第三十三話 ウィルスと抗体
2026/2/15 大規模修正
■その33
玲南の指摘に、榛名は何を言ってるんだといった調子で
「は? 玲南がそんな事言い出したら、そもそも話の前提が違ってくるんだが? 玲南から見ても、アレは凪橋って野郎だったのぜ?」
「確かに見た感じや雰囲気はそうだったね。でも、アレが本当に凪橋なのか、玲南さん確認してないんだよね……正直言って、あんな嫌なヤツ触りたくなかったし★ あー、乙骨先生に怒られちゃうな」
「だけど、結界に残ってた残留思念から凪橋の経歴が割り出せたんだろ」
「そうなると、結界の駆除機能に襲われた、あの男は凪橋本人じゃないって事になるよね」
確かに、玲南の言う通りだ。
「……喰われたって事か?」
「それもあると思う」
2人の口から飛び出した物騒な内容に、千影と留萌がギクリとする。2人とも想伝蜃奇録の読者であるから、勿論知っている話なのだが、現実として突きつけられると……
「有東木君や大谷君は、パラノーマルが何であるかは知ってるよね?」
「まあ、想伝蜃奇録で語られた内容や、玲南から教えられた内容は」
虎野の問いに千影は即答するが、留萌は首を傾げた様子で明確な回答をしなかった。多分、詳しい事を榛名は教えていないのだろう。
「……神父さん、大谷君に説明できます?」
『結界操作の片手間で良ければ』
虎野の注文に神父は頷いて説明を始める。
『パラノーマルは、神が天地を創造したとされるはるか遠い昔から存在した影のようなもの。実体を持った虚数の塊のようなものだ』
「虚数の塊なのに実体を持てるのかよ」
数学嫌いの常套句みたいな言葉だった。ちなみに発言者の千影は数学はかなり得意な方だ。
『原子や分子の運動を分析するには複素数の計算が必須だぞ。宇宙を分子レベルで見ていくと虚数とか複素数の概念が出てくる。つまり、実数の影に虚数ありだ。で、そうした実体の影にあたる虚数が塊となってマガイモノとなり、何らかの理由で実体とか力を持ってしまったモノがパラノーマルになる』
千影は神話級パラノーマルの呪いで大量のマガイモノに群がられた事を思い出した。
『実体を持てたとしても、虚数から産まれた存在だ。ほっとけばすぐに消滅してしまう。だから彼らはチカラをつけて、何とかこの世に存在し続けようとする。他のパラノーマルを捕食したり、あるいは人間にとり憑いたり、寄生したり』
「……寄生?」
『そう、寄生』
聞き咎めた千影に、神父がニヤリと笑ったような気がした。もちろん、胡散臭い笑顔の仮面に隠された素顔の方である。
『パラノーマルに力を与えるモノ、それは人間のココロだ。人は死んでも、この世界に何らかの影響を遺していく。発明家は発明品を、学者は研究成果を、芸術家は作品を、といった具合に。普通の人も、残された人達の中に生き続けるだろう。そうしたココロのチカラを吸いあげる目的で人間にとり憑くんだ。パラノーマルは宿主のココロを吸いつくし、宿主から萌えを失わせ最後は生きる屍に変えたり、宿主の精神を狂わせて宿主を新たなパラノーマルに変えてしまう。そうして産み出されたパラノーマルは産みの親に捕食され、その栄養にされる……って、どうしたんだね少年、それに留萌くん?』
説明の途中で、千影と留萌が絶賛ドン引き状態な事に気づき神父が声をかけた。
『パラノーマルの生態は想伝蜃奇録でも語られてただろ。あの物語が異世界で起こった事実をもとにしてるのは知ってるよね? どうしてそんなに引いてるのか?』
「寄生されるとか、人間を食べるとかドン引きに決まってるだろぉ!!」
想伝蜃奇録がノンフィクションなのは知っていたけれど。パラノーマルが宿主を発狂させるなんて、現実であってほしくなかった。大人しい性格の留萌なんて既に涙目で、榛名達や虎野が必死に慰めている状況だ。
『まあ、昔は人間の体内に寄生虫がいただろ。それと同じだよ』
「何の慰めにもなってないわ!」
人間を異空間に引きずり込むパラノーマルとか、危険度の桁が三桁は違う!
