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パンドラの箱 ~萌えるゴミ発電所と異世界怪奇録~  作者: くぁwせdrftgyゆとりlp
第一章 Boy Meets Girl
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第九話 黒塗りの高級トラック(SAN値直葬)に追突してしまう。

■その9



「あの、どちらさんですか?」

 衝立の外で、気が強そうな少女が応対する。

『いや、我々は有東木くんと同じ職場に勤めているんだけど、彼が倒れたって聞いたんで』

『何でも、全裸で歩いてたせいで痴漢と間違えられて股間を蹴られて入院したとか』

「んな事あってたまるかーッ!!」

 しまった、つい突っ込んでしまった! 後悔しても既に遅し、途端に大騒ぎが始まる。

『おぉ、ヘンタイでチカンな有東木くんじゃないですか』

『今からご飯食べに行こうぜ。都条例違反と猥褻物陳列罪でカツ丼な。もちろんお前の奢りだ』

『有東木くんがいるべきところはそこじゃない。監獄だよ……』

 ベランダがない3階の窓にしがみつくのは常識的にアウトじゃないのかとツッコミたい衝動に駆られる千影だが、残念な事に手元にハリセンがない。

 それに、玲南がベッド脇にいて、起き上がろうとした千影を問答無用でベッドに寝かしつけてくる。これでは身動きが取れない。

「ハリセン出せなかったでしょ?」

 思わず見上げそうになる、玲南の声だった。

「千影くんの怪我は確かに治ったけど、全裸男に体当りされた時にフォースが凄いダメージを受けちゃいました。今、千影くんはパラノーマルを退治できるハリセンを使えません。フォースが復活してハリセンも使えるようになるまで、今はここで大人しく寝ててね★」

 玲南はそう言いながら千影の掛け布団を直す。パラノーマルとの戦いで一時的にフォースが使えない状況に陥るのは想伝蜃奇録でよく見かける展開だが、まさか夢の中だけのなんちゃってフォーサーな千影まで設定が適用されるとは。

 ……と、いう事は。

「……もしかして、今パラノーマルに出会ったら……マズイ?」

「そうだね。あのパラノーマル達ははっきり言って弱いけど、今の千影くんはフォースによる最低限のガードもない状態だから、パラノーマル達に出会っただけで住処に引きずり込まれちゃうよ。黒塗りの高級トラックに追突されるみたいに★」

「異世界転生かよ」

「ただし死んでも生まれ変われないから異世界に行けないけどね★」

「それってただ死ぬって事だろ!」


『有東木くん具合はどうなんだい? 心配してるので顔見せて』

『千影くんいるんでしょ! 顔出して下さい!』

『そこにいるのはわかってるんだよ。居留守使ってないで出てこいよ!』

『何もしないから出てこいって! 一瞬死ぬほど痛いだけだ!』


 影の数が増えた!


「大丈夫、セミがミンミン鳴いてるだけって思えばいいよ★」

『『『『『『みーんみんみんみんみーん……』』』』』』

「ね、セミが鳴いてるだけでしょ★」

「人間と同じ大きさのセミとか、むしろそっちが怖いわ!」

 とにかく、千影を寝かしつけようとする玲南の行動は理解できた。この夢は、玲南達がパラノーマルから守ってくれるので、千影は布団の中で眠っているだけで良いみたいだ。

 それにしても、千影と玲南の声もパラノーマル達に筒抜けになっている点については首を傾げるしかない。万が一の危険に備えていながら、こんな警備体制で大丈夫なのか? 夢とはいえ自分の正気を疑うような展開に、まだ解消されない不安が少しずつ膨らむ。

 その声も、自然に小声になる。

「会話成立させていいのか? 見つかったらマズイんだろ」

「大丈夫、衝立の外に出ない限り見つからないから」

「そんな事しゃべっていいのか」

「大丈夫。とにかく千影くんは、絶対に衝立の外に出ないでね。あいつら、弱いけどしぶといししつこいから★」

『『『『みーんみんみんみん……って、誰が雑魚だーッ!』』』』

 言ったのは千影ではないけどな!

『一足早く社会人になった人生の先輩へのリスペクトがない有東木千影はどこですかー?』

『二次元で玲南といちゃついてる有東木千影はバーチャルポルノ法違反容疑で逮捕します!』

『お前は既に包囲されている! 諦めて外に出てこい!』


「ふーん。あの人達、千影くんの職場の人なんだ」

「いいえ知らない人達です」

 三階の窓に直接貼り付いてみんみん鳴くような同僚など(千影の職場には)いません。

 多分、きっと。

『『『『なんだとぉーっ!! アレだけ面倒を見てやったのに!』』』』

 浮かび上がったシルエットが、ゴミ屋敷に埋もれていたエンジニア達にそっくりに見えるのは目の錯覚です。アレはきっと、粗大ゴミを無理やり可愛らしく擬人化させたパラノーマルなんでしょう。

 面倒見てもらった記憶はないとツッコみたい衝動に必死に耐える千影の目前に、玲南が紙切れを突きつけてきた。口元に人差し指を当てながら。



●注意事項

●衝立の外には絶対に出てはいけません。

●このパラノーマル達は非常に弱いけどしぶとくてしつこいので、医務室に引きつけて根絶します。

●午後8時までに討伐は確実に完了します。この期限はパラノーマル達に知られないようにして下さい。絶対に口にしないで下さい。

●午後8時まで耐えて下さい。

●この時間期限を知られないようにお願いします。

●午後8時までry

●時間の期限だけはナイショで


 素直に頷く千影。

 つまり、千影を囮にしてパラノーマル達を一網打尽にするつもりらしい。それなら話が聞こえても大丈夫というのも納得できる。こんなにうるさければ向こうにも聞こえないだろうけれど。

