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パンドラの箱 ~萌えるゴミ発電所と異世界怪奇録~  作者: くぁwせdrftgyゆとりlp
第三章 Crazy Gonna Crazy
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第三話 夏休みの課題(物理)(その3)

■その3


「は?」

 神父の意外な言葉に、一瞬千影は耳を疑う所作をした後

「それはありがとうございます。ではお帰りはあちらになりますので気をつけてお帰り下さい」

「まさかのぶぶ漬け返し!? 少年よ、それが困ってるキミにアドバイスしに来た人への礼儀か!!」

「うっせー! お前は親切したいなら街中で見知らぬ人の幸せ3分間祈ってろ!」

「自由課題が進んでいないのにそういう事を言ってる場合かね!? 課題仕上げられなかったら、もうバイトさせてもらえないのかもしれないだろ?」

「ま……まあ、確かにそうだけど」


 千影が夏休みにバイトするにあたり、親から出された条件は3つある。

●バイト代半額家計に入れる事。

●夏休みの課題をおろそかにしない。

●身体に気をつける。


 実は千影の両親が一番気にしているのは3番目「身体に気をつける」であった。バイトから帰るなり千影がぐったりしている日が多すぎた。家計を預かる立場としては家に納める金額が多いのは非常に助かるが、息子のアルバイトが時給相応の辛いもので、このままでは身体を壊してしまうのではと心配しはじめた両親が、家計に納める金額を半額から2割にする代わりに8月以降は課題を仕上げるため休みを増やしてもらいなさいと言い出したのだ。千影も留萌も元々そのつもりでいたが、両親達はできれば想力発電所ではない別のバイトをしてほしいと思っているのがひしひし伝わってきて、これでもしも夏休みの課題を落としたら今後は発電所でのバイトが禁止されてしまうと容易に想像がついた。

 尤も、千影と留萌がぐったりしているのはキツイ仕事が原因ではなく、発電所に潜む怪異との戦いに巻き込まれたから。ウドンケンジョウレイ結界に隠れて富嶽第一想発で暗躍していた若月なる異世界人も何処かへ去り、しんどい異変に巻き込まれることは今後はない……はず。万が一巻き込まれたとしても、千影達は玲南達に自衛手段を叩き込まれている。

 それに、発電所のバイトを辞めたら玲南や榛名達との接点もなくなってしまう。玲南とこうやって一緒に仕事をしたりフォースの修行をするのは千影にとっても楽しい時間なのだ。

 それは留萌も同じで、千影が悩んでいる間も淡々と自由課題の準備を進めている。


 例えば、死者の裁判ごっこをしていた新牢神父の隣で。

 留萌そっくりな影が持ち運んできた分厚い本を熱心に読み耽ったと思えば、まるで主とは赤の他人になったみたいに踊るような動きをしたりと、とにかく落ち着きがない動きを見せている。傍にいる神父には気になって仕方がないのか、少し鬱陶しそうな声で

「ところで……留萌くんの影は何をしてるのかい? ずいぶんノリノリだけど……」

「早く夏休みの課題やろうってうるさいから、課題の本を読ませてる」

「え、留萌は課題に読書感想文選んだの? あの?」

 そう言えば、留萌が何の課題を選んだのか。千影はまだ聞いていなかった事を思い出した。

「違うよ千影。研究課題になる本だよ。流石に読書感想文は選ばなかったさ」

「ど……どくしょかんそうぶんだってーッ!?」

 唐突に大きな声で叫ぶ玲南に、留萌と影がビクリとする。

「むぅ、玲南ちゃんは知っているのかね?」

「もちろんだよ神父さん!」



 毒所完走旻(どくしょかんそうぶん)。それははるか遠い昔、推しキャラの愛が描かれた書物を購入したうら若き乙女が自宅まで待ちきれず購入した書籍を歩きながら楽しみ始めたところ、気づかぬうちに自宅付近の底無し毒沼に嵌って絶命した故事に基づいて始められた過酷なスポーツである。背中に薪を担いだ参加者が、歩くとHPが1減る毒の湿地帯42.195㎞を完走するタイムを競う。競技があまりにも過酷すぎるゆえ、時代と共に舞台となるフィールドが変遷したのが特徴で、埃塗れの廃図書館に潜入し館内をうろつく悪霊をやり過ごして対象となる本を持ってくる、というものが現在最もポピュラーなルールである。

