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パンドラの箱 ~萌えるゴミ発電所と異世界怪奇録~  作者: くぁwせdrftgyゆとりlp
第一章 Boy Meets Girl
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第八話 なにか、いる!

■その8



 どうせ夢なんだから最後まで良い展開で終わってほしかった。夢の最後があまりにもしょうもなさ過ぎて、千影は目を覚ました後ベッドでしばし絶望感に打ちひしがれていた。

 更衣室で倒れていた千影が医務室のベッドで目を覚ましたのは午後5時半。1時間以上は眠っていた計算になる。仕事で疲れすぎて眠ってしまったのだろうと木南に説明されたが、夢で筋肉ナース相手に大暴れした後で休んだ気は全くしなかったし、丹羽に全裸で体当りされ紙っぺらのように吹っ飛ばされて壁に大規模に激突したせいで気分は最悪の一言である。

「まあ、今日は大変だったからねえ。1日にここまで色々あるなんて久しぶりだ」

 顔色の悪い勤務医も異例と認める忙しさだったようだ。流石にニート達が死神に取り憑かれて冥界の住人になった事や、プラットホームの筋肉祭りが異例じゃなかったらどうしようかと思ったが、むしろそれらが実際の出来事と言われて千影は本気で神を信じられなくなっていた。

「迎えが来るまで休んでるといいよ」

「ありがとうございます」

 千影がお礼を言うと、木南はベッド周りのカーテンを閉じた。正直眠くはなかったが、頭痛と吐き気が酷くて頭がクラクラする。何故こんなに気分が悪いのか原因がわからない。

 とにかく休めば少しは気分も良くなると思い、千影は布団に入って目を閉じ体と頭を休ませようとするが、どうやら寝すぎなのか全く眠れない。目を閉じていても医務室の景色が網膜に焼きついたように頭から離れないどころか、周囲の様子を完全に把握できるような感覚さえある。

 医務室にある全てのものが、眠れない千影を中心にぐるぐる渦巻いて、何かを囁いてくる。


『大丈夫かー?』

『仕事ほっぽって二次元に遊びに行った有東木くん、クビは大丈夫ですかー?』

『二次元で女とちちくりあいやがって……』


 人が弱っている時にあざ笑いやがって! あまりにも勝手な囁きに耐えられずに目を開けてしまった千影は、今までと比べ物にならない激しい目眩と吐き気に襲われた。

 目に映る全てが絶妙におかしい。医薬品の棚や机までの距離が全くつかめない。天井や床の模様が無限に広がっているように見える。まるでトリックアートの中にいるみたいだ。というよりも、自分がトリックアートの絵に紛れ込んでしまったと言った方が正しいかもしれない。

 千影が目を開けた途端、空調の音も、機械の音も、外から聞こえるはずのセミの鳴き声も。嘲笑う声も、全て聞こえなくなっていた。

 完全な無音。

 千影が知っている世界はこの異様な空間に全て食い潰された。この世界にいるのは……自分一人だけ?


『いいや、お前一人じゃないよ』

『お前一人じゃないよヒトリジャナイヨヒトリジャナイヨ』

『『ヒトリジャナイヨヒトリジャナイヨ……』』


 何かが、いる!

 突如として現れた得体の知れないナニカ。人智の及ばない存在が濁流のように千影の元へ押し寄せて来る。

「……っ!」

 木南の名前を呼ぼうとしたが声が出ない。動悸が更に激しくなり、何とか立ち上がろうとするが床に勢い良く倒れこんでしまった。三半規管が断末魔を上げている。平衡感覚も全く働かない。

 早く逃げないと、早く逃げないと。

 でもどこへ? 逃げるってどこへ?


『そもそも、逃げられると思ったか? レイナトイチャツクオマエハシケイダシケイダ』



「※-々♪×∞?」

 ここではないどこかへ逃げようと床でのたうち回っていた千影。最初はそれが物音なのか人の声なのか動物の鳴き声なのか判断もつかなかったが、どうやら人の声らしい。気分の悪さと頭痛のせいで何を言ってるのかさっぱりわからないが。

「∀♂⇔仝÷∞?」

 千影の口の中に、何かが押し込まれるのを感じた。

 大きさや感触からすると飴玉のようだ。その飴玉のものと思われる、この世のありとあらゆる不味さが劇物になるまで熟成された危険な味わいが口の中に速やかに広がっていく。彼を苦しめていた頭痛や目眩、吐き気の飽和攻撃が、苦くて酸っぱくて薬臭い、カビや微生物の餌食にされた古い果物や肉類の嫌な味で上書きされた。


