第三十五話 もしもし、私メリー。今、駅前にいるの。
2026/2/16 修正
■RATT
かつて存在した想力技術に反対する市民団体。名前の由来はRage Against ThoughtTechnology、すなわち『想力技術への人々の怒り』。
想力発電全廃を訴え、主に発電所や研究機関近隣、国会議事堂でデモを行っていたが、抗議デモがエスカレートして暴動に発展したり、日本想電職員を待ち伏せして説伏(物理)活動や、住居近隣で職員の経歴に関する褒め殺しを行うなど反想力団体の中でも特に過激な一派として知られていた。
そんな集団であるが、結成当初は
●アンティーク人形や年代物のオモチャを収集する愛好家
●一般には理解されないモノを収集する好事家
●小さい頃、大切なものを捨てられたトラウマから立ち直れない人達
といった、『思い出の詰まった品々を、発電の燃料として積極的に回収するのはいい気がしない』と主張する穏健派で、趣味がバラバラな者達が緩やかに連帯し手弁当で活動していたため世間からまるで注目されなかった。過激な反対派に注目され運動のノウハウを伝授された彼らがマスコミに取り上げられ有名になった結果、暴力を辞さない組織へと変貌。モノを大切にしたいという思いから想力発電に反対する古参の活動員が一気に離反する事態を招いた。
そして(千影達がアルバイトを始める1年前に)構成員がストーカー行為で逮捕された事をきっかけに、構成員の不祥事が次々に発覚し主要人物が一斉に逮捕され組織が崩壊(過激な反対派からレクチャーされた資金作りや組織拡大戦術に違法なものがあり、あまりにも悪質だったため一網打尽にされた)『モノを大切にしよう』という観点から反対する人達の主張が埋もれていく、皮肉な結末を迎えた。
(戸愚呂安芸津著『炎上祭りが日本のエネルギーを救う』未冥書房刊より引用 カッコ内は補足)
■その35
行きつけのスーパーで零比都との運命の出会いを果たした変質者は、法律や道徳を突き抜ける自らのヘンタイ行動を強引な理屈で正当化して警察へ連行され、事務所における器物破損や迷惑行為、零比都への迷惑行為について取り調べを受けたが、何と警察でも大暴れして、ついに逮捕されてしまった。スーパーからは入店禁止を言い渡されただけでなく、お店の備品を壊した件で、零比都も初対面の凪橋から受けた変質行為で被害届を提出しており、彼女と凪橋は今後二度とエンカウントしない……と思われた。
それなのに。
凪橋に迫られたトラウマは、一日休養したくらいではどうにもならなかった。
「あの、零比都ちゃんどうしたの? 大丈夫?」
乙骨先生のお使いで富嶽第一想発にやって来た玲南は、久々に会う零比都の疲れ切った顔を見て、ただならぬことが起きているのではと心配そうに話しかける。
「心配かけてごめんねー。ちょっと色々あって」
目の下にできたクマが半端ない。流石は想伝蜃奇録最強の物理攻撃キャラ、そのクマは人を撲殺できそうなほど大きい。意外にも零比都は怖がりだ。物理攻撃で倒せない幽霊やしつこいクレーマーは特に苦手なのだ。
もちろん、変質者も。
『ポーポーポー、ピーヒョロロロ、ピーガガガガ……』
唐突に、管理棟事務室に響く機械音。零比都がギクリとする。
「何これ。大量のFAXが来たけれど」
FAXから吐き出された大量の紙を拾おうとする玲南を、零比都が慌てて止めようとするが間に合わない。
玲南は見てしまった。
【好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好きスキ好き好き好き好き好き好き好き好き好きスキ好き好き好き好き好き好き好き好き好き好きスキ好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好きスキ好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好きスキ好き好き好き】
「ひぃぃぃっ!」
大量の怪文書が吹雪が如く舞う事務室で、本気で錯乱する零比都の姿を。
「……零比都ちゃん、写経の趣味がある人と知り合ったの?」
「そんな人知らないよぅ! お経なんてありがたいモノじゃなくって、普通に怪文書だよ!」
「まあ、フィッシングサイトで勝手にダウンロードされちゃうような怪しいお経だけど……」
「お経じゃなくてメダパニかパルプンテだよぅ!」
再びFAXが周囲に紙を吐き散らかす。
【ねえ、その女の子は誰? そんな友達がいたんだ。オレにも挨拶させてよ】
2人は同時に事務室から飛び出して外を確認する。不審な人物は見当たらない。玲南は五線譜ワイヤーで周囲の音や気配も調べたが、自分達から遠ざかる物音も気配も感知できない。
そうなると、隠しカメラか? 事務室に戻った2人は、また新しい内容のFAXを見る。
【お友達さん、何か彼女悩んでるみたいなんだ。相談に乗ってあげてよ。オレは今警察につき纏われて忙しくて、遠く離れた場所から彼女見守るしかできなくてね……】
お 前 が 見 守 っ て い る 事 が 悩 み の 原 因 だ ろ 。
あ、こいつは関わりを持ったら本当にヤバい奴だ。
玲南は送られてくるFAXはスルーする事に決めた。
「零比都ちゃん、変質者に心当たりはないの?」
【そうか、キミの名前はレヒトって言うのか】
「心当たり? すっごくあるよ! でも、あの変質者は今も警察に捕まってて取り調べられてるはずだし……」
【なななな何だってーッ! 変質者につき纏われているのか! 国家権力は何をやってるんだ!! このオレを公務執行妨害で取り調べる暇があるなら、まずは不審者の取り締まりをしろよ!!】
い や 不 審 者 お 前 だ ろ 。
いえいえそんな事口にはしてないよ? 零比都が既に涙目状態なのはお前が原因だろ、とか。
そんな事を玲南が口にしたら最後、何が起きるやら。
零比都は玲南に数日前の出来事を話し始める。出会った不審者が凪橋であると強調するように。
「というわけで、その不審者は公務執行妨害その他の罪がついて今も取り調べ受けてるはずなんだけど、気のせいかな……私がおうちに帰る途中も誰かに尾行されてる気がするし、例のスーパーに入るとその気配がなくなるんだけど、お店の外ではいつも警備員さん達が大騒ぎしてて。『また来やがったか、出禁だって言っただろうが!』とか」
「いやいや、メダパニ写経送り付けてるの、どう考えてもその超ド級ストーカーでしょ★」
【全くだ! ストーカーなんて最低だな!! レヒトが嫌がってるのわからないのか! どんな奴なんだろうな!】
一 回 自 分 の 顔 を 鏡 で 見 て み た ら ★
口から出そうになったツッコミを、玲南は顔色一つ変えず必死に呑み込んだ。
自分を客観視できないストーカー野郎、これからどうしようかと考えながら。
To Be Continued>
第一章第七話で、玲南が千影のバイト先である富嶽第一想発を知っていたのはこういう経緯があったのです。




