが、早口すぎて呂律が回らなくなったような意味不明な音声に変わっていく。聞き覚えのある、奇っ怪な声に。
「もう正体バレてるの、まだわからないかな? 神父さんに成りすますのやめよーね★」
玲南の五線譜ワイヤーに絡めとられ神父の姿を維持できなくなったのだろう。異形というべき正体をさらけ出す。最初はおやくそくと言うべき萌え人面土器の集合体に変化したが、やがて鉄道模型やプラモデルといったオモチャ類に変わり、そのまま崩れ落ちて床に溶け込むように消えた。
「萌え人面土器が神父になりすましていたのか? 気づかなかった」
千影も気づけない見事な擬態だった。主に萌え人面土器イチオシなところが。まさか作り手に成りすますなんて……
しかし、こうした千影の見解を、玲南は首を横に振って否定する。
「アレは萌え人面土器じゃないよ。パラノーマルだよ」
「え? パラノーマルって……ウドンケンジョウレイ結界はどうなってるんだよ!」
「ここは結界の中だよ」
「結界!?」
「さっき計量器のブザー鳴ってたでしょ。あの時結界が事務所に迫ってきたパラノーマルを玲南さん達含めて隔離しちゃったんだろーね★」
「また結界の不具合や誤作動ネタかよ」
どこからともなく声が響く。
『昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました……』
無数の声が聞こえてくる……
『おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんが川に洗濯に行こうとしたところ、都会に出たきり帰って来ない息子夫婦長男を名乗る一本の電話がありました』
『おばあちゃんオレだよ。実はおばあちゃんを名乗る電話があってお金を騙し取られて生活費ピンチなんだ。ゴメン、生活費を送ってほしいんだ。今日年金振り込まれるよね?』
『何という事でしょう! 老後のためにせっせと蓄え続けている80代老人の貯金を奪い取ろうとする卑劣な罠!』
『そんなお年寄りを詐欺から救ったのが、老夫婦が昔購入した萌え人面土器だったのです! 萌え人面土器は速やかに警察と銀行に相談するよラにアドバイヌをし……』
「むしろお前が詐欺に使われる側だろ!!」
窓ガラスにぴったり張り付いた自己主張のキツイパラノーマル達をハリセンで痛打した。これは痛い!
続いて、玲南の五線譜ワイヤーが残るパラノーマル達全て吊るしあげて一網打尽にする。千影達の敵ではない、弱いパラノーマル達だ。
ただ、そういうパラノーマルに限って……ひたすらしつこい。
『一家に一台、萌え人面土器!』
「間に合ってます!」
机の上でCMするパラノーマルをハリセンで一蹴する。
『防犯対策に萌え人面土器! 不法侵入者は許しませあぼーっ』
「お前らが不法侵入者だろ!」
いつの間にか管理棟事務所に入り込んでいるし!
『水道周りのトラブルなら萌え人面土器が速やかに対応しまぼあーっ』
「浄水器あるからいりません!」
『浄水器に関するご用命は、この萌え人面土器にぐひゃー』
「どうせ口からお水がじょばーっと出るタイプなんでしょ★ 間に合ってます!」
次々に撃破していくがキリがない。
「あの神父、一体どういうつもりだよ!」
萌え人面土器を勧める神父の仕業だと千影は考えたようだが、玲南の意見は異なるものだった。
「これは神父さんとは無関係だよ。結界に潜む何者かが、玲南さん達を襲わせる目的でパラノーマル達を呼び寄せてる!」
「何のために?」
『何のため? 決まってるだろぉぉ』
『萌え人面土器を世界に広めるためぼがらー』
もちろん玲南はパラノーマルの言葉を鵜吞みにしない。何者かの意図があるところまではわかっている。千影と玲南以外の、何者か。
例えば、玲南の足元から伸びる影からひょっこり現れたような……
『まーだ、わかんねえのか? この小僧どもが』
「はい、千影くん出てきたよ★」
玲南を襲おうとしたパラノーマルに、待ってましたと言わんばかりに千影はハリセンを振るう。どうやら今現れた者達がパラノーマルを呼び寄せているらしい。
『恨まれて当然だろ、お前ら? あ?』
『お前らのせいだ』
『お前らのせいでオレはこんな事にオレはこんな事に……』
今まで片付けてきた萌え人面土器もどきとは全く違う、嫌な記憶に触れる口調だった。零比都につき纏い、富嶽第一想発の職員に嫌がらせをして逮捕され、今は刑務所付きの病院で意識不明の状態に陥っているというあの人物……
顔を見合わせる千影と玲南。凪橋と同じ声で語りかける人影がぐるりと取り囲む。見られているだけで千影の肌がぶわっと粟立つ。事務所の天井から、壁から、窓から、無数の嫌な視線を感じる。
『そうだ、オレ達が酷い目にあったのはお前らのせいだ』
逆恨みもいいところだ。
『お前らのせいだ』
『『お前らのせいだお前らのせいだ』』
『だから、あの娘はオレが貰ラげほxーっ』
「それがアナタ達の遺言? 全く笑えないんだけど!」
零比都や榛名、留萌に危険が迫っている事を認識した玲南が、囁いてきた集団を五線譜ワイヤーで磔にして黙らせた。
零比都がいればどんなパラノーマルが来ても安心だとわかってはいるが、相手があの凪橋なら、零比都達に何をするかわかったモノではない。倒しても倒してもキリがないと思われたが、パラノーマルの湧くサイクルと動きが次第にゆっくりになり、ついに最後のパラノーマルが千影のハリセンで屍の山に沈められた。その衝撃で、不吉なお札がびっしり張られた四方の黒い壁が後ろに倒れて砕け散った。
破壊された壁の細かい破片が土煙のように舞い上がり視界を遮る。
To Be Continued>