『話はちゃんと聞きなさい少年。寄生虫、病原菌、ウィルス。それらに対抗する手段があるだろ。想伝蜃奇録が実話なんだから、パラノーマルに対抗する手段も人類が獲得しているのは知ってるはずだ』
「……フォースか?」
『御名答。パラノーマルが侵入できない無菌室としてウドンケンジョウレイ結界が産まれた。その技術を応用して、萌えの力をエネルギー化させる想力発電ができた。パラノーマルに対抗する抗体を獲得した人間がフォーサーだ』
「だから呪いが解けてもフォースはなくならなかったのか……」
合点が言ったように千影が呟く。神話級パラノーマルの呪いが解けた後も、千影はフォースの力を失わなかった。フォースがパラノーマルに対する抗体だと説明されれば納得がいく。獲得した抗体は簡単には消えないからだ。
『つまり、キミ達がフォースをうまく使いこなせれば、パラノーマルに捕食されたり寄生される危険は減るわけだ。キミ達が錯乱する可能性もないだろう。まあ、中には凪橋みたいにトチ狂う前と後で大して変わらない人もいるけれどな』
「何気に故人disってねえか」
『ああ、これは失礼。どんな悪人でも死後は許されてしばきに会う』
「結局許されてないじゃん! ってか、生前のお前本当どこの宗教に関わってたんだよ!」
『ボエボエボエボエ……』
『何か忘れてしまったみたいだけど、これがうちの御神体だよ』
あ。捕獲した後、こいつらの存在すっかり忘れていた。
「やっぱお前、世界中の宗教に謝れ」
『なっ、何故に! 理不尽だぞ少年! イワシの頭も信心というではないか!』
「じゃあ、お前の御本尊はイワシかあああ!!」
『ヒトの頭をイワシみたいに言うのやめてもらおうかぁっ!』
「今の言葉をそうとらえる辺り、日本語通じないイワシみたいなもんじゃねえか!!」
『わたしがいこくじーん、にほんごわかりませーん』
「わかってんじゃねえかよ!」
こうしていつもの言い争いを始めたこの2人は、お互いの怒鳴り声で受けたダメージでひっくり返り、中央制御室で仲良く玲南に手当てされた結果、頭部に包帯が巻かれてない部分がなくなってしまいました。
「はい、玲南さんに手当てしてもらった費用・にーきゅっぱ★」
「え、お金取るの?」
画面から出て治療を受けた神父も、強気な価格設定に呆然とする。
「普通ならお金は取りませんが、今のは2人が反省せず自爆したんですから医療費請求は当然でーす★ というわけで千影くんと神父さんは治療費298,000円、耳を揃えてお支払いくださーい★」
「「高い!」」
にーきゅっぱで298,000円を提示する超ボッタクリ価格設定に千影と神父が戦慄する。
「どこの無免許医師だよ!」
「どんな危険な施術も確実にこなすのでお高いのです★」
「あー、高いって言うなら、あたしがもっと安く治療してやってもいいけどな」
「え、本当かい榛名ちゃん!」
安く手当てするという榛名の言葉に飛びつく神父だが
「ただし魔法は尻から出る」
「ゴメンナサイ玲南ちゃんの手当てでいいです。ってか、凪橋についての説明がまだだったな、少年!」
「あ、ああ、そうだったね。早く説明お願い!」
ここで話題を変えないと、おかしな治療を受けて尻から魔法が出るようにされてしまう! 人としての尊厳を失うより、玲南に凄まれる方がまだマシだ。
「キミ達を襲った凪橋について、考えられる可能性を上げていく。
『凪橋に寄生したパラノーマルが、凪橋に成りすましていた』
HEY、SILLY!! 残留思念の解析結果、続きを映してくれないか」
『わかりました。只今より凪橋の残留思念から分析された映像を再生します』
神父に呼びかけに答えるような声がどこからともなく聞こえてきた。神父が使うAIみたいなものらしい。
しかし、SILLYなんて名前AIにつけるか普通。相変わらずふざけたセンスだ。
To Be Continued>