 なお、伝説で毒の沼に嵌り命を落とした女性が近年腐海と化した毒沼跡地からミイラとして発見されたが、これがきっかけでオタク趣味の女性をフジョシ、第三者を特定のディープな趣味に引きずり込む行為を「沼」と呼ぶようになったのは言うまでもない……――

(ミスター日本想電こと戸愚呂安芸津や、未田夜明至に並ぶ人物として知られる小笠原藤子麻呂(おがさわらふじこまろ)著『異世界過酷競技列伝』未冥書房刊から引用)



「何そのサドンデス必至な我慢大会は! 誰得状態じゃないか!」

「参加者はみんな栄誉を求めてるんだよ千影くん★」

「そんな栄誉いらねえよ! そもそも埃塗れの廃図書館に潜ったら、ハウスダストアレルギーとかダニ・カビアレルギーで酷い目にあうだろ!」

「うん、そんな毒と悪霊に満ちた場所に潜入し貴重な本を持ってくるから勇者として称えられるんだよ★」

「勇敢とはき違えた無謀はただの軽率だろ! ってか、これ普通に廃墟荒らして悪霊にとり憑かれる自業自得案件じゃねえか!」

「最近、日本毒所完走旻競技委員会がフィールドを別物にしようかって検討したそうだけど、結局却下したみたいだよ★」

「いや却下したのかよ! 委員会仕事しろ!」

「その時、代わりの競技場として提案されたのが、東京国際展示場だよ★」

「え?」

 なるほど、日本最大規模のイベント施設を毒沼扱いなんてできないという理由で却下されたのか。そう一人合点した千影だったが……どうして国際展示場を瘴気地帯にするなんて発想が出たのか。

「そこで購入した伝説のウス=異本を自宅まで持ち帰るんだって★ 周囲の視線に耐えながら電車の中でそことなくわいひーな本の観賞会」

「そりゃ却下されて当たり前な奴だーッ!」

 ツッコミに忙しい千影に、留萌は苦笑いしながら

「読書感想文だよ玲南ちゃん。本を読んで感想を書くんだ」

「え? 本を読んで感想を書くの? 毒沼とか溶岩地帯や超重力惑星で亀の甲羅を背負って本を歩き読みするんじゃなくて?」

 留萌から丁寧に説明され、ようやく読書感想文なる課題を理解した玲南だが、いつものニコニコ笑顔で全く腑に落ちないと言わんばかりに何回も聞き返した。千影が呆れ顔で

「そりゃ、学校の課題で歩きスマホ推奨みたいな事やれるわきゃねえだろ」

「……あの、千影くん? 玲南さん普通に思うんだけど、どんな課題するのか悩むなら、その読書感想文っていうのを選べばいいんじゃないかな? パッケソフラワーの観察日記よりもはるかに簡単だと思うよ?」

「それはダメだ! うちの学校は読書感想文がめっちゃ厳しい事で有名なんだ。SAN値がいくらあっても足りないくらいに!」

「……命じゃなくて、SAN値なんだ?」

「え、少年の通う学校って何かとんでもない書物の感想を書けって言うのかい?」

 どんな本を読めというのか、全く想像がつかない玲南と神父に、千影が告げる事実ははるか斜め上を行っていた。


「ああ。今年の課題図書は日本全国タウソペーヅだよ」


「「ゴメン、ちょっと千影くん(少年)が何言ってるのかわからない」」


To Be Continued>

次回から留萌の課題に入っていきます。

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