「ごはぁっ!?」


 わけもわからないまま飴玉を舐めさせられた千影は、今度は飴玉のあまりの不味さに悶絶し、むせ返って激しく咳き込んだ。

「うん、よしよし。もう大丈夫だよ★」

 どうやら、今千影の背中をさすってくれている声の主が毒を呑ませた本人らしい。優しそうな女の子の声だが、こんな劇物を呑ませてくれた事は万死に値する。

「何すんだよ!」

「酔い止めの飴だよ★」

 そう言われて、千影はそれまでの訳のわからない気持ち悪さが完全に失せている事に気づいた。周囲を見回すと、吐き気を催すような視界の歪みが消え失せ、見慣れた医務室の景色が広がっている。千影を押し流そうとしたナニカも、その痕跡が全く見当たらない。

 しかしどこかがおかしい。見える景色が微妙に嘘臭いのはそのままだ。

 この違和感は一体? そんな疑問を抱いた千影が隣りにいる少女を見る。

 また夢かと思った。

「具合はいかが?」

「……劇物飲まされた以外、異常ないけど」

 夢で玲南と会うのは本日3回目だ。想伝蜃奇録では玲南が推しである千影には嬉しい話だが、もしかして自分はそんなに疲れているのか、本気で不安になってくる。

「しょうがないでしょ。今、千影くん本当に危ないところだったんだから」

「危ないところ?」

「玲南、もうじき来るよ! 早く!」

 千影が疑問を口にすると、玲南ではない別の少女による強い口調が飛んできた。もうじき来るって、何が?

「千影くんは気にしないで大丈夫だよ★ 今日はちょっと千影くん怪我しすぎちゃったし、午後8時になるまでここでのんびり寝てようね★ 午後8時になったら帰れるし、その時間まで残業手当もつくそうです★」

 寝てるだけで残業手当がもらえるなんて気前が良すぎる話だ。まあ、夢なのだが。

「あの、もう十分眠ったし、あまり眠くないから大丈夫だよ」

「酷い怪我の応急手当が済んだばかりだから絶対安静★」

「怪我?」

「無職っぽい全裸の中年男に真正面からはねとばされたでしょ」

「そんな忌まわしい記憶一刻も早く忘れたいです!」

 ヨミガエルイマワシキキヲク! 丹羽に撥ねとばされた千影の身体は空中で激しくスピンしながら壁に激突したのだ。痛みで死ぬかと思った。夢なのに!

「千影くん死んじゃうかと思った。治療大変だったんだよ。まさか、千影くんがフォーサーとしての修行全くやってない人だったなんて思わなかったし」

「……そんなにひどかったの? オレの怪我」

 ちらりと脇を見た玲南につられて千影も同じ方向に顔を向けた。衝立と衝立の間から見えた、血まみれになった包帯やガーゼの山……はともかく、周囲に散乱する危険そうな医薬品は何に使ったのか!

「ずいぶん怪しい薬があるけど、何に使ったんだよ……」

「『高齢化社会の救世主! ゾンビをも生き返らせる!』気つけ薬に使える究極のプロテインだって」

「プロテインがエリクサーになるなんて怪しい話、初めて聞いたわ!」

「うん、千影くんがそれだけ元気になったのもプロテインの気つけ効果だね★」

「筋肉ナースみたいな事言うなーッ!」

「それだけ元気なら、怪我の痛みは大丈夫だね★ だけど念の為、これから2時間は寝てようね★」

「おかげで眠気全くなくなってしまったわ!」

「じゃあ、玲南さんが子守唄歌ってあげよっか★」

 そこまでして玲南は千影を眠らせたいのか。どうせ夢なのに。

「寝てないとダメなの?」

「……寝てた方が良いと思うよ?」

 何でまた、という千影の質問を遮るように、窓ガラスをコツコツ叩くような音が鳴った。

 風の音ではない。

『有東木千影さん、いるんでしょ』

 夕日を遮るように締め切られた、窓側の衝立に浮かび上がる人影。一体誰だろうと思った千影だが、ある恐ろしい事に気づく。

 富嶽第一想発の医務室は3階にある。そして外にはベランダはない。


『千影くん、見舞いに来たぞ。早く窓を開けてくれないかな』

 窓の外から呼びかけてくる優しげ声。しかし、千影はその声に嫌なものを感じずにいられなかった。




To Be Continued>

ちょっとだけ復活しました。

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