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パンドラの箱 ~萌えるゴミ発電所と異世界怪奇録~  作者: くぁwせdrftgyゆとりlp
第三章 Crazy Gonna Crazy
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第一話 夏休みの課題(物理)(その1)

世界は、水のように風のように美味で満ちているッ!

この本は身近にひそむ美味に気づく重要性を教えてくれる珠玉の一冊だ!


(未冥書房刊・オイシーモ・タベリュー著『異世界美食紀行』の帯に記載された異世界文化研究家・飯馬(はんば)天海(てんかい)の推薦文より)


2021年2/17 終わりの部分を変更修正しました。

■その1



「学校が始まる前に言っておくッ! オレは今全く理解を超えた体験をしているッ! あ……ありのまま、今起きている事を話すぜ!

『気がついたら既に夏休みが2週間も過ぎていた……』


な……何を言っているのかわからねーと思うが、オレにも全くわからねえ……頭がどうにかなりそうだった。催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなものでは断じてねえ。


どうして夏休みの課題が進まないんだよぉぉぉ!!」

「そりゃ宿題してないからなのさ」

 作業休憩中、黙って話を聞いていた大谷留萌は真顔で即答した。同じ職場でバイトする幼馴染の有東木千影がいつになく取り乱してどうしたのかと思ったが……

 千影は基本的に几帳面な性格で、おかしいと思うものにはツッコまずにはいられない気質だが、たまにこんな事があるのだ。何かの拍子で思考回路がバグったようなトンチンカンをして周囲を呆れさせる。すぐに再起動できればいつもの千影が戻ってくるのだが、それに失敗した場合バグが止まらず妄想を延々と垂れ流されるのもおやくそくだ。

「多分きっとこれは時間を飛ばすスタンドのせいなんですッ!! 奴のスタンド能力は『時を飛ばす』事ができるッ!!」

「奴の正体探ってる暇あるなら早く課題決めたら? そんな事言ってると、あっという間に9月になっちゃうよ?」

 恐ろしい真理を悟ってしまったと身体をわなわな震わせながら語る千影に、留萌は冷静に現実を突きつける。今日は8/5(月)、宿題を淡々と進めていけば9月までには余裕で間に合う日付だ。

「なあなあ、これやっぱり組織から追手差し向けられたりするのかな? 何人たりともボスの秘密を探る事は許さない、確実に消えてもらうとか言われて」

「……もしかして、進めてた課題がパーになったのさ?」

 何かを察した留萌が冷静に指摘する。

「課題を進めるのはいい。しかし! 待て留萌ッ! 何か、ただならぬ事がッ! 起こっているんだァーッ!!」

 どうしよう。さっきから千影から飛んでくる会話が全てビーンボール状態だ。現実逃避入っちゃってる辺り相当に重症らしい。

「ただならぬ事って何?」

「課題のレポートに、朝顔の観察日記をつけようと思ったんだ」

「何で?」

 小学生か。出そうになった言葉を、留萌は必死に呑み込んだ。ここは素直に話を聞くべきと思ったのだ。

「1日目。バイトから帰って来て、鉢植えに種を蒔いた。

2日目。野生の鳩がくるっぽーくるっぽーと種を一つ残らず食べていった。種を蒔き直した。

3日目。野生の鳩がくるっぽーくるっぽーと種を一つ残らず食べていった。種を蒔き直した。

4日目。野生の鳩が大群で押しかけて種を一つ残らず食べていったので種を蒔き直した。

5日目。家に帰ってきたら鉢植えに咲いたパッケソフラワーが、野生の鳩を返り討ちにしていた」

「え?」

 思わず留萌は耳を疑った。

「トカゲの赤ちゃんはカマキリの成虫に食べられるが、成長すると今度はカマキリを捕食する。パッケソフラワーも種の段階では鳩のごちそうだけど、花が咲くと鳥をごちそうにしてしまう。この恐ろしい自然の摂理を写真付きレポートにすれば観察日記よりももっといい課題になるんじゃね? と考えたんだが、ここで一つ大きな問題にぶち当たった」

「あー……そりゃ課題として絶対に通らないよね」

 それは、千影もOSがフリーズするわけだ。鳥を捕食する蜘蛛とか、昆虫を捕食する植物なら話はまだ分かるけれど、土管から配管工のお尻に噛みつく植物が鳥を食べるレポートなんて荒唐無稽すぎて教師達が認めてくれるはずがない。

 それに、千影が言うパッケソフラワーが発芽した5日目とは確か、千影が神話級パラノーマルと呼ばれる異世界の邪神に呪われた日だ。2人が夏休みに始めたアルバイトが『ゴミ箱が妊娠する』『ネットでの炎上祭りで当事者が焼死する』といった怪異が頻発するという想力発電所で、バイト開始前は根も葉もないただの噂だと思っていたが……まさか2人とも無自覚なままフォーサーと呼ばれる超能力者になってしまったり、家の鉢植えに発芽した未知の怪奇植物が動物を食べたとか、普通の人に説明しても絶対に理解してもらえない!

