第三十二話 青空は青く、血の色は赤い。
2026/2/12 大規模修正
■その32
「ああ、今日は何て良い日なのかな★」
「アッハイ今日は青空の澄みきった、とってもいい日ですね……っていてててて!」
頭を包帯ぐるぐる巻きにして、死んだ魚みたいな目で同意した千影は、呆れ顔の玲南に背中をぎゅっと抓られて悶絶する。
「何すんだよ!」
「大怪我した千影くんの手当てで野戦病院さながら状態の中央制御室を、青空が澄みきってると錯覚する千影くんの正気が迷子なのかなと心配でしたが、痛覚については正常なようですね★」
「戦禍で天井に大穴が開けられて青空が見える……ってゴメンなさいゴメンなさい冗談です冗談です! 天井が爆風ですっ飛ばされたわけじゃありません! 痛むから抓るの勘弁して!」
中央制御室の天井を遠い目で見上げる千影の右足を玲南が抓る。玲南が言う通り、プラントB棟中央制御室には血まみれの包帯やガーゼが散らばり、壁と床には大量の血痕が付着して、とっても殺伐とした空間になっている!
これは術者と新牢神父が繰り広げた壮絶な死闘の証である。怒り狂った千影の過酷を極める折檻にたまらず音を上げる神父。だが、新牢神父は千影の能力で実体化した存在である。術者である千影が神父を攻撃した場合、神父が受けたダメージが術者自身に跳ね返る。千影が両拳で神父の頭蓋骨をミシミシ言わせると千影の頭蓋骨も軋むといった具合だ。こうして、まるで親の仇とばかりに情け容赦なく死体蹴りを繰り返した千影は、神父へ与えたダメージで自分が大怪我を負ってぶっ倒れる結果を招いた。
おかげで怪我の手当てが大変だった。頭部からの出血が中々止まらず、玲南が治癒の歌を延々と歌い続ける羽目になった。顔面の結構な面積が血で真っ赤に染まり、頭に上った血が抜けて千影はすっかり大人しくなったが、手当てが一段落するや否や玲南がニコニコ笑顔で千影に凄み始めて修羅場第二ラウンドの幕開けだ。
「術者が自分で自分の能力を攻撃して跳ね返ったダメージで死にかけるとか、千影くんはちょっと自分の冷静さに疑問を持とうね★」
「はい、ごめんなさい」
素直に謝るしかない。玲南にものすごい迷惑と心配をかけてしまった自覚はある。操作コンソール前の椅子に座らされ、頭に巻きつけられた五線譜ワイヤーからエンドレスで流し込まれる治癒の歌でようやく傷は塞がり痛みも引いて気分が良くなってきたところだ。
ただ、玲南の説教がひたすら長い! 手当中の千影に対する毒舌が普段の三倍増しになり、現在もやりがい搾取なブラック企業と紙一重な説教が続いている。もちろん玲南には会社に命を差し出せといった社畜みたいな意図はない。
「まだ勤務時間中なんだからしっかり働く事を考えようね★ 職場でこんな大怪我したらお金も稼ぐどころじゃなくなっちゃうよ? これから傷口もきっちり塞いで、怪我の痛みや感染症の心配がなくなるまで玲南さんが治してあげるけど、今回の千影くんの行いは褒められたものじゃないんだよ? ほら、虎野さんも千影くんに言ってあげて……って、そこ!! 榛名ちゃんと留萌くんも揃ってニヤニヤしないの!」
「うん、確かに有東木君やりすぎたね」
「千影も反省するんだよ」
「そうそう、玲南と留萌の言う通り反省しな」
3人は知っている。これ以上神父を攻撃したらまずいと判断して玲南が止めに入ろうとした矢先、千影が目の前でぶっ倒れて、玲南が珍しく取り乱してぽんこつ化した事を。
「玲南ちゃんが包帯グルグル巻きすぎて千影が窒息しそうになってたけど」
「ちょっと留萌くん! 玲南さんの手当てが下手みたいにdisるのやめてちょーだいッ!」
「別にそんな事言ってないけど? 手当は丁寧だったよ、ただちょっと包帯巻きすぎだったっていうか」
……もしかして本気で危なかった? 千影の身体を冷や汗が伝っていく。
「あと、治癒の歌が途中でバグって家畜が市場に運ばれていく歌に変わって、千影が天に召されかけてたりな」
「はー? この玲南さんが歌を途中で間違えるとか、そんな事ありえません! 名誉棄損で榛名ちゃん訴えますよ!」
確かに包帯グルグル巻きにされて視界が遮られた記憶もあるし、気がついたら三途の川が見えてきた覚えもある。そして、もっと酷くテンパった玲南の姿……
千影がそう思った瞬間、猛烈な痛みが頭にのしかかってきた。
「れ、玲南さん? 歌を止めないで、痛みが痛みがぁぁっ!」
『そーだぞ少年。周りに心配をかけてはいけませんよ?』
「お、おおお前が元凶だろうがああああ!!」
操作コンソールから話しかけてきた神父(千影と同じく包帯グルグル巻き安静中)に、千影は激痛に呻きながら言い返す。そして叫び声の振動さえ悶絶級の痛みを招く。神父も千影の大声でダメージを受けて画面の中でひっくり返っている。
『あ、あのだな。私が萌え人面土器を作ったのははるか遠い昔の話だし、それを発掘した奴らに土器をどう使われるかなんて、当時の私にも現在の私もどうしようもない話だぞ』
「結界の残留思念を読めるくせに、数百年先の未来が読めなかったのかよ!」
『読めるわけねえだろ!! ダヴィンチが吉良吉影爆誕を想定しつつモナリザを描くかぁ!! 難易度の違いも分からないとか、義務教育やり直してこい!』
互いに大きな声で罵り合って大きなダメージを負ってたら世話ない。完全に呆れていた留萌だが、今の話で気になった事を口にする。
「亡者達を食べまくった萌え人面土器って、ウドンケンジョウレイ結界のパラノーマル駆除機能だったのかな?」
『……あぁ、その通りだよ』
留萌に静かな口調で問いかけられただけなのに、神父は頭が痛そうにしている。ダメージは深刻だ。
「パラノーマルの駆除機能って人間を襲うの? オレ達も襲われたし、何なら凪橋自身は食べられちゃったよね」
『いや、駆除するのはパラノーマルだけで、人間に危害は……』
言いかけたところで、神父の言葉が止まる。虎野も思い出したように内線電話に向かい
『もしもし、木南? ちょっと調べてほしいんだけど、あの凪橋って奴、今も収監されてるんだよな。出所してないよな』
え、本当に逮捕されてたの? というか、神父も虎野も、一瞬固まったのは何故?
「ちょっと、どういう事なのぜ? 誰か、わかるように説明するのぜ」
「玲南さん達を襲った凪橋は、本当に凪橋本人だったのかって事だよ★」
To Be Continued>
凪橋の過去に何があったのか。次回に続く。
もう一波乱あります。