「だから、そんな人いないっての……」

 衝立の外で応対する少女の声も既に投げやりになっているが、窓の外にいる影はお構いなしな様子で

『隠し立てしたってダメですよ! そこにいるのはわかってるんですから!』

『玲南とちちくりあってたくせに、ここにいないなんて理屈が通じるわけがねえだろう!』

『『『『『『そうだーっ!!』』』』』』


 千影は見た。

 影達の絶叫と同時に、窓側の衝立全面に人の形をした影が一気に貼り付いたところを。

 仕切りの中がふっと暗くなる。医務室の照明も消えたのだ。

 空気の変質が肌で感じられた。衝立の向こうで、何かがうろついてる。

 嬉しそうな声を上げながら、医務室を徘徊している……

『どこだ……俺の嫁、俺の嫁を奪い取った有東木はどこだ……』

『ハァハァ! 玲南だ……玲南の匂いがする。くんかくんか! やっぱ嫁は劣化していく三次元じゃなくて二次元に限るよな……っておい、その金属バットは何だ……おい、何をする! ギャアアアアアーッ!!』


 歓喜の声が一転して悲鳴に変わり、爆発音や破壊音が千影の鼓膜を震わせる。迸る光が、襲撃者達の様子を影絵のように仕切りに浮かび上がらせる。

 一言で言うなら、豪華絢爛殺戮絵巻。立ちはだかる小柄な少女に侵入者が飛び蹴りを喰らわされ、胴体から切断された頭部が宙に飛ばされたり、迸る閃光を浴びたパラノーマル達の身体がグズグズと崩壊させられたり……

 やがて訪れる静寂。一体衝立の外で何が起こった? いくらなんでも描写が物騒すぎないか?

 千影は思わずベッドから起き上がり、衝立を開けて外を見ようとしたが


「ちょっと千影くん、何で外に出ようとしたのかな?」


 天使のような微笑みを浮かべた玲南に通せんぼされた。ニコニコ笑顔だけど目が全く笑っていない。外を覗こうとした千影の両肩に手を置いて、何が何でも外を見せまいと押し返してくる。

「いや、だって今爆発音とか銃声が……」

「爆風なんて気にしなくて大丈夫だよ。友軍の列車砲が敵を木っ端微塵に消し飛ばしただけだから★」

「ほー、そうなんだ。友軍の列車砲が都市区画ごと敵を吹っ飛ばしたのか、なるほど……」

 ツッコむ間もなくベッドまで強制送還され寝かしつけられる。


『アレくらいで諦めると思ったか……』

『そろそろ頃合いだよ玲南。親からは孫の顔を見せろってうるさいし、そろそろ玲南のご両親に挨拶に行かないといけないだろ? 最近は少子高齢化なんだから、早く結婚するに越したことはな……ぎにゃああああああ!!』


 再び静まり返る室内。今までを考えるとこれで終わりなはずがない。

 事実、仕切りの外でまだ何かがうろついている。今度は何が起きるのか。


 こんこん、こんこん。


 千影がギクリとした。予期せぬ方向から聞こえた、ドアをノックするような音。一体どこから?

「どちら様です?」

 玲南が棚の置かれた壁側に向かって返事すると、壁の向こうから声が聞こえてきた。

『ピザ・ドロシーです。富嶽第一想発・木南様から御注文いただいた、ブルーベリーパスタ25人前お持ちしました』

 料理と呼べるシロモノなのか、食材から生まれた正体不明の物体なのかわからないネーミングだ。というか25人前って!

「ありがとうございます。ちょっと今手が離せませんので、そこに置いといて下さい」

『いや、出来たてを食べてもらいたいのです。今すぐ取りに来て下さい……』

 またしても嫌な予感がよぎる。そもそも、何でドアではなくて壁をノックするのだ、この配達員は。

「こっちも忙しいのですみませんが中まで持ってきて下さい……持って来れるものならね★」

 玲南が言い放った直後、千影の嫌な予感が的中した。

『おい、この忙しい時にパスタ届けてやったのに、その態度は何なんだよ! いいから外に出てこいよ!!』

 ドンドンドンドン! ドンドンドン!

 爆音が止んだ後の医務室に、宅配員の怒鳴り声と激しい壁ドンが響く。千影は思わず

「さ、最近のピザ屋はパスタだけでなくクレーマーの配達まで始めたのか!?」

『パスタ届けてやったのにクレーマーとは何だ! この恩知らずが! いいから玲南を出せ! 一緒に婚姻届を出しに行くんだ! 早く出てこいッ!』

 宅配員が何を言ってるのかさっぱりわからない。玲南は衝立のところに立ったまま、宅配員に聞こえるような声で

「人とお話するなら、まず人間の言語をフルサポートしてからにしようね★ 文字化けしてて何を言ってるのかわからないよ、ヘンタイさん?」

『はー? 未来の旦那に対して、ヘンタイとは何だ!』

 壁を叩く音がさらに大きくなった。千影がベッドの中から窘める顔をする。ヘンタイの自己紹介は止まらない。

『前回のイベントで、オレと結婚してくれるって約束したよな、玲南! なのに何でそんな青二才のバイト野郎なんかと一緒にいるんだ! バイト野郎にたぶらかされたのか? そうなんだろ! そうだと言ってくrぎゃー』

 引きこもりが何年も籠城した部屋をバリケードごと重機で破壊したような音と、宅配員の断末魔がこだました。


To Be Continued>

定期的にアップできるようにがんばります。

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