「いや問題はそこじゃないんだ」

「え?」

「パッケソフラワーが鳥をムシャムシャ食べる写真にもグロ注意とかつけないとまずいのかなって。あるいはモザイクかけたり、伏せたり。でもそうしたらレポートの意味なくなっちゃわない?」

「想像以上にしょうもない事で悩んでる!」

「もちろんそれだけじゃないぞ。まだ続きがある……

6日目。増殖したパッケソフラワーをウマシカもどきが食べに来て過酷な命のやり取り。

7日目。パッケソフラワーが自衛手段としてファイアーボールを吐く能力を獲得。ウマシカもどき相手に一戦やらかして危うく火事になりかけた……」

「植物観察が怪獣映画の感想ブログになっちゃってるのさ!?」

「ああ、全くだ。流石にこれは課題にできないって事で諦めた。おかげで振出しに戻っちゃったよ」

 死んだ魚みたいな目で語る千影。課題進捗状況は想像以上に深刻なようだ。


「話は聞かせてもらったよ★ 人類は滅亡する!」

 事務室の扉が勢いよく開け放たれ、中に入ってきた女の子がおやくそくのセリフを口にする。異世界でもそのセリフとAAは共通なんですね……と苦笑する留萌の前で、千影は現れた理解者に大喜びして

「やっぱりそうだよな! 謎の組織が時間と一緒にオレの課題レポートまですっ飛したんだよな! このままではオレの時間も全て泥棒されて、変な薬を飲まされて子供にされちゃうんだよな!」

 その陰謀論丸出しな結論はどこから出た?

「千影くん途中から別のモノが混じってるよ? 時間泥棒はともかく、薬飲まされて28年近く小学生やってる少年探偵なんて非実在ですよ?」

「って、時間泥棒は実在するのかよ!」

 あ、千影がツッコミにまわった。どうやらOSが再起動したらしい。ニコニコ笑顔で事務室に入ってきた茶髪セミロングの美少女・関之沢玲南もそれを察せたようだ。

「だって、玲南さんもウマシカについての文献や資料探してる間に、気がついたら読んだ事のない小説とか童話読みふけってしまって時間だけが経過してて、多分これは時間泥棒に時間を盗まれてるんだよ★」

「「あー、あるある……」」

 ちなみにウマシカとは『馬のようで馬でなく、鹿のようで鹿でない見た目で、肉はワックスのかかったモップみたいな味がして食べた人はお腹を壊し、しかも食肉加工されたお肉が捕食者を逆襲して捕食する』という謎の動物である。玲南曰く『千影達が住んでいる世界に生息する謎の動物』らしいが、食物連鎖ヒエラルキーを逆転させられる謎の化け物など千影達には完全に初耳だった。

 玲南は二次元が服着て歩いているような、リアリティが迷子な外見の少女である。相伝蜃奇録と呼ばれる超人気コンテンツの元になった異世界から、千影達がバイトする富嶽第一想発で起きている怪奇現象を解決するためにやって来た、いわば異世界人なのだ。アニメやゲームそのまま、誰もが見とれるような非現実的な美貌だけれど、温もりや気配はあるし彼女に触る事もできる。

「それじゃあ困るんだよねー★ 玲南さんだって夏休みの課題仕上げないといけないし」

「「え? 夏休みの課題?」」

 千影達は目を丸くする。

「そーだよ★ 玲南さんや榛名ちゃんも課題があるんだよ。ちなみに榛名ちゃんは異世界におけるソーシャルゲームの乱数やコードから、課金ガチャにおける物欲スカウターをごまかす理論をまとめています★」

「「え、それマジで知りたい!!」」

 ガチャの気まぐれに何回も泣かされた千影と留萌が揃って榛名の研究に食いついた!

「で、千影くん達の世界にやって来た玲南さんとしましては、この世界に住まう動物や進化の歴史についてまとめようと思ったのだ★ ウマシカを取り上げればインパクト大でしょ」

「そりゃインパクトでっかいわ!」

「でも千影くんも留萌くんもウマシカを知らないって言うし★ もしかして玲南さんにイジワルしてるのかな?」

「知らないものは知らねえ!」

「零比都ちゃんや虎野さんや木南さんもウマシカそのものは見た事ないって言うし、乙骨先生も実態は知らないって言うんだよね」

「そもそもそんな生き物非実在じゃねえの?」

 江戸時代以前からの生き字引と言われる乙骨先生も知らない存在を千影達が知っているはずがない。

「で、とりあえず生物図鑑を片っ端からあさってみようと思い、図鑑を借りてきました。場合によっては研究内容を変更する可能性も考えて、その他の書籍も借りてきました★」

「って、あの台車に乗ってるの全部図鑑かよ!!」

 玲南が入ってきた事務室入り口には、見るからに立派な装丁が施された図鑑を満載した台車が停まっている。重たくて台車を使っても運ぶのが大変そうな図鑑が。人を物理的に撲殺できそうな本が、それこそ何十冊も!

「すごいなあ。昆虫図鑑に魚類図鑑、爬虫類図鑑も恐竜図鑑も……」

「今時ここまで立派な図鑑、本屋さんでも売ってないだろ……ん?」

 ずっしりと重たい図鑑を手にした千影と留萌の目に、本のタイトルが目に映る。


『未冥書房刊・新約異世界昆虫図鑑』

『未冥書房刊・新約爬虫類図鑑』


 玲南が借りてきた本全部に記載された未冥書房の名前。

『大丈夫? 未冥書房の本だけど……』でお馴染みの……


To Be Continued>

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