第三十八話 SILLY GO HAPPY!
2026/2/22 大規模修正
■その38
木南の宣告と凪橋の予想は現実となった。元々警察はRATTの行いをマークしていて、凪橋達が想電職員を脅迫して退職届を書かせた件で、ついに主要メンバーの一斉逮捕に踏み切った。
RATTのシンパはこれに反発して国家権力の暴走とか不当逮捕だと炎上祭りを起こし、逮捕に反対して政府与党本部前や国会議事堂前で連日どんちゃん騒ぎを繰り広げたが、取り調べによってRATTが行った数々の外道が発覚するとマスコミや知識人は一転してバッシングを始めた。それと同時期に与党議員の汚職が明らかになると、不当逮捕反対デモはいつの間にか汚職議員と総理は辞めろデモに変わり、この騒動は完全に忘れられた……――
■
一年前に彼らが逮捕された時、千影と留萌は中学生だったけれど、国会前で起きた大騒ぎに
『汚職議員辞任デモをする前に、悪さをした仲間を叱るのが先じゃないの?』と思ったものだ。
過激な反想発派が壊滅した裏に、こんな経緯があったなんて2人とも知らなかった。
あの凪橋という人物は小さい頃から自分の思考が常識と乖離している自覚がなかったのだろう。自身の意思決定に何ら迷いも疑いもなく行動に移す社会人となってしまった。虎野と木南から執拗に追及されたが、彼は果たして自分の行動が世に言われるストーカー行為と理解し、反省したようにはとても思えない。
「あの……これ全部マジなの……?」
「……この映像は、ウドンケンジョウレイ結界の残留思念を解析して映像化したモノだから、紛れもない事実のハズ……なんだけど」
「おいちょっと待て、分析結果を映像にしたのお前だろ!」
「解析量が膨大すぎて、途中から解析だけ私がやって、映像構成は全部SILLYに丸投げしたから内容全部チェックしてないのだよ」
『優秀なAIである私・SILLYが、自信を持ってお勧めできる証拠映像に編集しました。途中から解析作業も丸投げされましたので解析も行いました』
つまり、解析もめんどくさくなってSILLYに全部任せたのか。
「だから『自信をもってお勧めできる』ように編集したら証拠の意味ないって、さっきも神父に言われただろ!」
『え、いつですか?』
「良識に基づいて検閲して怒られただろ!」
『え、検閲と編集は同じ意味だったのですか!?』
千影の指摘にトンチンカンな応答をするSILLYに神父は本気で頭を抱えた。AIの優秀さが迷子なのは作り手そっくりだと誰も指摘しなかったのは彼らの良識によるものでしょう。
その隣で、留萌と榛名は義務教育が完全敗北した罪深き存在に本気で恐れをなしていた。
「ひぃぃぃ! 話が通じないストーカー怖い怖い怖いぃぃ!!」
「すげー。昔からあんな風に息を吸うように周りを罵倒してたのか」
「そーだね★ 結界の中でも玲南さん相手にそうだったでしょ★」
玲南の隙を突いて殴る蹴る、ブス呼ばわりとやりたい放題、何様だと言いたくなる振る舞いには千影も怒り心頭だったが、今は進めないといけない重要な話題がある。
「んで、結界の中にいた凪橋についてだけど……やっぱり本人だよな」
「事実に基づいた残留思念がここまで明確に検出できたわけだから、キミ達を襲ったパラノーマル達が凪橋とは赤の他人である可能性は消えたな。アレは凪橋を捕食したパラノーマルとか、あるいはパラノーマルに寄生された凪橋本人の成れの果て……ってところかな」
新牢神父は仰向け状態のまま話す。千影にシバキ倒されたダメージが術者以上に深刻だったようだ。
「思ったんだけどさ、凪橋がフォーサーだった可能性はないのぜ? 零比都さんからギフトを授かったとか、何か目覚めかけてるふしがあるけど」
「もちろん調べたんだけどフォーサーではなかったね。頭が気の毒すぎて自分が全知全能だと思い込んだ人っていうか。だが、今もしかしたら……の場合もある」
だから虎野は木南に凪橋の所在について確認を入れたのだ。日本想電はその可能性さえも調査済みだった。ただ、それはあくまでも『逮捕された時点』の話だ。現在もそうなのかはわからない。
「ねえねえ虎野さん、まだ零比都ちゃんから連絡ないの?」
「あぁ、もう何回も呼びかけてるけど、まだ応答がないね。どうしたの?」
玲南が本気で心配そうな顔をするなんて珍しい。それも、大好きなお姉ちゃんの件で。
「私、零比都ちゃん探しに行こうと思うんだ」
「それはいいけれど、どうしたの?」
「凪橋に関するパラノーマルは退治されたけれど、どうも嫌な予感がする。今度は零比都ちゃんに何か起きそうで」
これ以上何か起きるのは勘弁して下さい。その矢先に、クリームパンを頬張っていた留萌が何かに気づいた。
「というか、まだ映像続いてるよ……これは留置場かな?」
それはSILLYが分析した、残留思念の映像だった。警察官立ち合いの下、凪橋が誰かと会っている……凪橋が逮捕された、その後か?
面会人の声が響く。若い男の声だ。
「凪橋くん、アナタは愛と正義に生きる闘士だったはずですよ。まさか堕落してリアル女性に熱を上げるとは……」
声が聞こえた途端、虎野が操作画面をガン見する。どうしたのかと驚く千影達だが、そんな彼らも次の瞬間操作コンソールに視線が釘付けになる。
「かつてのアナタは萌え人面土器の研究と、少数派である土器マニアがメジャーになれるよう頑張る決意を訴えてくれました。少数派の想いを秘めた崇高さに私は心を打たれました。しかし今、私はアナタに裏切られた気分です。あんな二次元女に惚れ込んでしまうとは……想力発電所を全て破壊する使命はどうしたのですか?」
耳を疑うような言葉が聞こえた。今、喋っているのは何者だ?
残念ながら、操作画面にその姿かたち全ては映っていない。見えるのは面会人の口元と……恐慌状態に陥ったように面会席でガタガタ震える凪橋の姿だ。まるで肉食獣に狙われた、産まれたての草食動物さながらの無力さである。
しばらくすると面会人の姿がはっきりと見えてきた。凪橋を教え諭すのは、黒髪オールバックにした細い目をした男だ。彼の口からは全く別の言葉が、教え諭す声に被せられて発せられている。
立ち会っている警察官も特に変わった様子はない。おそらく、教え諭す方の声しか聞こえていないのだろう。
「たまたま街中で出会った二次元女に運命を感じるとか、アナタは脳みそに、ウジでも湧いたのですか。つまらない真似をしてくれましたね。ねぇ、お前のせいで仲間達が一網打尽になっちゃったよ。どう落とし前をつけてくれんのさ? 納得できるように説明してくれないかなあ?」
面会人の本音は凪橋を諭す声ではなく、静かに恫喝する声の方だ。
千影と留萌もすぐに気づいた。
To Be Continued>
次回
「もしもし、私メリー。今、あなたの後ろにいるの」




